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  作者: ひじきとコロッケ
そろそろお金を稼いでもいいと思うんです
271/283

22-2

 そうこうしているうちに、開店時刻となった。


「レオナ様?」

「私は引っ込んでるわ。あとはよろしく」


 まかり間違っても「ただいまより開店です。いらっしゃいませ!」なんてことはしませんし、できません。少なくとも貴族という立場である以上は。


「では僭越ながら、私、ぐえっ」

「タチアナ、屋敷に帰るわよ」

「そんなっ!」

「何よ。目立ちたかったの?」

「いえ、違います」

「なら、何がしたかったのよ?」


 ズリズリとタチアナを店の裏手に引っ張っていくと、パンパンとスカートをはたいてからキリッとした表情でとんでもないことを言ってのけた。


「開店の挨拶はさておき、婚活してます。恋人募集中ですと宣言し「さっさと帰るわよ!」

「最後まで聞いてくださいよ」


 却下よ、却下。




 実に下らないやりとりをしながら屋敷に帰ると、既に用意は調っていた。


「とりあえず用意できたのがこちらです」

「ん、わかった」

「どんどん作りますので」

「ええ、すぐに取りに来るわ」


 手早くアイテムボックスに放り込むと、お店にとんぼ返り。馬車は使えない。我が家の馬車はクレメル家の家紋入りで目立ちすぎるからね。それに裏口の道は狭いから馬車は通れません。

 そして店に着いてみると、案の定、大混雑でした。

 とりあえず用意しているメニューはおはぎと唐揚げという、日本でこの二つだけを出していたら店長は頭が大丈夫かと心配されそうな組み合わせ。

 まず、おはぎの方は、おはぎ三個と紅茶のセット。おはぎはてんさい糖を使っているのでかなりコスト削減できている一品。で、紅茶はこのあたりの店でも普通に出されている、ごく普通の茶葉の中から渋みの強いものをチョイス。

 そして、揚げは下味なし。まだナトロージの生産量が軌道に乗ってないので仕方ない。で、クラレッグさんが試行錯誤して作ったソースをかけて食べるようになっていて、パンと野菜スープがつく。

 どちらも庶民の食事代としてはちょっと高めなんだよね。

 あと、このあたりの店でありがちな、テイクアウトもなしにした。これはお客の回転率を下げる(・・・)ため。テイクアウトだと次から次へとお客を捌かなきゃならないけど、イートインなら、食べ終わるまで客の流れは止まってくれる。

 テイクアウトのペースでお客を捌こうとしたら屋敷からのピストン輸送をしたって間に合わなくなってしまい、


「さっさと売ってくれ!」

「客を待たせるとは何事だ?!」


 なんてことになりかねないという、モーリスさんの懸念が当たったというか、うまくはまったというか。

 でも、世の中ってそううまく行かないのよ。


「申し訳ございません。ただいま満席でして」

「持って帰って食うから包んでくれよ」

「申し訳ございません。持ち帰りはお断りしておりまして」

「いいじゃねえか!買って帰って食いたいんだよ!」

「そうだそうだ!」


 ちょっとマズい流れかなと思ったら店長からこちらに助けを求める視線。

 仕方ないなあと一歩前に出る。


「お客様」

「あ?」

「申し訳ありませんが、当店は持ち帰りはお断りしておりますので」

「だから」

「お断りしておりますので」

「えっと」

「お断りしておりますので」

「……はい」


 仮面を外し、にっこりと微笑みながら説得。自分で言うのもなんだけど、こんな美少女に「ちゃんとおとなしく並んでね」と言われたら従うよね?


「さすがの威圧力です」


 余計なことを言うタチアナの頭にスパーンとハリセンが振るわれた。


「お疲れ様でした」

「お疲れ~」

「うう……足がパンパンだよ」

「あたしゃ腕が上がらないよ」

「それ、四十肩だから」

「は?あたしゃまだ三十代だよ」

「三十九は四十でしょ?」


 どうにか閉店時刻を迎え、客がはけたところで店を閉めて片付け。と言っても、皿洗い専門三名がフル稼働していたので、片付けはそれほどかからずに終わり、それぞれが家路につくのを見送った。

 若干、世知辛い会話が聞こえたけど、まあ、仲良くやってるようなのでいいか。


「私たちも帰ろうか」

「はい」


 タチアナと護衛騎士三名を連れて屋敷までの道を歩く。


「それにしてもすごい混雑でしたね」

「そうね」

「あれ、明日も続くんでしょうか」

「多分ね……」

「うへえ」

「マジか」


 うちの護衛騎士たちはもとはこの国の騎士団所属で、王都で祭りがあったりするとその警備にかり出されることもあったから、人だかりの扱いはなれている方だけど、そんな彼らがうんざりするほどだったかな?狭い店内という条件がつくとまた違うのかな?


「なんとかなりませんかね?」

「うーん」


 お客が来るってのは店にとってはありがたいことなんだよねぇ。


「今日はなんとかレオナ様の笑顔で収まりましたが、毎日レオナ様が店に顔を出せるわけでもないでしょうし」


 確かに。私はあの店のオーナーであって、従業員じゃないからね。開店当日ならともかく、毎日顔を出すのは違うと思う。


「とりあえず、モーリスさんに相談かな」


 屋敷に帰ると一足早く戻っていたモーリスさんから今日の売り上げの報告があった。


「来客数六百人以上って、多いよね?」

「はい。少なくともあの規模の店では多いというか、多過ぎです」

「いっぱいいっぱいだったもんねえ」


 食べ終わったお客さんがすぐに席を立ってくれたから良かったようなものの、そう出なかったらこんな人数は捌けないし、それ以前にイライラした人が暴れ出していたかもしれない。さすがに、実力行使はちょっとね、と思うし。


「おそらくですが、明日はもっと」

「え?」

「噂が噂を呼んで、という奴です」

「なるほど」


 早急な対策が必要、と。


「料理を作るのも追いつかず、客の数も多すぎ……どう考えても」

「別なお店を用意するべきでしょう」

「そうよねえ」


 言うだけなら簡単なんだけどね。


「今から使えそうなところを探して、人を手配して……無理ね」

「そうですね。突貫工事をしたとしても五日はかかります」


 五日で済むんだ……


「店舗はともかく人の手配はもう少しかかります……と言うか、今の店の時の募集よりもかかると思います」

「ですよね」


 今の店の店員募集、相当厳選したらしいからね。同じレベルの人を集めるとなると、他の街から集めないとならないか。


「とにかく私は商業ギルドに相談してみます」

「そちらは任せます。で、明日からですが……」


 一応、商業ギルドに許可を取って、道路にもテーブルをいくつか出すことにしつつ、屋敷からのピストン輸送をするくらいしか思いつかなかった。

 というか、全員疲れ切っていてそれ以上考えるのがイヤになってたのよ。




「お疲れ様」

「おつかれさま~」

「疲れた~」


 全員が家路につき、店長さんがガチャンと鍵をかける。


「お疲れ様」

「レオナ様こそ、今日もまたお疲れ様でした」

「私はただ往復してるだけだし」

「そうは言っても、馬車も使えず徒歩で何度もというのは」

「こう見えて体力には自信があるから」


 そもそもこちらに来てからずっと肉体労働だったからね。体力がなくてイマイチではあったけど、体を動かすことに抵抗はないのよ。


「私はもう歩きたくありませ「却下」


 タチアナの意見は聞いてないのよ。


「でも、これで五日目ですよ?いい加減うんざりしてい……ま……せん」

「よろしい」


 さすがのタチアナも私の放つ殺気には勝てなかったのね。

 そんなやりとりをしながら屋敷に帰ると、モーリスさんが待ち構えていた。


「商業ギルドから連絡がありました」

「お、何かいい案が?」

「あまりいい案とは言えないのですが、背に腹は代えられないというか……」

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