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「聞いている限り、聖女としての立ち回り、役どころは理解しているらしい。各地の慰問や祭礼での立ち居振る舞いは完璧だし、普段から老若男女問わずに笑顔で接する、聖女の鑑のような方だと」
「ほうほう」
「ただ何というか、姐御肌とでも言うのか?そういう感じなのと、可愛い物に目がないらしく、特に子供……孤児院の慰問は予定よりも長くどころか、日帰りのはずが泊まり込みになるほど好きらしい」
「私、成人してるんですが」
「見た目は全く成人していない様子、と伝わっているそうで、大層興味があると感想を述べたとか」
「ええ……」
「まあ、危ない人物ではない……多分」
そりゃそうでしょうよ。
って、そんなわけあるかーい。
充分すぎるほど危険人物でしょう!
何なのよ、鼻血出たって!絶対色々おかしいでしょう!
フェルナンド王国の法律、細かいところまで知ってるわけではないけれど、そばにいるセインさんが若干引いているので、犯罪か、犯罪ではないが倫理的にどうか、ということだろう。
聖王国でもその認識は多分正しいはずで、聖女サマが私に対して……ん?あれ?女性が女性にはOK?なら、大人が子供に……あ、私一応成人してるわね。
ということは大人の女性が大人の女性にというのは、何というか、個人の好みの範疇?
いやいや、鼻血が出そうとか言ってる時点でダメでしょ、色々と。そういうのは胸の内にしまっておくべきはずのもので、誰が見るかもわからない手紙に書いて出す物ではないはず。
あ……見られることに快感を覚えるタイプだと、それはそれでアリなのかしら?
結論。よくわからないけど、真っ当な対応をしよう。
「レオナ様、大丈夫ですか?」
「え?あ、うん。大丈夫」
しばらく硬直していた私を気遣ったセインさんに答えてから、手紙の返事というか対応をどうするか考える。
「殿下」
「何でしょうか」
「ここにはこう書かれてますけど、やっぱり返事は出すべきですよね?」
「え、ええ。一般常識に照らし合わせれば」
ですよねー
「私の方も神託を確認しなければならないので、訪問する日は保留で。その他は当たり障りのない文面で返事をお願いします」
「わかりました。日程は……」
「このあとすぐ、確認します。神託次第で日程は相談しましょう」
「わかりました」
うーん……神託って、もたらされる物という認識だったんだけど、既に御用聞きしてくる雰囲気になってるわ。まあいいけど。
それから少し、ざっくりとした内容を決めた。「いつでもいい」とは言われたが、日はキチンと決めるし、何なら先触れも出す。その辺は現地にいるラガレットの大使が手配、かな?
そして聖王都がどんなところかわからないけど、他の国の都市のように周囲をぐるりと外壁が囲んでいて、出入りするための門があるらしいので、その中の一つから入ること。門を護っているであろう衛兵さんとかに話は通しておいて欲しい。あとは聖王都に入ってからのこと。空を飛んでいくとか歩いて行くというのは何かとマズいし、土地勘もないから大使に迎えに来てもらって、それから馬車移動というのがセオリーかな?
こちらからは私とコーディの二人が向かう。状況次第ではあるが、泊まる場所の手配もお願いしたい。
食事に関しては特に食べられない物はないので、お任せ。
あと、私もコーディも礼儀作法は最低限に近いので、その辺りはご理解いただきたい。
「こんなところかしらね」
「いいんじゃないかな」
と言っても、そもそも聖女様から招待されるという経験のある者はここにはいない。と言うか、聖女様直々に招待というのは殿下は聞いたことがないとのことで、一般的な外国の上位貴族からの招待に対する返答を少々アレンジしただけ、らしい。
一通り話し終えたところで、殿下たちは文書を作るために帰る。何でも、聖女様宛となると色々あるらしい。面倒なことを押しつけてしまっているのは承知しているので、あとで何かお礼をしないとね。
「レオナ様、色々と報告があるのですが……まずはあちらですか?」
「そうね」
セインさんがチラッと見た先の私専用礼拝室。まずは神様に報告、じゃない、神様を問い詰めないとね。
「ということで、聖女って何なの?」
「なにが「ということで」なのかわからないけど、とりあえず聖女がなんなのか答えればいいのかな?」
「ええ」
神様の姿は相変わらずぼんやりしているけれど、とりあえず質問には答えてくれそう。
「ひと言で言えば、かなり変わった能力を持つヴィジョン持ち、かな?」
「かなり変わった能力のヴィジョン?」
「そう」
「どんな能力?」
「異界のことを知る能力」
「異界って、魔王がいる世界とか?」
「それもそうだし、地球のある世界もそう。そしてもちろんここ、神々の住まう世界も」
「おお」
「そうしたところから、今君のいる世界では到底知ることの出来ないことを知ることが出来る者、それが聖女」
「へえ、癒やしとかそういうのではないんだ?」
「うーん、その辺もあるけど……言ってしまえば、異界の知識を元に怪我や病気の治療をしたり、かな?」
「ああ」
なるほど。確かに医学という純粋な科学の一分野としてみた場合、地球の方が一歩どころか百歩くらい進んでいるような気がする。んで、そういう世界の誰でも知ってる基礎的な知識の中には全く知られていないようなものも多い。
わかりやすいのが手洗いうがいだろう。
もちろん、この世界の人たちだって、土で汚れたままの手で食事をすることはないし、何だかのどがイガイガするときにはうがいもする。だけどそれが病気の予防になるという知識はない。
病気になったら、その症状に合わせて薬草から作った薬を使ったり、治癒士と呼ばれるような人たちの治癒魔法を受けたりするのが一般的。
そして、感染力の強い病気を防ぐためにマスクをしたり、ということもしていないから、僅か数日で村が消えるほどの流行病というのは時折起こる。
その辺に関する啓蒙活動をしてもよいかと思っているんだけど、どうやら私の周囲には色々ダダ漏れなせいか、病気に罹る人がいないのよね。
しかも、その範囲は少しずつ広がっているような気がする。そう、例えば王都全体と開拓村全体、みたいに。
一家に一台というか、一国に一人、私がいれば病気知らずになるのかしら?それはそれであとあと問題になりそうだけど。
「で、今の聖女だけど」
「はい」
「どうやら魔王の情報をつかんでいるらしい」
「おお!……って、その情報、もっと前に欲しかったわ」
「そう言われてもね、どうやらここ数日で急に繋がったらしい」
「えーと、なんて言うか、聖女様のヴィジョン、ところ構わずに情報収集する感じってこと?」
「そうだね。そのイメージでだいたい合ってる。んで、魔王が世界と世界を繋いでこちらに来ようとしているという情報をキャッチした、というわけ」
「なるほどね。普段は違うんだ?」
「そうだね。何でもかんでも手当たり次第、そんな感じで、役に立つ情報を得ること自体が少ないみたいだよ」
「そんなんでも聖女になるんだねえ」
「百回に一回でも有用な情報が得られるなら、かな?あと、残りの九十九回も役には立たないけど害はない、という情報なら、と言う考え方らしい」
どの情報をあてにしていいのかわからなくなりそうなんだけど、私が心配することではないか。
「と言うことは、次の場所は聖女様に聞いた方が早い?」
「うん。こちらでも場所や時期はつかんでいるから伝えておくけど、二十日後には完全開通しそうだね」
「と言うことは既に繋がっている?」
「ああ。影響は出始めている」
「間隔が短くなってるわねえ」
「そこについては、少し新しい情報がある」
「お!」
「んだけど、そろそろ時間だね。次回にしよう……」




