20-3
「三日でなんとかなさい」
「そうだな。三日でも長いくらいだ」
あれ?おかしいな?私の味方が……いないような……
「あの、お店の工事がそんなに早くは終わらないと」
「人数を増やし、昼夜を問わずに作業を進めさせよう」
「そうね。優秀な大工はまだいるわ。すぐに手配を」
夜中も工事って、ご近所迷惑もいいとこだと思います。
というか、どうして私の店関連になると皆さん目の色が変わるのでしょうか。
「一つとても重要な問題が」
「何だろうか?」
「まだメニューが固まってません」
「ならば」
「あともう一つ」
「うむ」
「ウチ、人手不足なんですよ。現状でもいっぱいいっぱいで」
「ならば追加をしよう」
「王様?」
「うむ」
仕方ない。強攻策で行こうと決めて、仮面を外す。
「ウチの人員は今のところこれ以上増やす必要はありません。むしろ、現状で開拓村も含めて軌道に乗せるのでいっぱいっぱいです。ですので、そのあたりが落ち着くのをお待ちください」
語気強めに主張してどうにかこの場は収めることに成功しました。
何しろ材料の調達とか、店員の確保に教育とか、レシピの整理とか、やることだらけの上に開拓村だってまだ動き始めたばかり。人を増やせという意見はわかる。わかるけど、人を増やすと増やした分、管理する手間が増えるのよね。
ということで、スケジュールはクレメル家にとって無理のないスケジュール、とさせてもらった。その代わり、色々なメニューに期待してますという恐いコメントをもらってしまったが、そこはまあ……うん。
あとは私の今回のダンジョン遠征の報告をして終わり。そもそも色々問題が積み上がった件の対応の検討をするのは王様以下、色々と力のある貴族の皆様方の仕事のはずですよ?
そんなこんなでこの場を辞して帰ることに。
まあ、ゴードル王子がついてくるんだけどね。聖女様に出す手紙の内容について詰める必要があるからという名目で。
「日常会話くらいは出来るようになったみたいですね」
「ええ、頑張りました」
「引き続き頑張ってくださいね」
「もちろんです。いつか私の「ラガレットからの大使という役職になるのでしょう?」
「えっと」
「違いますか?」
「レオナ様」
「名前だけ貴族ですから、敬称はいりません。どうぞ「そこの小娘」でも「おい」でもお好きなように」
よし、固まったね。
お付きの方二名がなんとか復活させようとしている間に我が家に到着。さて、少しは真面目にお仕事しましょう。
「そもそも、聖女様ってどんな方なんでしょうか?」
そう、まずはそこから。こちらが「ではお会いしましょう」と手紙を出すにしても、どんな方なのかによって書き方は変わる。この場合のどんなというのは立場的な意味もあるし、人柄としての意味もある。
ルミナ聖王国がどんな国なのか知らないけど、王国とついている以上、王様はいるのだろう。では、その王様と聖女様、どちらが上なのか。
政治的な実権は王様が握っているけど、聖王国と名乗っている以上宗教の影響力は大きくて、聖女様が「そんなのダメ、こうしなさい」と発言したらその通りになるとしたら王様よりも偉いと言うことになる。一方、聖女というのが単なる役職的な物で、王様が「今日からお前が聖女な」と任命するような国だった場合、聖女様より前に王様に一言断りを入れなければならないだろう。
そして、聖女様の人柄として、慈愛溢れる文字通りの聖女様なら手紙の文面も柔らかめにして「是非とも一度お会いしたい」みたいにするけど、「私が聖女よ、文句ある?」的な場合、「会うには会うけどこっちの都合に合わせろよ」みたいに一歩も引かない姿勢も大事だとか。
その辺の駆け引きの詳細を決めるのは私には無理なので、我が国よりも聖王国の事情を知っているであろうラガレットに基本方針は決めてもらうのが良い。そして、その基本方針に従って、どういう文面の手紙を出すか、会ったときにどう振る舞うかということを相談して準備万端にしないとね。
「まず始めに一つ断っておくことがある」
「何でしょうか?」
私の執務室で向かい合い、ゴードル王子が書類を見ながらいきなり断りを入れてきた。
「私自身が、聖女様と直接面会したりしたことがないから、何というか……人となりは伝え聞いたものでしかない。実際に会ってみると、実は違うと言うこともあり得るとして聞いて欲しい」
「なるほど。それはわかりましたが、実際に会ったかたというのは殿下から見て信用できる方ですか?」
「それは間違いない。だからこそこうして聖女様についての情報を共有する場を設けさせてもらった」
「ならいいでしょう。どんな方なんですか?」
「実は、さっき出さなかった手紙がこちらに」
「出さなかった?」
それは少し問題ですね。聖女様だけでなく、フェルナンドからラガレット、私から王子の信用を損なう行為ですねと、私の表情が険しくなり、王子の表情が少し暗くなる。
「こちらに」
そう言って一枚の紙がスッと出された。
「手紙は三枚の紙に書かれていて、その内二枚が神託についてと、一度会って話がしたいという内容。もう一枚が実に個人的な内容、となっていた。訳さなければならないことを承知の上で、できるだけ本人以外には見せないようにして欲しいと書かれていたのでその意向に従ったわけなんだが」
「そういうことなら仕方ないでしょうね。拝見します」
受け取りながら、とりあえずそういう経緯なら王様もいる場で出さなかったのは仕方ないかと納得しつつ、内容を確認。
「ぶっ!」
「!」
最初の数行で吹き出してしまい、王子を驚かせてしまった。
「これ、本当にこんなことが書かれていたんですか?」
「間違いない。私は北部語はあまり堪能ではないのだが、ある程度の意味は取れるからわかる。その訳は正しい」
「ほ、本当に?」
「……実際にはもう少し砕けた感じらしいが、さすがにちょっと、と意訳した内容になっている。申し訳ないが、我が国の通訳にできるのはそれが限界だと思って欲しい」
意訳してこれなら、原文はいったいドンだけなのよと読み進める。が、やはりかなりキツい。
何がどうキツいのか。ぶっちゃけ、砕けすぎなのよ。
書かれているのはざっとこんな感じだった。
聖女の役割的に神託がどうのこうのはまあ、仕方ないと思ってる。実際にあちこちのダンジョンで被害が出ているから、事実だろうし、ロアとか消えたしね。支援とか面倒なのが増えてて、魔王マジ許さんって感じ。
ダンジョンから侵攻してくる魔王を退けているあなたのことは報告を受けました。とても可愛いと聞いたのですが、是非会いたいです。愛でたいです。あ、ゴメン、ちょっと鼻血出た。とてもちっちゃいって聞いたので興奮が止まりません。アポ無しでいいからどんどん来て。あ、入国の時に同封した紙を出せば、ノーチェックで私のところまで来れるから。
意訳してこれって、本当に原文はどんななのか。コーディなら訳せそうだけど、恐いからやめておこう。
「えーと、これってつまり、事前連絡無しでいいよ、って事でしょうか?」
「そういうことになる。表向きの紙にはきちんと書かれていつつ、こっちにそうやって書いてあると言うことは、それなりに立場とか色々考えてのことだろうが……」
「ええと、ずいぶん破天荒な方なんでしょうか?」




