20-2
城へ着くとそのまま王様の執務室へ通された。
そこに待ち構えていたのは、私がここに来るとだいたいいるメンバー――オルステッド家の面々とすっかりこの場になじんだラガレットのゴードル王子――に新顔が待ち構えていた。
「まずは報告ですが、詳細はこちらに。色々ありましたが、ダンジョンコアを破壊。どうにか魔王軍を退けました」
「それはあとで確認しよう。それよりも、だ」
えーと、私が関わることでダンジョンコア破壊よりも優先されることって何かしら?これで、お店のことだったらさすがにちょっと、と思う。
「こちら、新しく就任した教会の司祭長ジェファスだ」
「えっと……はい。レオナ・クレメルです。以後お見知りおきを」
「ご丁寧にどうも。紹介に与りましたジェファスでございます」
何で教会のトップがここに?一応、フェルナンド王国は宗教と政治は切り離されているというか、教会の運営に国は直接関わらないというスタンスだったはず。それが新しく司祭長に就任したからといって、私が来る場に呼ぶ必要性って、無いような気がする。
光るとか、コーディのこととかあるけど、それはそれ、だし。
「実は、その……今日、ここに私がおりますのは、私の方から頼み込んだことでありまして」
「はあ……えっと、教会を光らせて欲しい件でしょうか」
「いえ!それはもう、なんとかすることにしましたので」
「はあ」
それならどういう用件?
「こちらです」
そういって、手紙を差し出してきた。既に封が開けられているし、宛先……読めない……うーん、これはどうすれば……
「それについては私の方から」
ゴードル王子が別の紙を差し出してきた。
……一応、通訳を介さずに話している辺り、相当頑張ってるっぽいね。
「ええと、これは?」
「手紙は北部語で書かれていたため、こちらで訳したものです」
「ふーん」
宛先はフェルナンド王国の教会司祭長宛て。つまり、私宛でもなんでもない手紙を私に読めという時点で、機密性は低いのだろう。というか、そもそもフェルナンド王国以外の者に訳させている時点で機密も何もないのだろう。
「ええと……は?」
最初の数行で変な声が出た。
「あの、これ……どういう……こと?」
「そのままの意味で良いかと思われます」
「私には……その、ルミナ聖王国の聖女様が私を呼んでいる、と読めるのですが」
「ええ、ですからその通りの意味かと」
一度深呼吸。落ち着いて先を読もう。
「は?」
また変な声が出た。
「あの……聖女様が神託を受けて、こちらにあるダンジョンをどうにかしなければならないとわかった、と読めるのですが」
「おそらく、そのままの意味でよろしいかと」
神託って私以外にももたらされるんだね。
「基本的な質問なのですが、聖女様ってどういう方なのでしょうか?」
「ええと、その……私たちにも、何と言っていいのか」
そりゃそうよね。この国の実情からして、他の国のことなんてわかるわけがない。たとえそれが同じ神を信仰する同じ宗教だったとしても。というか、聞いてみると、聖女という存在自体知らなかったらしい。一応、教典には過去にそういう人物がいて人々を救った、みたいなエピソードはあって、私も目を通してみたよ。なんて言うか、よくある「こういう奇跡を起こした」みたいなののオンパレードで、世界が違ってもそういうものなんだなと思ったもの。で、現在も聖女がいるというのは私はもちろん、教会も知らなかった、と。
ちなみに数年に命がけで一度行き来してたような人たちは、聖女様のことなんてひと言も伝えてなかったらしい。ある意味、行き来するだけで精一杯のイベントだったはずだしね。今後はその辺も改善されていくのだろうけど、それはそれとして、まずはこの神託だ。
「私としては」
王様が口を開いた。
「レオナ様以外にも神託がもたらされていたと言うことに驚いたな。その辺り、どう思われますか?」
「どうと言われても、私にも何が何だか」
次に神様に会うとき問い詰める項目一覧に追加しておかねば、というくらいかしらね。
「しかし、ダンジョンという単語が出てくるという時点で、信憑性は高いのではないかと思うのですが、いかがかな?」
「それについては同意します」
問題というか、疑問というか、どこまで事情をつかんでいるか、というくらいかな。
「教会の情報網はちょっとしたものがある」
ゴードル王子が言い切った。
「ほとんどの国の教会に聖王国から派遣された者がいて、世界中の情報を把握している、とも言われているからな」
「へえ」
「それにロアと聖王国はそれ程離れていない。ロアが消えた件についても、当然知っているだろうし、ロアからフェルナンドに来なかった者たちがそれなりに聖王国に移っているだろう」
「それなりに色々知っているのは当然ってことね」
それを踏まえた上で、何のために呼びつけようとしているのだろうか。
「私の受けている神託が偽物だ、と糾弾しようとしているとか?」
「可能性はゼロではないが、限りなく低いと思う」
ゴードル王子がやんわりと否定する。
「直接会ったことはないので、断言は出来ないのだが、聖女様は非常に穏やかな方で、誰の意見にも耳を傾け、頭から否定して入ることはしないそうだ」
「よく出来た方、ということでしょうか?」
「そうだな。もちろん、悪いことは悪いと断定されるそうだ。ああ、一応言っておくと、悪いこと、というのは世間一般で言うところの悪いこと、らしい」
「人の物を盗んだり、暴力を振るったりしてはいけません、というような?」
「そうだな」
普通の常識を備えている人格者、というところでしょうか?
「神託に関しては?」
「聖女様以外が神託をもたらされたという前例がないので何とも言えないが、その内容が「ダンジョンから魔王が軍勢率いて攻めてくる」だし、実際に魔王の手下がやってきているわけだから頭から否定はしないだろう」
宗教ガチガチで固い頭ということではなさそうなら、話をしても大丈夫かな?
「じゃあ、行ってみましょうか」
そこからの話はトントン拍子。とは言え、相手は聖王国という教会総本山のような国で、聖女となるとそのトップに等しい方。いきなり押しかけていくわけにはいかないので、ラガレット経由で「いついつに伺いますがよろしいでしょうか?」というお伺いを立てる必要がある。
「至急、我が国の大使に連絡を取って手配をかける。そうだな……最短で五日後でどうだろうか?」
「私は構いま「ダメだ!」
王様からダメ出しがでた。
「レオナ様、いや、レオナ・クレメル」
「は、はい」
「今最優先すべきことは……新メニューを店で出せる体制を「王!」
さすがに宰相さんが切れた。
「それは最優先すべきことではありませんぞ」
「しかしだな」
「他の何を差し置いてでもすべきことです」
あなたもそっち側?!
さすがにそれはない、とファーガスさんたちが睨み付けた。そりゃそうでしょう、外交問題というか、おそらく聖女様のところにダンジョン関連、魔王関連の情報がもたらされているならそっちの方が優先度は高いはずで、私の予定自体、そちらを軸に調整すべきこと。
これが聖女様側から「ではひと月後に」という回答でもあったのなら、店のことも考えるけどね。
「レオナちゃん」
「はい?」
エリーゼさんが真剣な目で見つめてきた。




