19-14
「ラハムも帰るの?」
「そうだな……ハア、色々面倒になりそうだ」
ラハムとは向かう方向が同じだから、途中まで一緒に行くことにした。んで、後悔した。コーディと二人で。
「なんじゃこりゃあああ!」
「うるさいわよ!」
「これが驚かずにいられるか!」
「一人で静かに驚いて!」
我ながら無理を言っている自覚はある。けど、ドラゴンの大声って、小屋がビリビリ震えるのよね。これ、もうすこし頑丈なのにしてもらわないとダメかも。
で、ラハムが何に興奮しているのかというと、空飛ぶ速度。
私のヴィジョンの速度も大概らしく、飛び立って早々にラハムが「速いな!」と驚いていたんだけど、あとに続いて飛び始めた当人、いや、当ドラゴンが「うわっ!何だこれ!」と騒ぎ出した。
どうやら私の治癒魔法の結果、飛ぶのも随分速くなったらしい。
「これ、この辺で一番速いパータよりも速いかもな」
パータが誰か知りませんけど、長年生きてるラハムが言うなら、結構な速さなんだろうね。
「うおおおおお!」
「ああ、もううるさい」
「叫ばずにいられるか!こんな、こんなにも力がみなぎってくるとは!」
何か、私の治癒魔法、変な効果がついてるのかしらと、思わず鑑定してみた。
聖竜 ラハム・クレメル
これ、絶対ダメな奴!
何で?何で私の姓がついてるの?!
レオナ・クレメルの眷属
もっとダメな奴!
……聖竜という単語は見なかったことにしよう、そうしよう。
ということで、小屋が崩壊しないように気をつけながら飛ばしている内に、ラハムの縄張りに入ったらしい。
見た目では全然わからないけど、ラハムが「では、我はこの辺で」と言っているので、そうなんだろうね。
「じゃ、くれぐれも人族に迷惑をかけないようにね」
「ぜ、善処する」
「はっきりと「わかった」とか「任せろ」って言いなさいよ」
「それが出来れば苦労は……ほら」
「ん?」
「さっき言っただろう?あれがパータだ」
ラハムの示した先、青い鱗のドラゴンがこちらに向かってくるところだった。
「って、こっちに来るの?!」
私たちの小屋まで真っ直ぐ一直線!逃げる……と、多分小屋が崩壊するので、慌てて物理防御最大の結界展開。
ガンッ
こちらが全く移動しないように固定していたのと、ちょうどど真ん中に突っ込んできたせいか、突っ込んできたドラゴンは衝撃で一瞬縮んで……落下していった。なんていうか、アザラシが水槽の壁にドスンとぶつかるみたいな映像を見せられました。可愛げが全く無いのが残念ポイントね。
「……何か、すごいな」
「えーと、ごめんなさい?」
「謝る必要はないと思うが」
そんなやりとりをしていたところに、どうにか立ち直ったらしいドラゴンが飛んでくる。
「貴様!俺の邪魔をするか?!」
「ぶつかって殺す気満々だった人に言われたくないわ」
「何だと?たかが人間風情がドラゴンに文句を言うつもりか?」
「その人間風情の張った結界で墜落したのはどこのどなただったかしら?」
売り言葉に買い言葉……って、喧嘩する相手は私じゃないと思うんだけどな。
「パータ、貴様、何のつもりだ?」
「お前のようなどこの誰ともわからん者に呼び捨てされる謂われはないんだがな」
パータの名前を既に知っているという点は突っ込まないんだ。
「我はラハムだ。お前が知っている姿とは変わってしまったがな」
「ラハムだと?名を騙るのも大概にしろ」
「いや、パータよ、本当に我はラハムなんだが」
「口調を真似したとして騙されるものか!」
うん、パータの名前を既に知っているという点は(略)
「問答無用だ!お前がラハムだというならその力を示して見せろ!」
ブンッと風を切る音がしたかと思ったらラハムのすぐ後ろにパータが。そして、そのまま尻尾を叩きつけると、ズドンとラハムの巨体が地響きを立て、周囲の山が少し崩れた。さらにそこにパータがドスンと体全体で追撃。今度は地面全体が揺れた。
まさしく怪獣大決戦ねえ。
「フン、口ほどにもない」
ラハムはというと、「グルル……」と小さく唸りながら、ゆっくりとパータを見上げる。
「どうした?ラハムの名を騙るなら、少しはその片鱗を見せてみろよ!出来ないだろ?!そりゃそうだよな!偽物なんだからよ!」
パータの煽りにラハムは少しだけ頭を振り、再びパータを見上げる。
「忠告する。避けろよ」
「は?」
言うなりラハムは口を開き、ブレスの体勢へ。そして口の前にバチバチと放電する球が現れたかと思うとすぐにビームが放たれる。そしてそのまま首をスッと横に振るとビームがスイッと薙いでいく。
「おっと、どこ狙って……ん……だ?」
ラハムがブレスを放った方を見たパータが固まった。
「えーと……」
「今のはわざと外した。次は当てるが、覚悟はいいか?」
ラハムのブレスはすぐそばの山の頂上付近に当たり、ラハムが首を動かしたとおりの軌跡で、蒸発させていた。砕いたとか溶かしたではなく、蒸発である。その断面部分は赤熱したままで、シュウシュウと蒸気が上がっているが、果たしてその蒸気は水なのか、それとも溶けた岩が気化しているのか。鑑定すればわかるかも?しませんよ?
「な……な……」
「もう一度問う。覚悟はいいか?」
「さ……」
「さ?」
「サーセンっした!」
ドラゴンも土下座するんだね。
その後ラハムが「いいからもう帰れ。あと、我の姿が変わったこと、他の者にも伝えておけ」とパータを追い払った。何でもパータというドラゴン、自分が負けた相手を「兄貴」と慕い、うるさくつきまとうのだとか。追い払えば、つきまとうのは諦めるけど、会う度に「兄貴!」と呼ぶので暑苦しいんだって。
ドラゴンなんてラハムを筆頭に脳筋だらけかと思ったら、その中でも飛び抜けてるのはいて、鬱陶しいと思うドラゴンもいるんだね。
「はあ……しばらくはこれが続くんだろうな」
「え?」
「パータは見ての通り、あんな感じだ。我の姿が変わったと他の者に触れ回ったとしても、多分誰も信じぬ」
「ええ……」
「そして、本当かどうか確かめようというのがゾロゾロやってくるだろうな。全く、今から気が重い」
「が、頑張って」
「はあ……」
ジロリとこちらをラハムが見る。
「お主にも責任があること、わかっているか?」
「原因を作ったのは私じゃないから、文句を言われても困るわ」
「ぐぬぬ」
そう、確かにラハムの姿が変わったのは私の治癒魔法のせいだろう。だが、治癒魔法を使わざるを得ない状況にしたのは誰か?あの、特に名前も聞かなかったケンジの使い魔の魔族であり、そんなのをこちらに派遣してきたり、穴を開けたりしているケンジとかいう奴のせい。
ラハムが被害者だというなら、私だって被害者だ。そもそもケンジがこの世界へ侵攻しようとしなければ、私がこの世界に転生してくることもなかったはずだし。
といっても、そんなことを言って通じるような人もドラゴンも周囲にはいない。異世界転生?何それ?だろう。確認したことないけどね。
「さて、それじゃそろそろ私たちは行くわ」
「ああ。達者でな……できるだけこの辺りに来ないでくれ」
「何その、もう二度と会いたくないぞ、みたいな言い方」
「……だってなあ……面倒事ばっかり起きてるし」
「だから私が原因じゃないでしょう?」
「だが、傍目にはお主が動いた結果にしか見えんし」
ひどい言われよう。
「とりあえず、ドラゴン同士の喧嘩がしばらく続くってことね?」
「まあ、な」
「くれぐれも」
「わかっている、なんとか周りへの被害を抑えるようにする。我とて縄張りを更地にしたいとは思っておらん」
スピード自慢のかませと言ったらバー○




