19-12
「うわ、まだ足りないか」
いったいいくつ食らったかわからない打撃は内臓奥深くにも深刻なダメージとなっているようで、私の治癒魔法でも治るまでにかなり時間がかかった。
ぶっちゃけ、ドラゴンって「それ、どういう目的の器官なの?」という内臓器官が多いのよね。そして、そういうところがごっそり魔力を持っていく感じなのでさらに時間がかかる。
そして内臓が一通り回復すると、外側も徐々に治っていき、やがて両前脚も元通りになった。
「ふう、こんなもんかしらね」
途中から意識が戻ったらしいラハムがゆっくりと体を起こす。
「他、ハンターの皆はどうかしら?」
「レオナ様」
「びっくりして腰が抜けたとか、そう言うのは治せないけど」
「レオナ様」
「あと、チビッた系も各自でね」
「レオナ様!」
「コーディ、何よ?」
「現実を直視していただきたいのですが」
「イヤ」
「はあ……ラハムさんもちょっと戸惑ってるじゃないですか」
「そう言われても」
元々のラハムは、何と言えばいいのか、ちょっと赤いコモドドラゴン、という感じだった。それが私が治癒魔法をかけた結果、全身が金色に。
もちろん、金ぴかに輝いていると言うことはなくて、鈍い金色って感じ。ちょっとカッコいいかも。
「レオナ様?」
「ああ、うん……なんて言えばいいのか……ラハム?」
「う、うむ……」
「とりあえず、どっかおかしいところはない?」
「色、以外は」
「そう。なら……問題なしね!」
「「「大ありだと思います!」」」
コーディだけじゃなく、ベアトリスさんにハンターさんたちも突っ込んできた。コーディが訳してくれなかったけど、コーディと同じことを言ったんだと思う、多分。
「はあ……しょうがない。ラハム、調子はどう?」
「うむ。特にこれと言っておかしなところは」
「ならヨシ!」
「あ、いや強いて言うなら「痛いところとかは?」
「な、ないな」
「どこかこう、傷が塞がった関係で突っ張るようなところとかは?」
「それもないな」
「変に動悸がすごいとか、お腹の具合がおかしいとか」
「ないな」
「うんうん」
「だが、その強いて言う「問題なしね!」
「えっと……」
「問題なしね!」
「あ、はい」
「と言うことでコーディ、何か言いたいことは?」
「ラハムさんの色、どうにかなりません?」
くっ……こだわるなあ。
「どうにもならないというか、どうしてああなったのか、私にもサッパリよ」
「ええ……」
いや、まあ、その、なんというか。なんとなく予想はつくのよ。
ドラゴンは魔物に分類される生き物だ。
魔物とそうでない生き物はどこに違いがあるのかというと、体内に魔石があるかどうか、らしい。
最弱の魔物とも言われるゴブリンでさえも体内に小さな、子供の爪ほどの大きさの魔石を持っている。それがなんのためにあるのかは不明。誰も研究しないからね。ただ、ある程度予想されているのは、その魔石が魔物が活動するエネルギー源になっているということ。要するに彼ら魔物は食べた物を魔力に変え、魔石に蓄えていて、その魔力で生命活動をしているらしい。
……この辺は、今度神様にでも聞いてみようかしらね。
それはさておき、先ほどのラハムの状態は、まさに瀕死の状態。
ざっと体の八割近くが損傷していて、魔石の魔力もほぼ底をつきていて、魔物が持つ自己治癒力――そういうものがあるらしい――も機能しない、まさに死ぬ一歩手前から踏み出しかけていた状態。
そこに私が治癒魔法を流し込んだ。それはもう目一杯に。流し込まれた魔力は体の隅々まで行き渡り、傷を癒した。
ここまではいい。
問題はその先。
今まで私が治癒してきたのは人間ばかり。んで、傷が治ると治癒魔法自体が跳ね返されるのよ。「これ以上治すところはありません」みたいな感じで。
今回それがなかったので、まだ足りないのかとジャンジャン治癒魔法を流し込んだんだけど……多分、魔石に吸収されたっぽい。で、魔石の中の魔力が全部私の魔力で満たされた結果、体全体を巡る魔力も私由来の魔力になり、体の色が変わった。そんな感じだと思う。
あくまでも仮説よ、仮説。いくら私の力が神様由来のチート系だとしても、いくらなんでもそこまでは……うん、無いと断言できなかったわ。
おそらく害はないと思うけど、念のために神様には聞いておこう。
「といったようなことがありまして、こうなったのです」
「わかりました……」
ラハムのことは一旦置いといて、帰って報告するためのメモを書きながら、ベアトリスさんにダンジョン内で何があったかを伝える。
周りでハンターたちが「そんなことがあったのか」と興味津々で手許をのぞき込んでくるけど……フェルナンド語だから読めないと思うよ?
「何か質問は?」
「このダンジョンは……その……もう」
「洞窟という意味では穴が残ってるけど、今までのダンジョンみたいに魔物が常に闊歩してるということはなくなるわね」
「そうですか……はあ」
「プラーツって他にダンジョンはないんだっけ?」
「ありません。そして、土地柄ということもあって、結構ダンジョンに依存している部分はありました」
「なるほど」
鉱物資源は豊富だけど農業面では弱いというプラーツではダンジョンからもたらされる物はかなり重要だったのね。
「ダンジョンで見つかる物も重要ですが、ダンジョン目当てのハンターたちも重要なのです」
「ん?」
「ここのダンジョン、駆け出しを卒業したくらいのハンターからベテランまで層が厚かったのですよ」
「ええと……今ここにいる以上にたくさんのハンターがいた、と?」
「そうですね。正確に数えたことはないと思いますが、だいたいこの三倍以上はいたと思います」
「私、ダンジョンとかハンターの事情に疎いんだけど、それって多いの?」
「ええ、ダンジョンの立地、規模的にはかなり多いと思います」
領地の中央に位置あるので他領から来ることはほとんどなく、大きな街からちょっと外れているという微妙な立地なので、普通ならこんなに大勢のハンターが来ることはないんだって。まあ、どういう理屈か私にはちっともわからないけど、そういうものらしいのでそこは納得しておこう。
と、まあ、それくらい程々の難易度で中の広さも程々、潜ってもすぐに帰ってこられる上に結構稼げると人気だったとベアトリスさんが説明すると、周りのハンターたちも「その通り」と頷いている。
「つまり、ダンジョンがなくなったことは結構痛いというワケね」
「はい」
ハンターがダンジョンに潜るための道具類を用意することで近隣の街や村にお金が落ちる。ダンジョンから素材を持ち帰るとそれらの素材があちこちへ流通していくのと同時に、ハンターたちが「無事に帰ってきた」と乾杯して飲み食いし、お金が落ちる。
農作物や鉱山から算出される鉱物資源が結構な規模で経済を回している一方、ハンターの活動もこれだけの人数になると馬鹿にならない規模になる。
「それにそもそも、他のダンジョンを知らないんだよな」
「そうそう。どこにあるか全く知らん」
それでいいのかハンターたちよ、と思ったけど、ここのように駆け出しからベテランまで門戸の広いダンジョンというのは珍しいらしい。
「じゃあ、こういうのはどうかな?」
色々実行しようとしたら、王国のいろんな人に許可もらって回らないとダメだけど、それで済むなら、と言う程度の内容を提案。「あくまでも、ほんとうに実現されるなら」という前提付きで「それなら、まあ」と言ってもらえた。




