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  作者: ひじきとコロッケ
今度はちゃんと色々準備してダンジョンに行きます。フラグじゃありません
230/283

19-8

 グチャッという音がして、ボドスとコアルがリーザの振り下ろしたハンマーで潰され、同時にそれでも余波で残っていたコアルの攻撃がリーザをズタズタに引き裂いた。


「ぬおぉぉっ!効かん!」


 しかし、そこまでやってもボドスがほぼ無傷。何という頑丈さだろうか――私も似たようなものだという自覚はあるよ?――と感心するよりほかない。


「ぐ……ぐぐ……」

「おのれ……」


 なんということでしょう。コアルとリーザも生きていたのです。


「頑丈ねえ……」

「ふふ……これでも……魔王様直属の


 水魔法レベル八 氷結領域


「なっ……」

「くっ……」

「がっ……」


 なんか文句がありそうだけど、聞きませんよ。残念なことにこれ戦争なのよね。こっちの世界とあっちの世界の。正確に言うと勝手に侵略してくるのを防衛している個人戦かな。まあ、細かいことはどうでもいいでしょう。

 彼らには火の魔法しか見せていなかったし、あちらの世界に放ったのも火魔法のみなので、火に対する対策は立てていたのかも知れない。例えば、火に対する耐性が高い者だけ編成するとか、そういう防具を身につけるとか。そして実際に戦ってみるとそこら中に火球をばら撒く雑な戦い。そして火そのものの攻撃、つまり熱いとか燃えるとか言うのは耐えられても同時に発生する爆圧には肉体の強度で耐えるという作戦だったのかも知れない。だけど、全く逆の凍らせる魔法が放たれたら?結果は見ての通りの氷像三つ。かすかに意識があるのか、視線だけでこちらを追っているようだけど、この魔法ってしばらくの間範囲内を凍らせ続けるの。私以外。


「ケホッケホッ」


 まあ、水蒸気が凍り付いたのを吸い込んじゃってむせるのが欠点ね。さっさと片付けましょうか。


「では、覚悟!」


 グッと両脚を踏ん張って構えるとボドスの目が明らかに怯えた。全く、さっさと体の芯まで凍り付けば楽なのにね。


「たあっ!」


 私の振りぬいた拳は凍り付いたボドスの体を真っ二つに叩き割り、地面に落ちたボドスは粉々に砕け散った。


「次はこっち!そしてこっち!」


 続けてコアルとリーザも叩き割り、最後に残った膝から下を足払いで砕いた頃、魔法の効果が止まった。あとは放っておけば徐々に元の温度に戻るでしょう。


「寒っ」


 前に使ったときは外だったから、すぐに周りの空気と混ざるし、陽の光もあったからすぐに元通りの気温になったけど、ダンジョン内だといつまで経っても寒い。が、これはこれで、生き残りがいたとしてもすぐに絶命するという服地効果が期待できるのでそのままにして、奥へ向かう。




「まあ、そうなんですか?」

「うむ……全くもってひどい話なのだよ」

「ベアトリス様、それはこのドラゴンの勝手な言い分です」

「え?」

「レオナ様には人はもちろん、このようなドラゴンも含めて無闇矢鱈と害するような意志はございません」

「ええと……」

「我、ドラゴンなんだが?」

「レオナ様が軽くステップするだけで踏み潰される程度の存在だと聞いていますが」

「小娘……我を何だと思っているのだ?」


 待っている間……ベアトリスがここで待っている意味はあまりないのだが、それでも「待ちます」というので好きにさせていたら、暇を持て余したドラゴン、ラハムと妙に話が弾んだ。それ自体はいいことだろう。代行とは言え、この地の領主とすぐそばの山脈を縄張りとするドラゴンが友誼(ゆうぎ)を結ぶのはいいことのはずと見ていたら、なぜかあのドラゴン、このコーディの主であるレオナ様の悪口を言い始めた。

 あることないこと並べ立てるというのならまだしも、そもそもの付き合いが短すぎて事実として述べられることなどほとんどないせいで、嘘八百がつらつらと出てくる。どう考えても日頃のストレス発散でもしているかのように、全く無関係なことまで言い出す始末。「例えばこんなことが」と三年前の出来事などを持ち出しているけれど、レオナ様の三年前って聞いてる限りではどこぞの開拓村――流行病のせいでほとんど壊滅状態と聞いている――で一人暮らしをしていた頃のはず。しかもその頃のレオナ様はひ弱な、年相応どころか年齢未満の体力しかなかっただろうと聞いているので、根も葉もない嘘というのは誰が聞いても明らか。と、憤慨してみたが、よく考えたらレオナ様の過去――といっても単純に過去と言うだけで、黒歴史の類いではない――を知っているのなんて、ここには私一人だけ。そして私がひとり憤慨しても、ラハムはこう言うのだ。


「ホレ見ろ、図星だからああして憤っておるのだ」

「ぐぬぬ……」


 こういうときに美味い返しができないから、私の教会での役割は潜入工作の類いだったのを改めて思い知らされる。こういうときにどう返せば……あ、これはどうだろうか。


「いいのかしら、そんなことを言って」

「ん?我を脅すのか?本来ならお前など塵も残さず消し去れるのを仕方なく生かしているのだと気付かぬか?」

「ふーん……これ、何だと思う?」

「ん?糸、か?」

「ええ。私のヴィジョンよ」

「ヴィジョンか、珍妙な能力よの」

「コーディさんは糸を出せるのですね……って、それ、教えても大丈夫なのでしょうか……ここにいる皆さんが知ってしまいますが」

「ええ、構いません」


 だって、今から言うの、嘘なんですもの。


「さて、この糸なんですが……レオナ様に結びつけてあります。ヴィジョンなんで、レオナ様側の方が伸びているのでわからないと思いますけどね」

「はあ……」

「それがどうした?」

「何をしているかというと、レオナ様の懸念、外が無事かどうかの確認のためです」

「外が無事かどうか?」

「ええ。さっきのような魔物や魔族が出てきて、そこのドラゴンでも対処できない自体になったらすぐに気付けるように、と」

「フン、この我に対処できない相手など……」


 レオナ様に手も足も出なかったのを思いだしたらしくちょっとラハムが口ごもった。


「で、この糸……私の周囲の音を拾っているんですよ」

「な、なぬ?」

「まあ、今のところは?ここが何ともないって事は伝わっていると思いますけど?そのあとどうなるか?はあ……気が重いですわ」

「な、ななな……何を言い出すんだ?」

「レオナ様、普通にドラゴンを狩って持ち帰ったりすることがあって」


 そんなことはありません。


「何?!も、持ち帰る、だと?!」

「ドラゴン素材も、何回も続くと王都でもなかなかさばききれなくて」

「な、何回も?!」

「正直なところ、ドラゴン肉のステーキ、食傷気味なんですよねえ……」


 その後、ラハムが特にどこかに繋がっているわけでもないし、音を伝えるような能力もないコーディの指先から伸びる糸の前で土下座しながらひたすら謝り続けるという不思議な状況に、さすがにやり過ぎたと後悔した。ドラゴンの土下座がおこす風圧が想像以上に強かったからである。




「ふう……いよいよ五層ね」


 思ったより早く五層へ降りる通路に到着し、一旦休憩をとる。

 ここ何回かのダンジョンは一日で最奥に到達できなかったので適宜休憩を入れていたけど、このダンジョンは比較的小規模なのでここまで休み無し。さすがに疲れました。


「規模は小さいけど、魔物は結構色々いるのね」


 他のダンジョンならかなり深い層でないと出てこないような魔物が三層四層でもゴロゴロ出てくるのを見ると、このダンジョンの位置づけがなんとなく見えてくる。

 それなりの実力のあるハンターがガンガン稼げる一方、探索自体にあまり時間がかからない、いわば美味しいダンジョンだ。


「これが潰れたら確かに経済的には大打撃かもね」

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