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  作者: ひじきとコロッケ
貴族の家に来たけれど、私の扱いがちょっとひどいです
23/319

3-8

「魔法の練習、裏庭ですか?」

「ええ」


 お供します、とばかりに後をついてくる。


「ちょっと?レオナちゃ「旦那様、仕事が()まっております」

「ちょっとー!」

「さ、こちらへ」


 後ろで何か引きずる音と、嘆願するような声が聞こえるけど気にしないことにして裏庭へ。




「えーと……」

「どうかされましたか?」

「何でもない」


 昨日開けた穴の周囲がレンガで囲まれて、公園なんかで見かけるような噴水広場っぽくなってる。

 そちらは見なかったことにして、隅っこの方へ。


「ここらでいいか」


 とりあえず、ほんのちょっとの魔力で水生成をして魔力コントロールの練習だ。

 グランバルドさん曰く、


「多分水が一番被害が少ない」


 被害って何だ。


 まあいいか。やろう。スッと手を差し出して魔力を「レオナ様」

「ひゃいっ?!」


 いきなりでちょっとびっくりした。


「水を作られるのでしょうか?」

「え、ええ……」

「こちらにどうぞ」


 大きなタライが置かれた。どこから出したとか無粋なことは聞かないことにする。どうせ聞いても「メイドですから」で済まされそうだし。


「そのタライに?」

「はい。大量に作らないとしても、何度も同じ場所に水を落とせばぬかるみます。ここは領軍の訓練場も兼ねておりますので、ぬかるんだ状態では危険かと思います」


 一理ある。あるけど……あのすっかり()になった場所はどうなんだ。ま、池と水たまり、ぬかるみは違うからと、ファーガスさんが適当にごまかすんだろう。


「そういうわけで、ここにどうぞ」

「わかりました」


 目を閉じて集中、魔力を絞る。ギリギリに絞る。イメージとしてはまさに水道の蛇口をちょっとだけ開けてポタポタさせるくらいに。


「水!」


 チャポン、と十センチほどの大きさの水球が作られ、タライに落ちる。おお、いい感じだ。


「お見事です」

「えへへ」


 褒められて悪い気はしない。だけど、今の感覚を忘れないうちに。

 目を閉じて体内の魔力のコントロールに集中。いい感じだ。


「水!」

 チャポン


「水!」

 チャポン


「水!」

 チャポン


 ジャバッ……トクトクトク――


「水!」

 チャポン


「水!」

 チャポン


 ジャバッ……トクトクトク――


「水!」

 チャポン


「水!」

 チャポン


 ジャバッ……トクトクトク――


 ちょっと待て、何か違う音が混じってる!

 そっと目を開けてタライを見ると、タチアナがタライの水を柄杓(ひしゃく)ですくって瓶に詰めていた。


「えーと?」

「お気になさらず続けてください」

「ああ、はい……って気になるよ!何してるの?!」

「見ての通りですが」

「見てわからないから聞いてるの!」

「わかりませんか?水を瓶に入れています」

「それは見ればわかるよ」

「では問題ありませんね」

「あのさ」

「何でしょうか?」

「その水、瓶に詰めてどうするの?」

「将来への投資、と言ったところでしょうか」

「投資?」

「はい」

「意味がわからないんですけど」

「レオナ様」

「はい」

「失礼ながら申し上げますが、レオナ様は平民ですよね?」

「まあ、そうです」

「つまり、いつまでもオルステッド侯爵家のお世話になるわけにはいかないハズです」

「それはそうね」


 言われずともわかっている。


「侯爵家から追い出さ、もとい、放り出されたら、レオナ様は路頭に迷います」

「えーと……」


 なんとか出来ないことも無いと思うんだけどな……ついこの間まで一人で暮らしてたし。つーか、今なんて言おうとした?


「そのときにこの水です」

「はあ……」

「聞くところによると、レオナ様は女神様に瓜二つのお顔とか。そこでこの水を『レオナの聖水』として売り出せば、糊口(ここう)(しの)ぐことも可能かと」

「何じゃそりゃあ!!」


 タライをひっくり返した。


「勿体ない」

「うがああああっ!」


 頭を抱えて叫ぶ。


 少しでもこの人はまともだと思ってしまったさっきまでの自分を殴りたい。




 一箇所にとどまって水を作るから悪いのであって、裏庭をグルグル歩きながら水を作ることにした。これならすぐに乾いて、ぬかるんだままにはならないだろう。


「残念です」


 いいえ、ちっとも。




 昼食を挟んで水を作り続け、午後三時頃に切り上げる。水の量はほぼ一定にコントロール出来るようになってきたので、今日の魔法の練習はこのくらいで良いだろう。


 屋敷に入り、二階へ上がり、部屋の前で立ち止まり、振り返る。


「えっとね……タチアナ」

「はい」

「ちょっとのんびりしたいので、ここで。あと、部屋の中は見ないで」

「畏まりました。何かありましたらお呼びください」

「ん、わかった」

「あの、失礼ながら」

「え?」


 スッと近づき、耳打ちしてくる。


「その……声は抑えてくださいね、できるだけ」

「は?」

「ですから声は」

「いや、声って……意味がわからないんですけど……」

「ですからその、自分でお慰めになるのでしたら、せめて毛布を被るなどして」

「ちょっと待てい!」

「何でしょうか?」

「何の話?!」

「ですから、レオナ様がご自身の欲求を満たすために」

「満たさないから!」

「あら、そうなんですか?」

「そうですよ」

「おかしいですね」


 顎に指を添えて首を傾げる。


「マリアンナ先輩からは、『抱き上げていると胸を触ってくる』『風呂場では凝視してきた』『おそらくアレは……』と伝え聞いておりますが」

「うがああああ!」


 とんでもない誤解を生んでいた!主にマリアンナさんに!

 誤解だからと言い聞かせ、タチアナの生暖かい視線を感じながら部屋へ。目が無いのに視線を感じるって不思議だね。


「ふぅ」


 ベッドに寝転がりため息をつく。魔法を使う以上に疲れた。

 しばらくごろごろと転がり、気持ちを落ち着けると、神様の本を取り出して開く。色々と覚えることは多い。


「お、空を飛ぶ魔法か」


 風魔法で飛べるらしい。ちょっと憧れるなあ。それにこの国をぐるりと囲む山脈を越えるのにきっと役に立つ。

 ん?待てよ?


「コール」


 ヴィジョンがふわりと現れる。


「えーと……空って飛べる?」


 コクリ、とうなずき、ふわっと宙に浮き上がる。


「ほえぇぇ」


 あっち、こっち、と心の中で命じるとその通りに動く。狭い部屋の中ではわかりづらいが結構な速度が出るようだ。

 試しに抱えてもらってみたが、問題なく飛べる。トンデモ性能な子だよこの子は。




 空を飛ぶのはこれでいいかな、でも自分でも魔法を使って……と思っていたらコンコン、とノックが。

 慌ててベッドの上にダイブして、ヴィジョンを戻す。


「ど、どうぞ」

「失礼します」


 タチアナが入ってきた。


「夕食のお時間になりましたが……その……お楽しみの途中でしたか?」

「違うわよ!」




 夕食はファーガスさんと二人きり。なんか一気に寂しくなったな。

 一応、この国でトップクラスの貴族らしいから話のネタに色々と質問してみたが、やはりこの国には外交という概念はほとんど無い。一応五年に一度くらいの頻度で南の方の国と行き来しているらしいが、山を越えてくるのも大変だし、その後の交流も苦労するという。

 そう、当たり前だけど、言葉が違うのだ。

 十年程前までは翻訳の出来るヴィジョン――マイクとヘッドホンを肩から提げる四角い箱にコードで繋いだような見た目だったらしい――を持つ人がいて通訳をしていたのだが、高齢で亡くなってからは、かろうじて通じる筆談でなんとか、と言う状態。

 コレ、仮に私が山脈を飛び越えても、その後が困りそうだな。言語系の能力はもらってないし……課題が増えた。




 ちなみにお風呂は一人で入った。タチアナ曰く、


「少し身の危険を感じますので」


 っておい!

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