19-7
「三層到着!」
したのはいいのだけれど、何かおかしい。
聞いてた話ではこのダンジョン、二、三人が並んで歩ける程度の通路と小部屋っぽいところだけで構成されているはずなのに、どういうわけか大きな部屋と二層、四層に通じる通路だけになっている。
いくら、あまり考え無しにダンジョンを突き進むことの多い私でも、これはおかしいと気づき、ちょっと慎重に歩を進める。
大きな広間にはおそらく魔族だろう、強い反応が三つ。弱い――それでも普通の人間ではキツいくらいの相手――が数えるのが面倒なくらいにたくさん。
待ち伏せ?それともここで待ち構えていた?
いずれにしても、ロクなことではないし、引き返すという選択肢も私にはないのでそのまま広間に入る。
「逃げもせずに来たことは褒めてやろう!よく来たぬぉぁっ!」
無言で放った火球が大声で口上を述べはじめた奴を吹き飛ばした。
「ぐぬぬ、貴様……せっかく人が褒めようとしたところを攻撃するとは!」
直撃したはずなのに、そいつはどうにか起き上がり苦情を述べてきた。何と言うことでしょう、ほとんどダメージらしいダメージがなかったみたいです。むしろ私の方角上を言いたいくらい。
「私、あなたたちに褒められたくないんだけど?」
「なぜだ?」
「え?」
「普通は褒められたら嬉しいだろう?」
「嬉しくないんだけど」
「おかしいな。俺の部下は俺に褒められると喜ぶのだが」
「私はあなたの部下じゃないどころか、敵対関係にあると思うんだけど?」
「……」
「……」
「そう言えばそうだったな!はっはっはっ!」
どうしよう、ちょっと頭痛がしてきたわ。と思ったらそれはあちらさんも同じらしい。
「毎回毎回、何で同じことばっかりやるのよ!」
「そうだぞ。いい加減にしろ」
ハリセンどころか普通にゴツいハンマーでどつかれて地面に埋まった。
「すまないね、ボドスが迷惑をかけた」
「は、はあ……なんて言うか……お構いなく」
「ははは……自己紹介しておこう。私はリーザ、そしてこちらが」
「コアル、ここに埋まってるのはボドスだよ」
「ご丁寧にどうも。レオナです」
互いに何となく礼。
「さて……では命のやりとりと行こうか!」
途端に気温が数度下がったと錯覚するような殺気が突き刺さってきて、慌てて飛び退いた。
「ふーん、そこそこ動けるじゃん」
私がいた辺りを通り過ぎたところでコアルが止まり、クルリと振り返る。
その足元は、何をどうしたのか地面がえぐられており、そのまま立っていたら結構ヤバかったかもと思わせるには充分。
「もしかして先行したグルーダ、君が倒しちゃったのかな?」
ああ、最初に外に出てきたアイツ、グルーダって名前なんだねと思いつつも問いかけには答えずにすぐに飛び退くと、再びコアルが私のいた辺りを駆け抜けており、その直後、ドゴンと重い音がして振り返ると、リーザが振り下ろしたハンマーが地面に突き刺さっていた。
「あら残念。楽に死なせてあげようと思ったんだけど」
「遠慮しますね」
「いいのよ。今なら特別サービスだから」
「タダより高いものは無い、と言われて育ちましたので」
前世だけど。
そしてすぐに飛び退くと、コアルが通過し、再びハンマー。
一応連携していると言うことなのかな。
「うーん、なかなか素早いね」
「そうね。現時点のコアルの攻撃を避けるなんて、普通の人間じゃ無理よ?」
会話には答えずに素早く飛び退き、さらにもう一度飛び退く。
「二連続攻撃を避けられるとちょっとショックだな」
「これはちょっと本気出さないとマズいかもしれないわね?」
「そうだねえ」
こちらとしては本気は出さないで欲しいというか、こっちに来ないであっちで暮らしていて欲しいのだけれどね。っと、コアルが動き出しそうなのでこちらも、と思って飛び退こうとしたらそちらに人影が。
「俺を忘れるなよ!」
「どいて」
いきなり現れたボドスにドゴン!とノールックファイヤーボールを撃つが、
「効かん!」
気合いで耐えられる威力では無いハズなんだけど。
「うわっと!」
「ぬぉああああ!」
「チッ、避けられたか」
「お仲間、巻き込んでるみたいですけど?」
「ああ、アレは頑丈だから大丈夫」
「大丈夫な訳あるか!見ろ!ここ!」
鎧の一部が欠けた、と主張しているけど、アレが直撃してその程度って、頑丈ってレベルを超えてる気がするわね。
「っと!少しはアイツの言動にリアクションとってあげたら?」
「敵の心配?余裕があるんだね」
「全然無いわよ!っと!」
「ああ、惜しい。今の、完全に隙を突いたと思ったんだけど」
油断すると上からハンマーが降ってくるのも結構大変ね。
さて、ここまででだいたい見えてきたかな。
ボドスはそのあり得ないレベルの頑丈さで相手の攻撃を引き受け……てないように見えるかな。
コアルはそのスピードで攪乱?スピードもさることながら、ダンジョンの地面さええぐり取る攻撃が謎ね。
で、リーザがこれまた信じられない怪力でとんでもない重さのハンマーを振り回す、と。あれ、直撃したら私も少しヤバいかも。あの重さを振り回すのがせいぜいで、速さはそれほどでも無いのが幸いかな。
では……時間感覚操作百倍
百倍の感覚の中でも結構な速さで動いてこちらに向かってくるコアル。って、通った場所を破壊するためになんて言うか、気持ち悪い動きをしていたのね……両手の爪が伸びて、ジグザグに動かして切り刻む、そんな動き。爪はかなりの強度があって鋭いようで、ザクザクと地面を削っている。そしてリーザはジャンプして私の真上に。ボドスは右側に回り込んでそちらから突っ込んでくる。
このまま個別に撃退するか、その後方にいるその他大勢っぽく見える――実際にはアレに勝てる人間なんてかなり限られるだろう――兵たち。数は数百かな。面倒なのでまとめて巻き込んで攻撃しようと、後ろへ飛び退きながら一番素早いコアルが中心になるよう、魔法を放つ。
火魔法レベル六 爆裂魔法×たくさんまとめて
そして時間感覚操作を解除。
解除する瞬間、百倍の速さの世界で私の魔法を認識したらしいコアルが慌てて直撃コースを避けようとしていたのが見えた。アレが見えて、とっさに動けるとか、とんでもない反射神経というべきかしら。
だけど、私が放ったのは単体攻撃魔法ではなく、範囲、それもこの大部屋とでも呼ぶべき空間全体に及ぶ大規模魔法。
ちょっと避けた程度では魔法の範囲から逃れることなど不可能。さあ、耐えきれるかしら?
「っとと!わわっ!」
私も逃げないとマズいので慌てて元来た通路に飛び込み、少し先の交差路を曲がり……と避難。それも三十秒もすれば収まり、そっと覗いてみると……元々何も無かった場所だから、特に変化は無いかな?
ぱっと見た限り、大勢いた兵士は一人残らず消し飛んだみたいね。
で、
「や、やるじゃねえか」
「まったくよ。こんな魔法が使えるなんて」
「ええ、本当に驚きました」
三人が残っているんだよね。
ボドスは打たれ強そうだから耐えきると思ったけど、まさか三人とも生き残るとは。
「コイツを先に進ませたらマズいってのは明らかだな!」
「っと」
「こっちに逃げると思ってたわ!」
「わっ」
「油断大敵」
「くっ」
彼らの関係性というか立場がわからないけど、それなりに長い付き合いをしてるんだろうね。三人が連携して動くとまともに反撃できるタイミングがつかめない。
仕方ない。この先、ダンジョンコアまで何事もなく行けるのを祈るとしましょう。
時間感覚操作千倍。
体に空気がまとわりつく感覚に少し不快感を覚えながら、すぐ目の前に来ていたコアルをボドスの目と鼻の先にズリズリ動かし、さらに私の真上にいたリーザをヴィジョンに引っ張らせて二人の上に。
そして解除。これで終わる……と思う。




