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  作者: ひじきとコロッケ
今度はちゃんと色々準備してダンジョンに行きます。フラグじゃありません
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19-5

 さて、一対一だろうと全員まとめてだろうと私がやることは変わらない。


「コーディ、ちょっと下がって」

「はい」

「お、覚悟は出来たってことか?」

「あー、ちょっと待ってね」

「へ?ま、まあ……いいが、手短に頼むぜ」


 私のすぐそばにあるのは背丈程ある岩。目印にでもなっているのだろうか?ペチペチと叩いた感じ、地面の下にも繋がっている結構大きな岩っぽい。

 コーディにも伝えてあるけれど、私の力は今もなお成長中。異界から来る魔王がどの程度のものなのか、あるいはケンジというのがどのくらい強いのかわからないが、とにかくそれらに負けないように成長し続ける。

 これが神様が私に与えた、ダンジョン攻略にとても役に立つ能力。だけど、一つ大きな欠点がある。それは、こういう……なんて言えばいいか、降りかかる火の粉を払うだけ、と言うときに顕著に表れる。

 すなわち「どのくらい手加減すれば良いかわからない」という問題。

 だからちょっとこの岩で試し撃ち(・・・・)して、と思ったらそれを察したのかコーディがスッと前に出て、ハンターたちに向けて大きな声で何かを叫んだ。

 うん、東部語だと私にはわからないよ。




 自分の主であるレオナが自身の身の丈ほどもある岩のそばに向かったとき、コーディは彼女が何をしようとしているか一瞬で理解した。

 そして同時に、これから起こる惨劇の予想もついた。

 だから、「下がっていなさい」という命令があったにもかかわらず、一歩前に出た。

 自分の主であるレオナという少女は、貴族であるが、平民上がりと言うこともあってか、貴族にありがちな傲慢さとでも言えばいいのか、そういう平民である自分たちを見下すような態度がない。

 そして、ドラゴンすら一撃で吹き飛ばすような力がありながら、実に寛容な性格であるとコーディは思っている。屋敷に忍び込んだ自分をこうして身近で働かせ、身内として扱うくらいには。

 そして反対に、自分に敵対する者には結構容赦ないということも。

 現時点でここに集まっているハンターたちはレオナに対して敵対していると見なされているはず。そしてレオナの実力を測るなどといって立ちはだかったら、死体が残ればラッキーというレベルのはず。そして、そんな惨劇はレオナ自身も望んでいないはず。そこまで深く考えたわけではないが、これから起こるだろうことを予想したコーディは、これを止められるのは自分だけと考え、前に出た。


「命が惜しい者、怪我をしたくない者はすぐに立ち去りなさい!今なら悪いようにしないよう、私から頼みます!」




「コーディ、何て言ったの?」

「えっと……命が惜しい者、怪我押したくない者はすぐに去りなさいと」

「それだけ?」

「い、今なら私が取りなしてこの場は収めます……みたいな」

「それ、煽ってるだけじゃないの?」

「え?」


 ハンターたち、どこからどう見ても頭に血が上ってるようにしか見えないんだけど。


『デニゆヴ※▽ャる∃ヒδンォρカム≒ωかろ/へ∀△ちど∂δィ!』

『☆テ※▽ぐツ∃ィ□πキダぇ▽ごφツ▽*≒γそな#!』

『%□±えベ∴ヴま∇±σ≒』

『∇-∞や』

『□ぁざク±∞け∴やぃすハぷいnoの#と※で∂ろθザθワ』


「あれ、何て言ってんの?」

「わかりません」

「ええ……」


 収拾つかなくなっちゃったと思ってたら、ベアトリスさんから助け船が。


「あれは……かなりのスラングですね」

「スラング……ちなみにどんな感じ?」

「聞くに堪えない罵詈雑言になると思うのですが……えっと、訳せますかね……」

「あ、いいです。それだけわかれば……コーディ、どうすんのよ。あれ、簡単に収まらないわよ?」

「すみません……お、穏便に収めようと思ったんですが」

「ま、気持ちはありがたいけど……そうね、じゃあ……今から言うこと、訳して伝えて」

「はい」


 返事を聞くなり「ふ……」と拳を握り、完全に手打ちの動きで岩に突き立てると、ボンッと弾けた。

 一瞬で静まるハンターたち。


「さ、伝えてね。ドラゴンの首から上もこんなふうになるけど、あなたたちが耐えられるなら相手になるわよ」


 数名気絶した。




 二人のハンター――見た感じ、ここにいる中で経験が長くて実力もあり、人望もありそうな人――とベアトリスさんが難しそうな顔して話しているのを遠目で眺めて、話がまとまるのを待つ。

 彼らにしてみれば、とんでもない相手に喧嘩を売ってしまったという認識に頭を切り替えた。そして、どうにか穏便に済ませられる方法が無いかと、領主の娘として知られている彼女へ相談を持ちかけているわけ。

 領主の屋敷の塀があんな状態と言うこともあって、娘であるベアトリスさんのことはここプラーツ領全体で知られている。美人で優秀、だけど庶民の目線で話のできる、気さくで優しい方。だけど、貴族として引くべき線はキチンと引いていて、自他共に厳しく律することの出来る方。

 何その完璧超人と思ってしまうが、本当にそう、らしい。接して日の浅い私にはわからないけどね。

 で、日が浅いのは彼女から見た私についても同じこと。この状況で私がどういう対応に出るかわからなくて、こちらをチラチラ見ては眉間にしわを寄せている。


「あんまりああいう顔をするとせっかくの美人さんが台無しですよと指摘したいわね」

「ええと……はい」

「コーディ、一つ言っておくわ」

「は、はい」

「あなたの思ってるとおり、私は身内のことは全力で守りたいと思ってるし、敵対する者には容赦しないわ」

「え、ええ……はい」

「だけど、敵対し続ける、って結構難しいと思わない?」

「え?」

「だって私、特定の誰かを憎んだり、殺したいと思ったりしてないのよ?」

「ああ」


 確かに、とコーディは納得した。


「ということで、そろそろ行くわよ」

「え?行くってどこへ?」


 歩き出した私のあとを慌てて追いかけるコーディ。その行き先がダンジョンの入り口方向でないことから私の意図が理解できず、戸惑っているようだけど……


「レ、レオナ様っ?!」

「お話、まとまった?」

「え、ええと……その」

「ま、まとまらなくても良いんだけどね」

「え?」


 ビシッとハンターの二人に指を突きつける。


「他のハンターにも伝えて。これからあのダンジョンは危険地帯に変わるわ」

「さ、参考までにどのくらいの危険地帯になるのでしょうか?」

「いい質問ね。だいたい……そうね、オーガが視線だけで逃げ出すようなのが闊歩し出すと言えばいいかしら?」

「何だか想像がつきませんが、とんでもないと言うことだけはわかりました」

「で、全員ダンジョンから出てるかしら?」

「数名、入ってすぐのあたりにいると思いますが、奥の方にはいないと思います」

「ならヨシ。そろそろ行くわね」

「あの」

「何かしら?」

「本当にダンジョンはなくなってしまうのでしょうか?」

「そうね……今までと同じことが起きるとしたら、ここのダンジョンも消えるわ」

「そう……ですか」


 ガクリと肩を落としている二人に何だかいたたまれない気持ちになってくるのはどうしてでしょうね。


「現時点では保証できない話なんですが」

「なんでしょうか?」

「他のダンジョン、紹介できるかも知れません」

「え?」

「しかもほとんど手つかずのダンジョンです」

「ほ、本当ですか?」

「え、ええ……」


 食い気味に来たのでちょっと引いてしまったところに、コーディがツンツンと肩をつついてくる。


「レオナ様」

「ん?」

「もしかして開拓村のダンジョンですか?」

「うん。人手が欲しいところだったし、ちょうど良いかな、って」

「移動手段、どうするんです?」

「うん、だから保証できないって」

「ものは言いようですね」


 私が連れて行ってもいいし、その辺はあとでまとめるとしましょう。

 さて、そろそろ行きましょうか。


「とりあえず今回はここに残ってても平気みたい?」

「ですね」


 元領主の娘、現代官のベアトリス嬢がこの場をどうにかまとめてくれそうなので、ここに残しておいても大丈夫なはず。


「じゃ、そろそろ行くわ」

「はい。お気を付けて」


 そしてダンジョンへ踏み込んだと同時に、目の前が真っ暗になった。

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