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「この辺?」
「ええ。ここからあの辺りまで、だいたい真四角に」
「わかったわ……うぃんどかったー」
ぽすっと気の抜けた感じで発動させた魔法はスパスパ!と予定範囲内の木を切り倒す。
「そしてアイテムボックスに収納。からの、土操作。そしてすぐに収納!」
木の根っこも回収して、ここは終了です。
切り倒した木と根っこは一箇所にまとめておく。枝を落としたり乾燥させたりと行った工程はすべてこちらに来た職人さんたちにお任せするとのこと。
「レオナ様、次はこちらで」
「はーい」
アランさんに示されたのは小学校の敷地くらいの広さの場所。そこかしこに木の棒が立てられており、その間にロープが渡されている。
「このロープのある位置に壁を作ればいいのね?」
「はい。お疲れのところすみませんが」
「いいのよ。このくらいしか出来ることは無いんだし」
「普通は領主様が壁を造ることはしないのですが」
「じゃあ、私は革新的な領主を目指すって事で」
そんなやりとりをしながら隅っこに立ち、壁を作る方向を確認。
「高さは三メートルだっけ?」
「ええ。そのくらいで大丈夫です」
「では……えい」
「「「「おおおおっ!」」」」
ホンの少し、二十メートルほどの長さで厚さ十センチほど、高さ三メートルの壁を土魔法で地面を加工して作っただけなのに、ロアの方々がすごく驚いている。一方、アランさんを始めとする私の部下に当たる人や、開拓村で暮らし始めている人たちは平常運転だ。
「では次はこの辺からですね「ちょっとお待ちくださいな!」
「うわっと」
ジェライザ様が全力疾走してきたよ。王妃様としてそれはちょっとダメなんじゃ無いの?ちなみにレオバルさんのヴィジョンの紙が私の目の前に滑り込んできたのは至れり尽くせりね。
「今の、レオナ様の魔法ですか?」
「え、ええ」
「まさかと思いますけど、全体を今から全部?」
「そのくらいはまあ……何とか」
額に手を当ててブツブツと呟き始めてしまった。レオバルさんのヴィジョンでもこれは訳してくれないので何を言っているのかサッパリ。というか、作業の続き、してもいいよねとアランさんを見ると、特に問題なしと頷いているので、作業続行。
「えい」
「「「「おおお……」」」」
「えい」
「すごいな……」
「ああ」
「とおっ」
「おいおい」
「マジか」
レオバルさん、通訳ありがとう。ご苦労様です。
ブツブツ言いながら着いてくる王妃様がちょっとアレだなとおもいながら一周ぐるりと回り、外壁部分は完了。そのまま中に入って仕切りになる壁をどんどん作っていく。
とりあえずここは第一陣でやって来た職人さんたちと、その後すぐ来る人たちの仮住まいになる予定。私が先程切り倒した木を加工して屋根と扉にする程度の簡素な作りだけど、雨風しのげればいい、というレベルに留めておき、快適な生活空間が欲しかったら自分たちで何とかする、という方針。
と聞くと、結構ひどい話のように聞こえるかも知れない。が、普通の開拓村は領主がこうして開拓初期から出向くことはほとんど無いし、こうした住む場所も最初は無くて、木の板を斜めに組ませただけの――それこそ私が最初の頃に住んでいたような、小屋ですらないような奴ね――で雨風寒さをしのぎながらというのが普通。ちゃんとした屋根と扉がある建物が数軒ある時点でこの開拓村のペースは異常なほどに早いのだ。
一通り壁を作り終えたところで職人さんたちにバトンタッチ。作り忘れた箇所が無いか、強度の甘いところが無いかをチェックしてもらう……うん、全員ポカンとしていて動かないよ。
「アランさん、後は任せていいですか?」
「ええ、大丈夫です。レオナ様はお疲れでしょうからゆっくりお休みください」
「そうするわ」
「待ってください!」
ジェライザ様、私が言うのも何ですが、もっと王族らしく優雅に振る舞えませんか?
「こ、ここ……」
「ここ?」
「こんなに作って、魔力切れは起こさないのですか?」
「ええ……まあ、このくらいなら」
「すごいという話は伺っていましたし、ここに来るまでにも色々見ていましたけど……さらにすごい方だったんですね」
「それ程でも無いですよ?」
「レオナ様」
「はい」
「もう少し落ち着いたら改めてお話しさせていただきますが」
「ええ」
「私たち、ロアの国民全員、この開拓村を発展させることに尽力し、必ずやこのご恩に報いると誓いますわ」
重いっ!
私はただ単に、ロアという都市国家が潰れてしまって困っている人を見過ごせなかっただけ。魔王軍を追い返した力も、受け入れ先であるこの開拓村も、そこを自由に出来るアレコレも、全部他から与えられたものでしかなく、私自身が努力で身につけた力によるものなんて皆無。
なんてことは言ってはダメなんだろうね。
はあ……疲れで余計なことばかり考えちゃうわ。
「色々と話すべきことだらけですが、まずは全員がここに来て暮らせるようにしてからです。頑張りましょう」
「はい。よろしくお願いしますね」
私が帰るタイミングを見越していたのか、すぐそばに馬車が停められており、シーナさんがそばで待っていた。
「帰りましょう」
「はい、お疲れ様でした」
レオナの乗った馬車を見送ると、ジェライザはすぐに作業を始めた職人のとりまとめ役のもとへ向かう。
「どうかしら?」
「ジェライザ様、コイツはとんでもないですよ」
「え?どういうことかしら?」
「俺は壁を作るのは専門じゃねえが、専門外の俺が見てもわかる。この壁の強度はどうやったって俺たちには作れない」
「は?」
「多分、オーガが全力で体当たりしてもヒビ一つ入らないと思うぞ」
「そ、そう……」
「それを言うならジェライザ様、こっちの木もすごいですぜ」
「木?レオナ様が切り倒してきた?」
「ええ。見てくださいよこの断面」
そう言われてもジェライザは生まれながらの王族なので、ノコギリや斧で木を切り倒したときの断面については素人以下だ。
「まっすぐなんです。一切ブレること無く」
「えーと?」
よくわからないなと思っていたら、その職人が近くにある別の丸太を見せてきた。
「これがこの村の者が切り倒した木です。見てください、断面の違いを」
「うーん、こっちは結構デコボコしている?」
「ええ。あのレオナ様が切り出した方はスパッと一刀両断。そんな感じですね」
送られてきていた書簡やフェルナンド王との会合で、この国としてはあの少女を神の遣いのように見ていることはわかっていたし、夫であるカイルがまともに相手をされなかったような化け物をあっという間に倒してしまう戦闘力も知っている。そして普通なら死んでしまうような重傷を容易く癒してしまう奇跡のような力があることも。
「もしかしなくても本当に神様からのお遣いなのかしら」
それならそれでますます頑張らねばと、レオナが望んでいない方向へ開拓村の者達の意欲は向けられていくのであった。
屋敷へ戻る馬車の中で、留守中のことをざっくり把握すべくシーナさんに確認しておこうかな。
「シーナさん、留守中のこと、簡潔に教えて」
「一言で言えば問題なしですね。お店も順調というか順調すぎて予約殺到です」
「うれしい悲鳴ね」
「はい。そろそろ人を増やさないとマズそうです」
頭の痛い問題ね。




