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馬車を降り、城の中を進んでいく。
「基本方針については、王も交えて彼らに伝える。そのあとは開拓村へ実際に行ってもらい、アランも交えての話し合いだ。だが、できることには限りがあるという前提でアランたちとは詰めておいた。何かマズそうならどんどん指摘していい。自分の息子を自慢するようにしか聞こえないと思うが、あれは優秀だ。どんどん仕事を与えてやれ」
「わ、わかりました……」
大丈夫かな。ブラック感が漂わないかな。
そんな心配をしている間に会議室へ到着。ロアの方々と共に中に入り……えーと、一番奥に王様やら宰相さんやらが、あっち側にロアの方々で、こっち側に私たち……よし、一番隅っこにと思ったら、ファーガスさんに首根っこを掴まれた。
「ここだ」
「は、はい」
ドス、と置かれた――やっぱり私の扱い、酷くないですか?――のはほぼ中央の席。左右を侯爵夫妻で固めたのは逃げられないようにするためでしょうか?
「さて、揃いましたな」
すると、私たちそれぞれの前にフワッと紙が現れた。見ると、ロアの通訳の方が頷いているので、これに訳された言葉が表示されるんだろう。さすが王妃様についてくるだけあってこれだけの人数分、出せるとはさすがだと思う。
「ほう、これで互いの言葉が通じるのですか。有り難いですな。では早速始めましょうか」
ロナルドさんがそう言って立ち上がろうとしたのを王様が手で制し、私の方をじっと見た。
「その前に、確認しておくべき事がある」
え?私何かやりましたっけ?
「まずは皆様、長旅お疲れ様でした」
「お気遣いありがとうございます。とは言え、あっという間でしたから」
「それは良かった。しかし、恥ずかしながら、我々は連絡を受けてからずっとこの件にかかりきりでしてな」
「それはどうもありがとうございます」
「いえいえ、できることはこのくらいですので」
表面をなぞるだけの言葉のジャブ応酬って感じかなあ……
「さて、我々……少し小腹が空いておりまして」
「おお、そう言えば私も」
「私も少し……」
王様の言葉にあちこちから同意の声が上がる。主にフェルナンド王国側から。
「と言うことでレオナ殿……一つ頼めますかな」
「いや、一つと言わず、二つ……いや三つ」
三つも?いやしんぼめ。
「わかりました。用意してきます」
「お、お手数お掛けします」
これにはジェライザ様も苦笑い、かなと軽くため息をつきながら一旦退室。ドアの前で待っていたシーラさんは既にこの事態を予想していたようで、城の侍女さんたちと共にティーセットを人数分用意して待っていた。
「こんなこともあろうかと思いまして」
「ありがとう」
茶葉は、店で出しているのと同じもので、緑茶風のもの。お皿は……
「三個食べたいって言ってるんですけど」
「それはちょっと多いかなと思います」
「ですよねえ」
と言うことで一個ずつ皿に乗せていく。何か言われたら私が悪いということにしておけばいい。
「レオナ様、質問が」
「何かしら?」
「どこから出しているかは聞きませんが、どの位持ち歩いているのでしょうか?」
「数える気はないわ。恐いし」
「ですよねえ」
ロアにいる間に結構食べたけど、減ったって感じがしないのよね。
「ウマいな」
「ええ」
互いに自己紹介を終えたところに配られた物を食べながら、各々が感想を述べている。ああ、お茶がおいしいわ、と一息ついていたら王様が唐突に質問をした。
「ところでロアの皆様はこれの材料をご存じで?」
「ええっと……」
「王様、ここは責任上私が説明します」
私が出している以上、私が言うべきだと立ち上がって告げる。
「中の白い部分はラド麦、外側はラプ豆です」
「え?これ……ラド麦?」
「この緑色はもしやと思ったが、ラプ豆だったのか」
「ふむ……って、レオナ様はこれを売っていると仰ってましたが」
「ええ」
「えっと……失礼ながら、フェルナンド王国では普通に食べている物なのでしょうか?」
「いいえ。普通は家畜のエサです」
「ですよね」
「ですが、こうしておいしくいただけます」
「なるほど」
ジェライザ様はフム、と少し考え込み、ハッとこちらを見た。
「ラド麦もラプ豆も、干ばつに強く、暑さ寒さにも強いです」
「ええ」
「ロアでも非常用にある程度蓄えていましたが、食べるのはいよいよ追い詰められたときというくらいに……その……なんというか」
「食べづらい、おいしくない、ですね」
「ええ。それをこんなにおいしく食べられるということは」
「ええ。加工がとんでもなく面倒なのでそのあたりもどうにかしようとしているところです」
どれだけの可能性があるのか、パッと思いつかないほどと理解したようですね。
「さてと、改めてロアの皆様。皆様を我が国で受け入れることに否はありませんが、皆様はどうでしょうか?」
「私たちは現状、ロアの近くにあった小さな村の周囲でどうにか、と言う状態です。もっと言うなら、どうにかしようにも何から手をつけようかという状況。受け入れてくださるのでしたらこれほど有り難いことはございません」
「わかりました。さて、では我が国でどのように受け入れるかですが、今のこの話し合いでもわかるように、我々は互いに言葉が通じません。ですから、三万人をあちこちに分散させるのは互いに不便であろうと考えております」
「ええ、それはこちらも考えていました。しかし、いきなり万を超える人数を受け入れられるところなど、そうあるモノではないというのも理解しています。ある程度の不便は承知の上で、とも考えておりますが」
「そこで、提案なのですが、全員クレメル家の領地で受け入れてみてはどうかと考えております」
「クレメル家の領地?」
「私の領地ですね」
「レオナ様の?良いのですか?」
「構いません。ただ、いくつかの不便はあるのですが」
「不便?」
「ぶっちゃけた話、私の領地って開拓途中の村なんです」
「開拓途中?」
「ええ。人口はまだ数十人で、全員に家が行き渡っているとは言えない状況。畑も開墾中でして、収穫できた作物はゼロです」
「あの……それってかなり酷いのでは?」
「まだできてひと月ほどですからねえ」
「え?」
「ちなみに領地としての広さは、今のところ開拓したら開拓した分だけ、となっていますので、人数が増える件はなんとでもなります」
「そう……ですか」
ロア側の皆様がぼそぼそと話し合いを始めたので、こちらもこちらでまだ話せていないことを話すことに。
「とりあえず、住むところの用意だが、こう言うことを考えている。これが受け入れられない場合はまた考えなければならないが」
「え、こんなの誰が建てるんです?」
「そりゃあ……領主様の仕事だろ?」
「普通の領主はしないと思うんですけどね」
「詳細はこれから詰める必要があるとは思いますが、ロアとしてはフェルナンド王国の申し出を全面的に受けようかと思います」
「よかった」
「では……」
偉い人同士で法律的な調整をすることになったところで、ロア側は数名を残して退席。一旦私の開拓村へ向かうことに。私も同行するべきなのだが、別行動をとり、リリィさんに連れられて城の裏手へ。
「ここが王都の食料備蓄庫だ」
「おお、すごいですねえ」
フェルナンド王国の税は金銭を納める方式だけでなく、麦などを直接納める物納がある。そして物納された物はこうして各地で集められて保管、利用される。王都のここにあるのは城で普段使いする分の保管庫も兼ねており、体育館みたいな建物がいくつも並んでいるというなかなかの規模だった。
「ここと隣の分を全部持って行っていい」
「わかりました……収納っと」
「相変わらずよくわからない能力だな」




