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  作者: ひじきとコロッケ
迷宮都市という単語に憧れます。でも、潰さなければなりません
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16-18

「よし」

「わわっ、これ、ダンジョン全体が揺れてるんですか?」

「ダンジョンが崩れ始めてるのよ」


 脱出すべくコーディのそばに駆け寄ったとき、その背後にそいつ(・・・)がいた。


「こんなところに、誰かしら?」

「誰でもいいだろう。どうせ、お前らはここから出られん」

「え?」


 いかにも悪魔ですといった姿をしたそいつはこちらに掌を向けると同時に、ドドドンッと光る玉を放つ。ちょっとやばいと感じ、コーディのそばへ寄り、障壁を強化。


「うわっ」

「ひっ」

「コーディ、大丈夫?」

「は、はい。障壁のおかげで」

「あいつは……いない?!」


 奴の攻撃でこの辺りだけダンジョンの崩壊が加速されて、周囲は瓦礫の山。私がいなかったら生き埋め確定コースです。


「とにかく脱出するわ!」

「はいっ……レオナ様、あれ!」

「ええ!」


 崩れ落ちてくる瓦礫の中、障壁ごと突っ込んでいった先に、かすかに奴の姿が見えた。が、


「消えた?」

「さらにその先に行ったみたいです!」


 こちらが瓦礫を押しのけながら上昇するのに対し、あちらはどうやら瓦礫の隙間を見つけながら空間転移で地上に向かうようだ。これだとあちらの方が早く地上に出るだろう。


「あの変態集団以上に地上に出したらマズい奴ね!」

「急ぎましょう!」


 言われずとも!


「火魔法レベル七、火砲!」


 ちゅどん、と上に向けて放ち、瓦礫を吹き飛ばしながら加速する。急がねば!




「崩れ始めました!」

「カイル王は?!」


 ロアの外壁を越えてさらに進んだ頃、背後で今までに聞いたことが無いような轟音。振り返ると、壁がガラガラと崩れていくところだったのだが、何かを取りに行ったらしい王がまだいない。


「カイル!カイル!」

「王妃様!ダメです、危険です!」


 侍女たちが必死に引き留めているところに、呑気な声が聞こえてきた。


「おーい、大丈夫か?」


 見ると、砂煙の向こうから槍を担いだ男が手を振りながら気の抜けた感じでこちらに呼びかけながら駆けてきていた。言うまでも無く、彼らが待ち望んでいた国王、カイルその人だ。


「カイル!」

「王!」

「無事でしたか?!」

「ああ、ちょっとびっくりしたけどな!」

「一体何をしに……って、それですか」

「ああ。ロアの象徴だからな」


 カイルは城の地下にある宝物庫へ、初代国王が建国するきっかけとなったとされるダンジョンからの宝物、「銀翼の星槍」を取りに行っていたと答えた。


「これがあればまた……と思ってな」

「なるほど」


 ロアと言う国家の実務を回す上で、この王は基本的に不要。そもそもハンター上がりで、読み書きはもちろん、計算や法律も王になってから学んだがほとんど身についていない。だから、書類仕事をさせるとかえって時間がかかる。だから「はい、ここにサインを」とサインを書かせるだけにしているのが実態だし、本人もそれをよく理解している。

 だが、そのカリスマ性は本物で、都市が丸ごと崩壊した後、避難した国民たちを導いていくのに絶対必要な人物であることは間違いない。彼が無事であることに国の中枢を担ってきた者達はホッと胸をなで下ろしつつ、「本当に無事?大丈夫?」と体をなで回している王妃の姿にちょっと引いていた。そういうのは人目のないところでやってほしいものだ。


「王」

「わかってる。とりあえずあのフェルナンド王国から来た二人の言っていたこと、書簡に書かれていたことは事実だったというわけだ。そして、事前にわかったから……いや違うな、あの二人が強引にダンジョンへ向かった結果がこれだ」

「ええ」

「……ダンジョンの崩壊と、異界の魔王が結びついていない」

「ですな」


 そう、ロアは国民こそ避難したものの、都市自体が消滅。これは都市国家という性質上、国がなくなったのと同義。百歩譲ってダンジョンコアの破壊によるものだというのを認めるとしても、ダンジョンコアを破壊しなければならなかった事情が本当に異界の魔王が攻めてくるのを防ぐためだったというのは証明できていない。つまり、これから行うのはフェルナンド王国に対する、戦後賠償のようなものということだ。


「と言うことで、まず……ん?」


 何かを言いかけたカイルがピタと足を止める。


「逃げろ!」


 自身の周りにいた数名を突き飛ばすように引き剥がし、槍を構えるとそいつ(・・・)に向けて振りかぶる。同時にガキン!と槍と何か堅い物がぶつかり合う音がし、そいつが一端距離を取った。

 その姿は異形。人のように手足のある姿ではあるが、頭にはねじくれた角が二本生えており、尖った耳の当たりまで裂けた口からは長い牙。全身灰色がかった皮膚は鱗のようなものが見え、背中にはコウモリのような翼まで生えている、魔人だ。槍とぶつかり合ったのは両の手から伸びる長い鉤爪。その鋭さを試してみたりなんかした日には後悔するより先にあの世に行くのは確定という禍々しさを漂わせ、王の持つ槍を見てニヤリと笑みを浮かべた。


「ほう、なかなかの業物だな」

「へっ、そう言うお前は何者だ?」

「名乗る必要は無かろう。どうせ死んでいくのだからな」

「そう簡単には行かない……ぜっ!」


 一気に踏み込んで槍を振るうと、そいつはバサッと翼を広げて舞い上がる。


「逃がすか!」


 ロアの国宝、銀翼の星槍はその名が示すように、穂と柄を繋ぐ口金部分に星形と翼をかたどった紋様が特徴の槍。そして、その翼の紋様はただの飾りではなく、持ち手の背に銀に輝く翼が生えてわずかではあるが空が飛べるという、国宝になるのもうなずける逸品だ。


「ほう、中々やるな」

「これでも英雄なんでな」

「そうか。なら……死ね!」

「っとぉっ!」


 国王が率先して、いや嬉々としてダンジョンに向かうのはどうなのか?カイルの就任後、何度も投げかけられた疑問だった。しかし、今はそのダンジョン通いによって体を(なま)らせることなく、勘を鈍らせることなく維持し続けたことが、彼の立ち回りを支えていた。

 そしてかなり距離の離れたところに避難している国民はともかく、近くにいた国民や騎士たちに城勤めの文官をはじめとした多くの者が王の戦いに声援を送っている。何しろ王が負けるなどした場合、次は王より無力な者たちが狙われるのは間違いないのだから。

 だが、そもそもおそらく生まれたときから空を飛ぶ力を得ていたであろう魔人と、槍に込める魔力で僅かに飛べる程度の人間カイルでは、どうしてもカイルの方が分が悪い。何しろ戦闘において高い位置を確保できるというのは、それだけで大きなアドバンテージになる。おまけに、カイルに攻撃する手を一瞬緩めて他の者たちへ攻撃する素振りを見せるだけでカイルはあわてて防御に回ろうとするため、体力を消耗していくという不利な条件もついている。


「クソがっ!正々堂々勝負しろ!」

「その必要はない。こうして適当にあしらっているだけで勝てるのだからな」

「クッソ!このままで済むと思うなよ!」

「根拠のない理屈だな」

「そりゃっ!」


 気合いと共に繰り出された槍を少し舞い上がるだけで避けながら、ニヤリと笑う。


「このギド、たかが人間にどうこうできるような者では無いぞ?」

「自己紹介どうも!おれは迷宮都市ロアの国王、カイルだ!」

「迷宮都市ねえ……滅んだが?」

「うるせえ!」


 いちいちこちらの神経を逆なでするような言い方をするギドに怒りをぶつけるように槍を繰り出し続けるが、全く届かない。


「カイル!負けないで!」

「負けねえよ!」


 愛する妻、そして王としては全く未熟な己をそれでも王と慕う国民たちを守るべく必死に振り絞った魔力を槍に注ぎ込み、ギドを追う。だが、届かない。そしてかろうじて届きそうなときも、ギドの両手の爪で防がれ、そのたびに槍の穂先がわずかずつ欠けていく。この槍はかつてドラゴンの鱗すら貫いたと伝えられているのだが、そうなるとあの爪はドラゴンの鱗よりも硬いのか。

 なんとも恐ろしい事実に舌打ちしながら、槍を繰り出し続ける以外に手が思いつかない。何よりも手を止めたら負けるだろう。


「この程度か?ダンジョンコアを破壊した小娘よりは楽しめると期待していたのだが」

「ほう。その小娘はつまらなかったのか?」

「知らん。生き埋めにしてやったからな」

「貴様!」


 あの少女たちはどうなった?ダンジョンの中で何があったのかわからないが、生きているのだろうか?


「フン……つまらんな。そろそろ(しま)いにしよう」


 そう言ってギドが少し距離を取り、右手を大きく振りかぶる。イヤな予感がしたカイルは慌ててギドを追う。


「死ね」


 ブンッと振り下ろした右手の先から生まれた衝撃波は鋭い刃となってカイルに襲いかかる。普通なら回避するか防御するかの二択。だが、カイルは敢えて突っ込んでいく選択をした。これで終わりにするつもりと言うことは、きっと油断をするはずだからと確信して。

 そしてカイルの首を断ち切るべく放たれた衝撃波は、カイルがわずかに飛んだために下の方、腰のあたりでカイルを両断。だが、同時にカイルが槍を投擲。予想外の攻撃にギドは回避が間に合わず、僅かに左脇腹をえぐられるという結果となった。

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