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  作者: ひじきとコロッケ
迷宮都市という単語に憧れます。でも、潰さなければなりません
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16-17

「ちょっと強めの火嵐!」


 先程まで彼らが耐え切れたのは私の魔法が程々の威力だったから。結構な力を込めて放てばどうなるかというと、灰も残さず消え去った。


「急ぎたいけど慎重に行くわよ」

「賛成です」


 この場にはかなりの人数がいた。が、あれで全てとは思えない。つまり、このまま進んでいったとき、後続に出くわす可能性は充分にある。あの集団、戦力的に負ける要素は皆無と断言できる。でも、あれを直視するのは精神的にキツい。

 あれがいきなり目の前に現れたりしないよう、マップを常時確認しながら進んでいこう。




「拍子抜けするくらい簡単に百層到着ですね」

「ええ」

「ダンジョン、まだ深くなりそうですか?」

「いいえ。ここが最下層ね。この先にダンジョンコアがあるわ」

「おお!」


 やっとゴールが見えてコーディがあからさまにホッとするので、気を引き締める意味でも警告しておこう。


「ダンジョンコアはさっき変態たちを相手にしたよりも大きな広間にあるみたいなんだけど、その広間に多分魔王軍の兵が集まってるわ」

「ま、負けませんよね?」

「ええ」


 負けるつもりなど欠片(カケラ)もない。

 だけどなんだろう、このざわざわした感じは。


「もしかして、その兵って……アレな感じでしょうか?」

「コーディ、言霊って知ってる?」

「ううっ、ごめんなさい」


 とは言え、その可能性がとても高いのは事実。そして、アレな感じであろうとなかろうと、ほとんど移動していないというのが不気味だ。ぱっと見で数え切れないほどの人数が、整列しているわけでもないのにほとんど移動していないのはなぜだろう?


「レオナ様」

「ん?」

「先手必勝です。この辺から思いっきり魔法をぶっ放して何とかなりません?」

「火を吸収して力が強くなるタイプとかいたら面倒だから却下」

「え?そんなのが今までにいたんですか?」

「いなかったけど、今後もいないとは断言できないわね」


 少し足を止めて、状況を確認。主に自分の。


  HP 171052/172901

  MP 115301/141662

  物理攻撃力  11527

  魔法攻撃力  13112

  物理防御力  15330

  魔法防御力  10194


 HPが減っているのは精神的ダメージからまだ回復していないからだろう、多分。こう見えて私は繊細なのだというのがよくわかると思う。

 MPは充分に回復している状態なので、このまま一気に突っ込んで片付けるとしましょうか。


「さて、行くわ。心の準備はいい?」

「心の準備って?」

「仮にも異界の魔王の軍勢よ?とんでもない化け物がいたとして耳もとで大きな悲鳴を上げられたら、さすがの私も一瞬動きが止まっちゃうわ。たとえ魔法で防御していたとしても、その隙に攻撃されでもしたら大変でしょう?」

「そ、そうですね」


 私の防御とて完璧ではない。一斉にあちらの火力を叩き込まれたら持ちこたえられない可能性は充分にあるということを理解してもらうと、コーディはスーハーと深呼吸を始めた。そのそばで私も大きく息をして気持ちを落ち着かせる。何しろここのダンジョンコアを破壊したら百層というとんでもない深い階層から地上まで行くという、これまた大変なミッションが待っている。


「さ、行くわよ」


 おそらくあちらもこちらの接近に気付いているはずなので小細工無しで行こうと、通路を抜けて大広間に、


「「きゃああああああ!」」


 広間にいたのは確かに魔王軍の兵たちだとひと目で(・・・・)わかった。

 約半分は、ビキニパンツ一丁で広間に並べられたスポーツジムにあるようなトレーニング機器で体を鍛えていたり互いにポーズを確かめ合ったりしている真っ最中。残り半分は、えーと、その、なんだ……ピチピチのスーツに身を包み、三角柱を横倒しにして足をつけた台の上にまたがっていたり、またがっている者に鞭を打ったり火の点いたロウソクを垂らしたりしているところだった。

 これを見て悲鳴の一つもあげないほどに精神を鍛えているわけでもない私たち二人は、相手がこちらに気付くより早く悲鳴を上げて硬直してしまった。


「な、何者だ?」

「まさか、我々の邪魔をしに?」

「待て、正規軍はどうした?」

「やられた……のか?」


 うん、あれ……正規軍だったんだ。てっきりあの変態筆頭二人の私兵かと思ってたよ。


「待て、たった三人で、だと?」

「相当な手練(てだ)れだな」

「クソッ……全員戦闘準備だ!」

「おう!予備隊といえども魔王軍の端くれ。たった三人に後れを取るなどあってはならん!」


 とりあえずコーディを揺さぶって正気に戻す。


「はあ……とりあえず下がってて。片付けるわ」

「あ、はい。頑張ってください」

「ええ」


 あちら側は……なんだろう。


「ダブルバイセップスからのサイドチェスト!」

「ダブルバイセップス!」

「サイドチェスト!」


 半分はきれいに整列しているんだけど、一歩進むごとにポーズを変えているので全然進んでない。


「このっ!このっ!」

「うひぃぃっ!」

「もっと!もっとだ!」


 もう半分は、横倒しの三角柱にまたがった者にロウソクを垂らしている者に鞭を打つ者が三角柱を引っ張っている。あれ、下にキャスターがついてるんだね……いちいち嬌声(?)を上げているのでこちらも全然進んでない。軍隊としてそれはどうなのよと思うけど、いちいち突っ込んでたらキリがないので、ここで終わらせるべく両手を前に突き出す。


「派手に行くわよ!」


 火魔法、土魔法、風魔法が入り乱れ、時折水魔法による氷漬けを混ぜてリセットを数回繰り返すと、さすがに全部片付いた。


「ふう……強敵だったわ」

「お疲れ様です」

「さて、ダンジョンコアは……あれね」

「へえ。不思議な感じですね」

「そうね。光っているわけでもなく、ゆらゆらと不思議な感じよね。ま、これから壊すんだけど」

「どうやって壊すんですか?」

「あれ?説明してなかったっけ?このコア、本当の姿はどうなのかわからないけど、魔王のいる異界に繋がっているのよ」

「えっと……つまりこれは穴って事ですか」

「そうなるわね。んで、穴の向こうに魔法をぶっ放す」

「なるほど」

「さて、やるわ」

「はい」

「……コーディ、近い」

「え?」

「近くにいると、熱いわよ?」

「げ……」


 すごすごと下がって私のヴィジョンにしがみついた。なんか、懐きすぎのような気がするわね。


「行くわよ」

「ん?待ってください」

「何?」

「何か、違和感が」

「違和感?」

「ええ」


 マップを確認。離れた位置、つまりこの広間とは別のところにある通路や小部屋にいくつかの赤い点。


「多分、単純にダンジョンの魔物がいるだけだと思うんだけど」

「うーん、何か違うような」

「そう言われても……うーん」


 特に何も感じないけどなあ。コーディはこれで一応潜入とかそう言うのをやっていたから何かの勘が働いているのかな。

 念のためにヴィジョンとコーディの周囲に展開している障壁を確認。ヒビ割れなどは無し。内部に何者かが入り込んだ痕跡も無し。

 周囲を目視点検。ひどい状況ではあるが、動いているものは無し。逆にこの状況で何かの陰に隠れて難を逃れているとしたらそれはそれですごいと褒めてもいい。ただ、着ている物が全部焼失していて目の毒なので、改めて念入りに灰も残さず消滅させるけどね。


「とりあえずコーディの違和感は気になるけど、さっさと済ませて外に出ましょ」

「そうですね」


 ではと、ダンジョンコアへ手をかざす。

 火魔法レベル十 滅却の業火

 いつものように、ダンジョンコアの向こう側へ魔法が吸い込まれていき、大爆発を起こした感覚。そしてピシッとダンジョンコアにヒビが入り、内側から赤い炎の輝きが見え始め、後ろに飛び退くと、半径数メートルの爆発と共に消滅した。

変態がこれで終わるといいなと思います。

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