16-14
小さな太陽と見まがうような光の球が壁で囲まれた中を落下していくと、さすがに二人とも耐えきれるものではないと判断したのかあわて出す。
「くっ!こうなったら!」
ヴィクレアはイチかバチかなのか、鞭を目一杯放り投げた。手で持っていなくても移動が出来るのかどうか知らないけど、それはそれとして高さは足りないだろう。
「い、急がねば!」
イゴールは……なんでパンツ脱ぎ始めてんのよ。
見たいものではないので視線をそらす。
爆発まであと少し……もう少し……今!
地上一メートル程まで落ちたところで光の球が一層輝きを増し、耳を塞いでも全く意味がないほどの轟音と共に爆発した。
「っきゃあああ!」
私の乗っている壁にバキバキとヒビが入り始めたのであわてて飛び降りると、その直後、天を貫かん程の勢いの爆風が吹き上げていき、その太さをどんどん増していく。
ヤバイヤバイヤバイ。
ちょっと威力が強すぎ。壁が……あ、崩壊した。
魔力をごっそり持って行かれた状態でちょっとふらつくけど必死に逃げる。
あ、ダメだ。追いつかれる。
時間感覚操作百倍
必死に逃げる。逃げる。逃げる。
距離にして五キロほど逃げて解除。
それでも逃げる。念のため逃げる。もう少し逃げる。距離を取るべく逃げる。
火山の噴火かと思うほどの火柱は直径数キロにまで広がり、周囲にまき散らされた爆風で私の体も舞い上がるが、爆発の直撃ではないのでどうにかセーフ。
ヴィジョンとコーディも充分に離れていたので問題なし。あ、ドラゴンが数匹巻き込まれたかも?
「ふう……どうにかなったかな」
爆発と爆風が収まったところでようやく一息つけた。
我ながらとんでもない威力の魔法だと思うし、これを魔王のいる世界にぶっ放していたのだと思うと……まあいいか。あちらがこっちに攻め入ろうとしているのだ。反撃されるくらいは想定して然るべき。正当防衛……だよね?
「レオナ様、ホントにすごいですね』
「ああ、うん。まあね」
ヴィジョンをこちらに呼び戻し、コーディと合流し、何となく上を見上げる。
「天井があるのかどうかわかんないけど、焦げてる様子がないって事は、すごく高いのか、本当に空になってるのか」
「考えるだけ無駄だと思いますよ」
「そうね」
ダンジョンって不思議だわ。
ちなみにドラゴンの姿は全く見当たらない。マップで見ると、爆心地から半径十キロ以内にはいない模様。まあ、この後ダンジョンと運命をともにするだろうからあまり気にしても仕方ないか。
「ん?何か飛んできましたよ」
「へ?」
上を見上げ、すぐに飛び退くと、ドサッと落ちてきたのはヴィクレアの持っていた鞭。爆風で吹き上げられたおかげか、少し焦げているけどほぼ無傷のようだ。
「レオナ様、言いたくはないですが」
「何かしら」
「あれって……アレですよね?」
コーディの指す先にはヒラヒラと舞い落ちてくる黒のビキニパンツが一枚。どうにも手出しをしたくないそれは、見ている前でヒラヒラと地面に落ちた。
「これって……どういうことなんでしょうか」
「ああ……うん、あのね……説明するより見せた方が早いか」
「え?」
「ちょっと待ってね」
すぐそばに爆風で倒れた木があったので枝を二本折り、鞭をつまみ上げる。
「ちょっと!普通は手で持つんじゃ無いの?」
「精神支配とかしてきそうだからイヤよ」
ばっちいモノを持つような扱いに、鞭から……いや、ヴィクレアから文句が出た。
「え?どういうこと?」
「これが本体よ」
「へえ」
あの体をどこでどう用意したかはわからないが、ヴィクレアは鞭を持つ者を自在に操っていたというわけ。んで、鞭のある位置ならどこにでもその体を瞬時に移動させられるという能力も持っているのだろう。だから、鞭を打ち込んだ先にすぐに移動して、鞭を避けた私を正確に追尾し続けたというわけだ。
そして、あの魔法に体が耐えられないと判断してすぐに自分自身を放り投げ、爆圧で空高く。壁で囲まれた閉鎖空間では逃げ場のない爆圧は恐ろしい威力になるけど、逃げ場のある上方向ならいくらかマシなはずと考えて。
「そしてこっちも……よっと」
「待て!なんで汚い物を扱うような感じなんだ!」
「実際汚いし」
「そんなことはない!昨日も洗ったばかりだぞ!」
パンツを木の枝の先に引っ掛けたらイゴールから苦情が。こっちもこっちであの体はイゴールのものではなく、イゴール自身はこのパンツが本体。体を細かく振動させ続けるなんて、体にかかる負担を考えたら絶対やらないからきっと、と思ったら案の定だった。んで、あの魔法の発動する直前に考えたことはヴィクレアと同じ。パンツを脱いでいたのは変態的行為でも何でも無かったわけ……んな訳あるかい!
「さて、いくつか質問」
「答えると思うか?」
「別に答えてくれなくても困らないわ。答えてくれたらラッキー、位だし」
「フン」
「一つ目、他にもあんたたちみたいなのはこっちに来ているの?」
「魔王様への忠誠を裏切るわけにはいかん」
「ええ。絶対に答えないわ」
「そう。ま、いいんだけどね」
「「え?」」
「だって私、このダンジョンを消滅というか破壊するつもりだから」
「な、何?!」
「そんなっ」
「だって、そっちからダンジョンコアに接続して、空間を繋いじゃったんでしょう?塞ぐ方法が見つからないならダンジョンコアを破壊するしかないわ」
「ま、待て!待ってくれ」
「そうよ!話し合いましょう?!」
「話し合い……何を話し合うの?そっちがこちらに攻め入ってきているんでしょう?話し合いをして何らかの約束を取り付けたって、すぐに反故にされるのがオチだわ」
「そ、そんなことはっ!」
「それに、話し合いで済むなら、私とも戦いにはならなかったはずだし」
「それはイゴールが勝手に!」
「なっ!こ、これは……そのっ」
「ヴィクレアだっけ?アンタもいきなり攻撃してきたじゃないの」
「それは……イゴールが危ないと思って」
確かに、イゴールは危ないよ。危険人物的な意味でね。
「ま、いいわ。それじゃ次の質問」
「こ、答えるものか」
「ええ。交渉決裂よ」
「ん、別にいいんだけどね。あんたたちを始末したいんだけど……どっちを下にする?」
「「え?」」
私の視線の先は、魔法で完全に溶けてドロドロになり、未だに熱々な地面。
「直接触りたくないからそこへ放り投げようと思うんだけど、どっちを下にする?それとも別々の離れた場所にする?」
「ぐ……ヴィクレアだ!ヴィクレアを下にしろ!」
「バカね!アンタが下よ!」
「お、お前の方が体がデカいだろうに」
「女性に向かって体がデカいとか、デリカシーが無さ過ぎよ!」
「事実だろうに!」
「だいたいなんでアンタが上なのよ!臭そうだからゴメンだわ!」
「さっきも言っただろう!昨日ちゃんと洗ったと!」
「そういうことじゃないわよ!とにかく、この世の全ての男は私の下敷きになるのが宿命なのよ!」
「ぬうう……しかし!私が下になったところで、ほとんど変わらんと思うんだが!それよりも俺が上になって少しでも生きのこれる可能性を!」
「男がぐちゃぐちゃ言うんじゃないわよ!」
効いててうんざりするような口論が展開されること五分。こんなのに我慢して付き合った、私頑張った。コーディもよく頑張ったね。
「どうでもいいからホイッと」
「ま、待て!」
「ちょっと!」
どっちが上でも下でも構いはしないというか、どうでもいいので別々の方向へ放り投げる。そしてそれぞれが地面に落ちるとすぐに煙を上げ始める。
「ぎゃあああ!」
「熱い!熱いわ!」
「お、お主はいつもロウソクを使っているだろうに!」
「あれは、熱くないのよ!」
意外に余裕のありそうな会話ね。




