16-13
あまり距離は取っていない状況下、火魔法レベル七、火砲を至近距離でぶっ放す。
「くっ」
「ほげええええっ」
イゴールの首に鞭を巻き付けて引き寄せ、そのまま私の火砲の盾にしながら飛び退くヴィクレア。
「貴様!この私をなんだと思っている?!」
「この程度じゃ火傷もしないでしょう?」
しないんだ……はあ。全く丈夫だわ。
「っとぉっ!」
「チッ」
頑丈さに呆れた直後、私に向けて鞭が飛んできたので、飛び退くとヴィクレアが悔しそうに舌打ち。が、
「つかまえた」
「え?」
いつの間にかすぐ斜め後ろに。
「うわっとぉっ!」
「フハハハ!」
「ぎゃあっ!」
慌てて逃げた先にイゴール。
「シッ!」
「ちょわわっ!」
飛び退こうとしたらその先に鞭。
「なんのっ!」
「んふふ、こっちよ」
「うひゃあっ!」
そして逃げた先に待ち構えている。
おかしい。ヴィクレアの移動が全く見えない。
イゴールに関してはヴィクレアに気を取られている瞬間に気持ち悪いフォームで走っているだけで、どうにか対処できているのだけれどヴィクレアが全くわからない。
「とうっ!」
このように五メートルほどの距離を取っても、
「逃がさないわ!」
と、明らかに手元にあるときよりも長く伸びているんじゃないかという鞭を打ってくるのであわてて飛び退くが、その直後にすぐそばに来ていて捕まえようとする。
「うわっと!」
「チッ、本当にすばしっこいね」
一体何がどうなっているのか、すぐそばに来た時点では鞭はクルリと丸められていて、あわてて距離を取っても舌打ちの直後に打ってくる。
高速移動というにはあまりにも速い。
「フハハハ!ヴィクレアの魔の手から逃れる術は無いと思え!」
「魔の手なんて失礼ね!愛の抱擁よ!」
「どっちもどっちよ!」
そうして何度か攻撃をかわし、距離を取り、を繰り返す。
何となくだけど、ヴィクレアの高速移動がどういうものか見えてきた気がする。何をどうして移動しているかというのも気になるけど、今は移動手段の解明よりも、移動されることを前提とした立ち回りを考えるべきだろう。そう、どこに移動するかがわかれば、逆に移動する先をこちらでコントロールできればいい、と考えることにした。
何しろこの二人の移動速度とか防御力とかは今まで私が相手にしてきた中でも魔王の分体とかを除けばトップクラス。生半可な攻撃は通用しないだろうと考え、ある程度彼らの行動を制限して逃げることも防ぐことも耐えることも出来ないような攻撃を叩き込むしかないだろう。
と言うことで、どうやって倒すかのイメージを固め始めたところで、ヴィクレアの我慢は限界を迎えたようだった。
「ああ、もう!ちょこまかと!」
バシッとすぐそばの地面を鞭でえぐると、キッと上を見る。その視線の先には私のヴィジョンに抱えられたコーディが。
『降りてきなさい。そしてこのすばしこい娘を拘束しなさい』
「は……い……」
これが魔道言語かとはっきり認識した。その声を聞いたコーディの目の焦点が合わなくなり、もそもそと動いてトン、と飛び降りた。
よりにもよって、私のヴィジョンに糸をかけて落下速度を調整しながら。
「フン、あっちには効かないのか……どういうことだかわからないけどまあいいわ」
「おいヴィクレア」
「何よ?」
「いいのかそれで」
「は?」
「魔王様の配下として、戦士としての誇り「誇りで進軍が成功するなら苦労はないわよ」
あ、一応誇りとかプライドとかあるんだ。
さて、糸を伝ってスルスルとコーディが降りてくるので私のヴィジョンがあたふたしている。そうだよね。私の指示は「コーディを守れ」なんだけど、肝心のコーディが敵の元へ向かっているんだから。
そして必死に糸をつかんで引き戻そうとするんだけど、糸自体がコーディのヴィジョンだからどんなにたぐり寄せてもコーディが引き戻されることはなく、あれよあれよという間にコーディが着地。同時に糸も消える。
『さ、やりなさい』
「はい」
ゆっくりと頷いたコーディたこちらへスイと手のひらを向けると、やや太めの数本の糸がこちらへ飛んできて私の体に巻き付く。
「んふふ……いい子ね」
「ありがとう、ございます」
「さて、覚悟はいいかしら?」
「いいえ、全然」
おそらく、ヴィクレアの認識としては、この糸はとても丈夫で簡単には切れない、と思ったのかも知れない。
「えい」
手近な数本を両手でつかみ、ぐいっと引っ張ればブチッと切れる。そしてコーディから切り離された糸は勝手に消える。
「な?!」
「なんの問題もないのよ……ねっ!」
一気に踏み込んで放った拳は僅かに届かず。だけど、これでコーディを操る意味がないことは理解でき……え?
「拘束しました」
「よくやったわ」
コーディに羽交い締めにされました。
「さて、覚悟なさい」
「嫌よ」
ゴン!
軽くジャンプしてアゴに頭突きしつつ、右肘を脇腹にめり込ませる。
「!!」
アゴへの一撃は脳を揺らし、脇腹への一撃は内臓がひっくり返るほどの不快感。悶絶するのも当然ですね。
「お前……仲間に対して容赦ないのかよ」
「あなたたちに言われたくないわ」
そちらもそちらで同士討ち上等みたいな動きをしているじゃないの。
さて、こんなやりとりをしている間にも、ヴィクレアの高速移動はどうにかなりそうな目途が立ったので、反撃といきますか。
そう決意して仮面を取る。
大したことはないと言え、コーディがうろちょろしているのは邪魔なのです。
「コーディ、正気に戻った?」
「はひ……ひどいです」
「非常時だから仕方ないと諦めて」
軽くヒールをかけたあとはヴィジョンにまかせる。
「距離を取っておかないとマズいかも知れないから!」
「え?え?」
あまり離れすぎると不測の事態もありうるけど、近すぎるとそれはそれで危ないと示唆しておき、変態二人へ。
「さて、そろそろこちらから行くわよ」
「ほう」
「まだ私たちに勝てると思っているのかしら?」
むしろ勝たないと、この変態が世に放たれてしまうのですが。
「と言うことで……ていっ」
土魔法レベル四、ストーンウォールで厚さ数メートル高さ数十メートルの壁で二人を取り囲むように四方につくり出す。私はそのままつくり出される壁の上に立ちながら続けて土魔法レベル五、硬化。
「な!」
「何をするつもり?!」
「これで……逆にあなたたちがちょこまか動けないようになったわね!」
「くっ!」
ヴィクレアが上に向けて鞭を撃つが、鞭が伸びてもせいぜい半分程度の所まで。そしてその鞭の先端にヴィクレアが現れるが、もう一度鞭を放つには無理のある体勢で、悔しそうに顔をゆがめながら地面へ落ちていく。
ヴィクレアの高速移動はどこにでも行けると言うほど便利ではなく、鞭を放った先に移動するのみ、と予想したんだけどとりあえず正解だったようね。
しかも、連続して移動は出来ないようなので、こうやって高い壁で囲まれたからといって登れるわけでもない。
「フン!ハアッ!」
一方、イゴールは自慢の肉体を駆使し、殴ってみたり蹴ってみたり体当たりしてみたり。
だけど壁自体を目一杯固くしてあるのでびくともせず。
「さて、それではこれで終わりにしましょう!」
火魔法レベル十、滅却の業火。今まではダンジョンコア、正確にはダンジョンコアと同化した空間の穴の向こう側に向けて放ってきた魔法をぶっ放す。MPがゴリゴリ削られるので、リスキーだけど、今はしょうがない。私の回復力が上がっていることに期待して目一杯の威力で魔法を放つ。




