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んー、それもそうかと納得していたらジェライザ王妃が仕方なさそうに、席を用意してくださったので、とりあえず受け入れるしかないだろう。
ちなみにこの国では、王が認める実力のある者が次の王になる。それは男性、女性関係なく。そして現国王のように王女や王子、いない場合には近しい者から王配が選ばれる。
また、王が認めるほどの実力者がいない場合は、普通に王の長子が受け継ぐ。
こうした制度になっている理由はとても単純で、実力を認められたタイプの王は彼のように脳筋で、政治なんてとても任せられないから。
それだけでもこの国が過去に色々あったんだろうと推測できるのだけれど、現在進行形で政務能力に疑問を感じる王様だったとはね。
そんなことを考えている横で、国王夫妻は何やら話をしている。コーディが必死に聞き取った感じではダンジョンに誰が行くかでもめているらしい。
「この国で一番の実力者たる俺が行かなくて誰が行くんだ?!」
「ダンジョンが崩壊する可能性が非常に高い上に、ダンジョンが崩壊したら都市ごと国が消えるのですよ?国民の避難などのために王がいなくてどうするのですか?」
「だが、俺にはダンジョンの行く末を見届ける義務があるはずだ」
「国民を導かずして何が王ですか」
話が平行線だというならまだしも、方向性が違いすぎるというか何というか。
「あの」
「はい、レオナ様」
「ここのダンジョンですが……おそらく百層はあるはずです」
「そうだな。俺もそう思う」
「カイル王には聞いていないのですが、そこまでとなるとカイル王ですら無事でいられるとは言えません」
「何?!」
「私に歯が立たなかった時点で諦めてください」
「そうですね……レオナ様とそちらのコーディ様は大丈夫なのでしょうか?」
「問題ありません」
コーディ、青ざめながら訳さないで。あなたはちゃんと私が守るから。
「先ほどもご覧になったと思いますが、私が防御のための障壁魔法を展開しますので、ドラゴンに頭から食われて咀嚼されるという事態にでもならない限り大丈夫だと思いますよ」
「なるほど」
わかりましたと両手をパンと叩き、「では移動しましょう」と馬車へ誘われた。
「あの、私たち馬車でなくてもいいんですが」
「もう少しお話をしておく必要がありまして」
「はあ」
「ダンジョンに向かうにあたり、騎士団の者を同行させます」
「え?」
何それ。ぶっちゃけ邪魔。
と、ズバッと言うわけにもいかず、どうやって断ろうかとコーディに相談してみたが、彼女にもいい案はなく。どうしたものかと悩んでいるうちにダンジョンの入り口についた。
ここのダンジョンの入り口は、地面にいきなりぽっかりと開いた穴で、ゴツゴツとした洞窟っぽい道を十メートルも降りていくとダンジョン、とのこと。穴の周囲には柵が設けられていて、反対側から誤って転落しないようにという配慮もされている。
そして迷宮都市の呼び名の通り、ダンジョン入り口を中心にざっと百メートルを超えるくらいの円形の広場になっていて、露店がずらりと並んでいたが、騎士たちによって立ち退きをさせられている。ダンジョンが崩壊したら商売どころではないからと言う理由以上に、入り口前にずらりと騎士たちが整列していて邪魔になるというのが主な理由っぽい。あとは王族の馬車も来るからね。権力って恐いわ。
って、なんで騎士がずらりと並んでいるのだろう?
「えーと……これは?」
「この者たちと共にダンジョンへ入っていただきます」
ちょっと多いんですけど?ざっと五十人はいるんですけど?
さすがに多すぎるので少し減らしてくれ、くらいは言おうと思ったら整列した騎士たちの正面に立っていた女性騎士が王妃に敬礼し、全員揃っていて準備も出来ているという報告をしていた。
「レオナ様、こちらが我が国の騎士団第三隊隊長、ボニー・マーカムです」
短く揃えた茶髪に濃い灰色の瞳、キリッと引き締まった顔が素敵な方なんですが、身長が多分百九十越え。肩幅がレイモンドさんといい勝負というとんでもない体格で、そばに立てかけられた戦斧を片手でクルクル回すくらいは余裕でこなしそうな感じで、整列している騎士たちにも全く引けを取らない、偉丈夫……女性だけど。
「どうも。レオナ・クレメルです」
「通訳のコーディです」
「ご丁寧にありがとうございます」
あちらも長々と挨拶するつもりはないらしく、そうそうに切り上げられたところで王妃がまたとんでもないことを言い出した。
「王国騎士団第三隊、全てレオナ様に同行させます」
「あの……多いんですけど」
「承知しております。が、ダンジョン内には我が国の国民であるハンターたちが多数潜っているところです」
「それはまあ、承知しています」
「彼らに速やかに地上に戻るように通達して回るのが騎士団の役割ですので、レオナ様はダンジョン最奥を目指していただいて構いません」
なら、同行という表現はしないのではと思うのですが。
「ただ、ボニーのヴィジョンはとても役に立ちます」
「はあ……どういうヴィジョンなのでしょうか?」
「それはダンジョンの中で実際に確認していただくのが一番かと」
「わかりました。ただ一つだけ、お願いが。ボニーさん」
「はい」
「これだけの人数があちこちに移動されたら私でも守りきれません。魔物から身を守るのはご自身で」
「それはもちろん」
「では、早速ダンジョンへ」
「はいっ!」
ボニーさんの号令と共に騎士たちがダンジョンへ入っていく。一糸乱れぬ行進というのはこの事を言うのだろう、ザッザッと言う足音や、ガチガチという鎧や武器の音が完全に同期していて見る者全てを威圧しているような、そんな感じだった。
「さて、レオナ様」
「はい」
「我が国はもうそれほど長くはないと言うことは理解しました」
「え、ええ」
今からその話?
「先のことを決める時間的猶予はありませんが、まずは国民たちを外へ逃がすことを最優先とします」
「そうですね。生きてさえいればなんとでもなります」
「ええ。ですので、無事に魔王の侵攻を阻止できましたら、じっくりとお話「ちょっと待て!」
また王様が割り込んできたよ。ここまで走ってきたのかしら?肩で息をしている。ああ、後ろから部下?お付きの人?がこれまた息を切らせて追いかけてきてるし。
「やはり俺も行く!」
「あなた」
絶対零度の視線にピシ、と王が固まった。
「何度言わせるのですか?」
「しかし」
「あなたはダンジョンの攻略よりも民を導くのが最優先。違いますか?」
「いや、でもそれは……ジェライザがやった方が早くないか?」
「……」
「えっと」
「では、民の避難が終わってからならダンジョンに入ることを許し「よし、すぐに取りかかるぞ!」
すごい勢いで去って行くのをまた数人が慌てて追いかけていく。とりあえずヒールを飛ばしておこう。王様は除いて。
「それでは行ってきます」
「はい。この国だけでなく、世界のために。よろしくお願いします」
実に礼儀正しく見送られてしまったのに少しむずがゆさを感じながらダンジョンに入ると、コーディが怪訝な顔をしている。
「レオナ様、どうしました?」
「ん?いや、なんていうか……こうやってダンジョンに入るのを見送ってくれた人って、タチアナくらいだったな、と」
すると、コーディがビシッと手を上げた。
「私!」
「ん?」
「私も残ります!あの王妃様のそばなら私の扱いも穏当でしょうし!」
「あなたは通訳としてきているんだけど?言葉が通じない騎士の群れとどうやって過ごせと?」
「……すみません」
わかればよろしい。




