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  作者: ひじきとコロッケ
異世界チートの皆様って商才豊かで羨ましいです
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15-5

「あとは、おはぎって食事じゃないのよ」

「そうですな。午後のお茶のお茶請け……菓子ですな」

「だから他のメニューを広める方向にしようかなと思って」

「賢明な判断かと思いますが……そこまで伝えてはいないと?」

「ええ。教えられないと答えた直後のあの落胆した姿を見たら、なんだかいたたまれなくて」

「となるとやはり、新メニューですね」


 仕事モードの時のセインさんはキリッとしていてほとんど表情を変えないのだけれど、ちょっと嬉しそうな顔になった。


「お茶請けでは無く食事になるような新メニューのお披露目をするということで、彼らを招待しましょう」

「新メニュー……うん、頑張ってみる」

「その心意気です」


 そう言いながら手元のメモに色々と書き付けていくセインさん。誰を招待するかも含めてお任せしてしまおう。


「それでレオナ様、彼らの招待はいつ頃に致しましょうか?」

「招待……今度は屋敷に呼ぶのね?」

「そうなりますが、全員呼ぶ必要はございません」

「そうなの?」

「寄り親の貴族を呼べば、寄り子となっている者たちは呼ばなくても大丈夫です。そのあたりはうまく話をつけますので」

「なるほど」

「ただし、書面は今日中に送っておいたほうがよいでしょう」

「日程を決めろということね。まとめて呼ぶのかしら?」

「そうですね。差をつけるのは避けたいところです。当主とその妻か子を呼ぶのでだいたい三十名を見込みます」

「んー」


 どうしよう。

 条件としては……まず、食事であること。これは絶対。そして、製造工程で必要になる道具が、普通に使われているか、簡単に作れるものであること。

 よし、と立ち上がってエルンスさんの元へ。いくつかの話をして、必要な道具の取りそろえの目途をつけ、招待は三日後となった。




「不思議な香りですね」

「うん」


 おはぎを作る工程とはまたちょっと違った調理工程にクラレッグさんが率直な感想を述べる。

 目の前のコンロには鍋が一つ。ただし、その鍋の蓋は分厚くて重い。この世界で使われる一般的な鍋の蓋とは全く違い、蒸気の圧力を逃がさないようにした蓋だ。急ごしらえなので、鍋のサイズに合わせて丸く切り出した板の上に重しを乗せているだけなんだけどね。

 僅かに噴き出す蒸気から漂う香りと、鍋の中からの音と加熱時間から頃合いだろうと火を止めてしばらく置き、蓋を開ける。


「おお」

「これは」

「えーと」


 近寄ってきた面々が中身を見て……ちょっと戸惑っている。うん、作った私が一番戸惑ってるよ。作ったのはラド麦とラプ豆を適度な割合で混ぜて炊き上げたもの。日本で言うところの赤飯なんだけど、例によってラプ豆が緑色のせいで、全体が綺麗に薄い緑色。ご飯の部分の緑色がもう少し薄かったら豆ご飯という……赤飯と言うよりも緑飯?

 とりあえずお玉ですくって……シャモジなんてないから仕方ないよね……お皿にのせた後、スプーンで……お箸が以下略……ひとくち。うん、味は赤飯だね。

 そしてそのまま隣で並んで口を開けているタチアナとシーナさんにも。ヒナに餌を運ぶ親鳥の気分だわ。


「ふむ……なんというか、不思議な食感ですね」


 一方でクラレッグさんは冷静に分析している。


「麦の部分の粘りはおはぎよりも弱めですがしっかりとした食感。一方で豆はほっくりとした感じで……フム」

「新メニュー案その一としてはどうです?」

「うーん」


 微妙か。見た目がイマイチで、味も特にこれと言った特徴がないのでは「これは!」というインパクトに欠けるわよね。だけど、まだ残っているのよ。


「と言うことでこちらに来ていただきました護衛騎士の皆さんです」


 皆さんと言っても隊長のライルズさんと二人だけなんだけどね。三人とも昼ご飯を普段の半分にしてもらっての参加です。


「ふむ……これはなかなか、腹にたまりますな」

「ええ。見た目以上に腹がふくれます」


 そうなのよ。それが狙いなのよ。


「それ、重要なんですか?」

「重要よ」


 クラレッグさんはピンときてないようなので指摘しておく。


「日常的に食べることにはならないでしょうけど、不作の時とか、災害があったときの食事としては結構いいはずよ」

「んー、確かに腹にたまりやすいですが、それなら……」


 悩んでいるようなので、後もう一押ししておこう。


「ライルズさんたちは食べ終えたらそのまま業務に戻ってください」

「え?ええ、まあそれはもちろん」


 まだ他にも食べるものがあると期待していたのか拍子抜けの顔だけど、一つ付け加えておこう。


「日が暮れる頃にもう一度呼びますので」




「何というか……あまり腹が減ってないというか……いえ、減ってるんですけどね、いつもよりも腹が鳴らない気がします」

「わかりました」


 どう?とクラレッグさんを見ると、ポカンとしていたのでちゃんと説明する。


「これ、お腹にたまりやすくて、長持ちするんです」

「長持ち?」

「ええ。なので、非常時に空腹感を覚える時間が減るんですよ」

「なるほど」

「それは確かに助かりますね」


 そんな感想を述べているのを横目にセインさんへ。


「どうです?」

「良いのではないでしょうか」


 庶民がなかなか口に出来ない菓子よりも、実用性重視の食事メニューというのは貴族たちにとっても重要性は高いと判断されるはずとのことで、これを候補としておく。

 問題としては精米手段が手作業と言うことだけど、これははどうにかなる予定。

 手作業でやっているといっても、いい感じの道具や機械がないから手でやっているだけで、実際にやってる作業は単純そのもの。エルンスさんの方で色々と考えてくれているけれど、最終的には街のどこかの工房に丸投げする予定。

 そうすることで、私が利益度外視で取り組んでる感を醸し出すというわけ。

 あとはラド麦をさらに柔らかくして餅にしてしまうというのも考えたんだけど、餅にしたあとどうするかで行き詰まった。

 アンコをのせるのは今のところ一番お手軽だけど、おはぎと完全に被るから保留。

 焼いて砂糖醤油……醤油の目途がついてるけど量産体制が取れないから保留。

 磯辺焼き?海苔がない。

 他にも色々あるけど……基本的に味噌や醤油前提なのよね。

 ああ、あった。ベーコンとチーズを乗せて焼くというレシピ。と言うか、お餅ってピザ生地とかパンみたいに使うのも出来るわけで。


「もう一品、用意しておこうかな」

「おおっ!」

「さらに?!」

「これは期待出来ます!」


 ぽつりと呟いただけなのに、周りの盛り上がりがすごい件。

 とりあえず赤飯というか緑飯にラド麦を使い切ってしまっていたので、再び下拵(したごしら)えとして一晩水につけておこう。

 翌日、朝も早くからタチアナに叩き起こされた。


「んー、まだちょっと早いよね?」

「いいえ」

「早いよね?」

「いいえ」

「新メニューが朝食になることはないわよ?」

「そんなっ!」


 そこ、なんで崩れ落ちるのよ。お餅を作るのは結構時間かかるのよ。




「嬢ちゃん、こんなんでいいのか?」

「ん、上出来です。急がせてゴメンね」

「なあに、これでまたうまいもんが食えるんだろう?」

「き、期待に応えられるよう頑張るわ」


 エルンスさんに急遽杵と臼を作ってもらった。木材の加工だからちょっと専門外だけど、それほど時間はかからずに出来たのは彼の優秀さ故だろうと思う。

 そして私の目の前ではラド麦がじっくり一時間ほどかけて蒸し上ったところ。準備は整った……ん?これ、誰がつくのかしら?あ、いえ、私がつけばいいんだけど、合いの手は誰が入れるのか。タイミングとか餅をどうやって返すとかそう言うのを知っている人がゼロという環境での餅つき……あ、問題なかったわ。

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