14-13
「どうでしょうか?」
「こんなのいつ造ったの?」
「つい数日前に完工しました」
「へえ……」
ライルズさんに連れられてきた先は……護衛騎士の詰める部屋の側から入れる地下牢。おかしい、この屋敷にこんな場所はなかったはずと思ったら、必要だと思って造ったと。
「もしかして、エルンスさん?」
「設計と大まかな指示はそうですね」
「これ、セインさんは?」
「もちろん許可を取っております」
「ならいいか」
と言うことでここに全員運び込み、鎖で手足を繋いだ後に私が折れた骨を治す。
「あとは水でもぶっかければ起きるでしょう。そのあとは尋問ですが、ロクな情報は得られないでしょうし……餓死させますか?」
お願いだから私の屋敷内で気軽に殺さないで欲しいんですけど。
「コイツらって、金払いの良い方につくタイプなのかしら?」
「ま、そうでしょうね……まさか雇うのですか?」
「使えそうならそれでもいいけど」
「使えるとはとても思えません」
「でも、このまま解放すると……あ、そうだ」
使い道、あるじゃないの。
「水ぶっかけてたたき起こしておいて、準備をしてくるわ」
「わかりました」
彼らは犯罪者。罪状は不法侵入。しかも侵入した先は国王が特例的に認めたクレメル家。首チョンパしてもいいが、それ以上の苦悩を味わってもらうことにしようと、人数分の皿を用意。これは、ただ単に地べたにそのままおくのは忍びないという程度の配慮です。
準備を終えて地下牢に戻ると、全員目を覚まして、ウチの騎士たちと罵倒合戦していた。
「静かに!」
ちょっと威圧するとすぐに静かになるけど、誰彼構わずと言うのが欠点ねえ。
「さて、私の平穏な暮らしを掻き乱しに来たあなたたちには、二度とこんな仕事ができないような地獄を味わってもらうから覚悟するように」
「ハッ、小娘が」
「できるモンならやってみろ」
生きが良いのは大いに結構と、用意した皿を狭い檻の中へ差し入れる。
「これがあんたらのここでの食事だから。覚悟して」
皿の上にはそれぞれおはぎが十個。これを一食分として想定だ。
そうやって私自ら置いて回っているというのに四人目は実に失礼な奴で、私の腕をいきなりつかんだ。
「ん?」
「へっ、捕まえたぜ」
「えーと」
「言っておくが俺の握力は結構強いぜ?このまま握りつぶしてやってもいいぜ?へへっ、離して欲しけりゃ俺をここかぎゅぅわああ!」
乙女の柔肌に気安く触れるんじゃないわよと、そのままぐいっと檻の外へ引っ張り、えいっとひねってゴキリと折る。
「あ@$%&#?!!」
うんうん、痛いでしょうねえ。上腕に一つ関節が増えたみたいになって百八十度曲がっているから。
「これに懲りたらおとなしくしなさい……ヒール」
治してやると、泣きながら後ずさって隅っこへ逃げていった。檻の中、二メートル四方くらいだから大した距離はないんだけどね。とりあえずうるさいのが静かになったので全員の檻に皿を置いていく。
「一ついいかしら?」
「何?」
「これは何?毒でも盛ったの?」
「質問が二つになってるわね」
「ぐ……」
「何と言われると説明しづらいけど食べ物よ。毒は入ってない。と言っても信じられないかも知れないけど、少なくとも私にあんたたちを殺す理由がないの」
「へえ……その割には私たちを捕まえるときに容赦なかったみたいだけど?」
「また質問が増えるのね、まあ答えるけど。単純な話よ。手加減が難しいってだけ」
「へ?」
「知らずに来たの?」
「えーと……」
「ここから無事に帰れた暁には上司に一つ報告するといいわ。私のヴィジョンは、デカいドラゴンをぶん投げるくらいの力があるって」
静かになったのでその場をあとにすると、ライルズさんたちもついてくる。
「いいのですか?」
「何が?」
「食べるものですが」
「いいのよ。たくさんあるし」
クラレッグさんたちが毎日試作しているのをアイテムボックスに回収しているのだけれど、相当な数になってきている。この先、またダンジョンへ行くときに持ち込む食料――私が食べるだけでなくて、ダンジョン内で出会った人に渡したりする用ね――になる予定なのだけれど、さすがにちょっと多い。
そこで彼らの食事にする。毎食十個、それを三食。六人いるから一日に百八十個も消費してくれるので、ひと月くらいは滞在してもらってもいいと思っている。そして、檻の中はとても狭い。そんなところに炭水化物の塊、カロリーの象徴のようなものを食べさせたらどうなるか?
きっと、太るね。しばらくはこんなことができなくなるくらいには。
それから数日、エルンスさんを連れてダンカード領まで出向いて工場建設の話と諸々の契約の話を詰めた。
価格設定は以前の話の通りだけど、基準にする砂糖の価格は、ある程度の幅で変動するので、基本的に前月末時点での王都で売られている平均から計算することとした。買い叩くつもりはないけど、ちまちまと価格が変動するのはお互いに面倒なので。
工場の建設はこれから。何も無い空き地で建物を建てたり、運搬用の道を整備したりといったところからなので、工場の稼働は多分二ヶ月ほど先になるそうだ。それまでの間の砂糖は確保しておいたので、店の営業は問題ない。事故の無いように注意して工事するように念を押しておいた。
そんな感じで、私が色々顔を出さなければならないところはだいたい片付いて、店の開店に向けてスタッフの教育がどうなったかというのが残る課題として数日が経過。
いよいよ明日からは店の設備を使っての調理、接客の流れを確認していこうというところで、厨房へ店員その他が集まった。
私の目の前には三種類のアンコとそれをつかったおはぎが並んでいる。
クラレッグさんは他の皆と協力し、アンコの水分量を変えることで色々とバリエーションが作れることに気付き、こうして私の前に並べて見せたのだ。
「どうでしょうか?」
試食した私に恐る恐る聞いてくるので、
どれも問題なしと答えておく。
甘さも柔らかさも申し分なし。
日本のスーパーやコンビニで買える物と比べても遜色ない物だと思う。色が緑色なのは……もう慣れた。
「ただ、お店で出すのはどれがいいかというのは悩ましいところね」
「ええ。私たちの中でも意見は分かれています」
個人的には柔らかしっとりが好きなんだけど、お店で出すのは固めてちょっとパサついた方がいいかもしれない。
今までは個人的に振る舞っていただけなんだけど、お金を取るとなった場合……特にお店で食べるとなった場合は手づかみというのは貴族にとって抵抗がありそうだ。そう、手づかみの場合、しっとり系は当然手にアンコがつくし、それをなめて取るなんて、となる。そうなるとフォークを使って、となるがその場合、柔らかすぎると扱いづらい。
「とりあえず貴族向けの店は固めのでいいかな。庶民向けは色々バリエーションがあってもいいかもね」
「なるほど」
個人的にはこしあんも作ってみたいところだけどね。
「ではこれを採用するとして……売る数の見通しはモーリス殿と詰めていきます」
「よろしくね。何か困ったら相談に乗るから」
「大丈夫ですよ」
「え?」
「もうアンコのことなら何でもお任せです」
んー、ちょっとこれは……ダメな傾向が出かかっていると判断。
料理人としての腕は申し分ないが、今までは他の料理人たちと同じ土俵で戦ってきていた。だから突出すると言うことがなく、切磋琢磨を続けていたのだが、コレに関しては現状では他に比べられる料理人がいない。
自信を持つのはいいことだけど、謙虚さを忘れてはいけない。何よりも……アンコに関してはまだまだ認識が甘いとしっかり教えておかねば。




