14-11
「と言うことなのだが、一枚噛むかね?」
「う……ううむ」
アメリアさんの出した案は……スルツキの栽培はこれまで通りフォーデン領で行う。そして砂糖への加工はダンカード伯爵領で行い、クレメル家が全部買い上げる。
生産量はクレメル家が調整をかけるが、フォーデン伯爵としてもダンカード伯爵としても余剰在庫ができてだぶつくことがないのと価格をきちんと調整すればどちらにも損はない。
「クレメル家としては王都での砂糖の価格に二割上乗せして購入します」
「ふむ」
「フォーデン領からの出荷としてはこのくらいの量を予定しております。価格は……スルツキ自体に値がついたことがないので何とも難しいのですが、サトウキビ相当と同程度の額を予定しております」
つまり、サトウキビから作るよりも加工賃を高く設定していると言うことになるのだが、実際にはサトウキビから作るよりも加工にかかる手間は少なくなるとエルンスさんからは聞いてる。つまり……ダンガード伯爵領は少しばかり利益を多く得られると言うことになる。
「むむむ……しかし、加工するための……その……」
「工場の建設、機材の手配はすべてクレメル家が負担します」
「むむ……」
ダンカード伯爵領は農地としてはちょっと貧弱で、領民全員が食えるほどには生産できない土地。その代わりと言ってはなんだけど、鉱山が多く、各種金属の産出でバランスを取っている。だが、鉱山というのはどうしても危険が伴う。労働環境にどれだけ配慮しても事故は起こる。そして怪我などで働けなくなった者たちは……伯爵領にとっては扱いづらい領民となる。
鉱山の運営は伯爵家なので、事故で働けなくなった者たちへの補償は伯爵家が負う。つまり……収益を生み出さず、支出だけが積み上がっていく領民が少なからずいる。
事情が事情だけに伯爵領が生活費の面倒を見るという、社会保障という意味では実に近代的な仕組みだけど、そうでもしないと鉱山労働者を集めるのは難しいという事情もあるんだって。意外に世知辛いというか何というか。
だが、砂糖の加工所を作ったらどうだろか?
今も王国内では砂糖の生産、加工はされているが、今回作るのはそれよりもはるかに規模は小さく、生産量は少ない。だが、確実に需要があるようにして常に一定の生産を続けなければならない。
となると、労働量はそれほど多くなく、怪我などで手足が多少不自由でも働ける。マイナスをプラスに出来るほどにはならないだろうが、マイナスを少しは減らせるだろう。
しかも、そのために必要な建物や機材、つまり工場の建設費はクレメル家が負担するのだ。
つまりこの話、全体を見通してみると、フォーデン伯爵領はスルツキを増産するのは大した手間ではないし、今まで特に売る先もなく自分たちのところの家畜のエサとして栽培していた物が現金になるのでお得。ダンカード伯爵領は働きたくても働けなくなってしまった領民の雇用先として使え、給料を支払っても利益が残る。そしてクレメル家は多少値が張っても確実に砂糖を仕入れることが出来る上、市場流通に影響を与えないのでガンガン買える。買った分だけ売ればいいだけだし、今のところは二割増しの金額を想定しても結構な黒字になるという単価設定がされているから心配ない。
「もちろんお断りいただいてもいいですし、こういう話が合ったと他言しても構いません。隠すつもりもありませんから」
隠してもいいことは一つもない。そもそもダンカード伯爵に話を持ってきたのはフォーデン領と開拓村の間に領地があるからと言うだけで、それ以上の意味はないことを強調しておく。
「うむむ……」
「もちろん、即断即決は難しいでしょうから、今日のところはこれで失礼します」
恐らく彼の中では、事前に持ってこられたであろう、私に対して敵対とまでは行かずとも、という話と、今回の話が拮抗していると思う。
私に協力しないというのは……別に益も損もない。ぽっと出の貴族家なのだから。では今回のこの提案は?金銭的に損はないが、少しだけ益がある。しかし、他の貴族家からの風当たりがどう変わるかというのが難しい。
クレメル家がこの先も続いていくと見られる有力貴族なら、がっちり手を組むのも有りだが、今のところは先行きが不透明。
だが、ここで首を縦に振っておくと、私を間に挟んでオルステッド侯爵家との強い繋がりができる。これをどう捉えるだろうか?
「じ……条件があります」
「聞きましょうか」
「まず……」
彼の出した条件は三つ。
一つ目が街道の整備。それなりの重量物を輸送するのだから当然だと。こちらとしては何も問題はない……どころか、街道が整備できると開拓村としてもありがたいので二つ返事で了承です。
二つ目は最低生産量の保証。工場を造り人を雇ったはいいが……というのは避けたいと。こちらは今のところは保証しかねるが……と答えた。私の店の事業自体が先行き不透明なので。ただし、工場の建設に着手するまでには何らかの回答をするとしておいた。
三つ目が、この事業について他の砂糖を生産している領にも伝えつつ、そちらの砂糖もある程度は使うこと。隠すつもりもないし、既にそれら貴族家には話を持ちかけようとしていたのだから、問題ない。それにこれはクレメル家専用の砂糖製造事業だけど、それだけで足りるかというと何とも言えないから、多少は普通の砂糖も購入するだろう、というのがクラレッグさんとモーリスさんの見込み。
「何も問題ありません。では、細かい取り交わしはまた日を改めてと言うことで」
さて、忙しくなりそうね。
私はそのまま自宅に帰るけど、フォーデン夫妻はダンカード伯爵たちと共にこのまま伯爵領へ向かうという。工場の建設予定地を決めるために。フォーデン夫妻が同行する理由は単純で、スルツキを輸送する先になるから立地を確認したいのと、場合によってはフォーデン伯爵の負担で道路整備もするんだそうだ。
「ダンカード伯爵にとっては願ったり叶ったりなのかしら?」
「そうですな。最近は鉱山事業がやや不調と聞いております。後ろ盾と呼べるほどの他の貴族とのつながりも弱い方ですし」
「これを機にフォーデン家とクレメル家、ひいてはオルステッド侯爵家とのつながりをもつというのも有りってこと?」
「はい。決して損はないでしょう」
セインさんにアランさんたちの分析を聞きながら開拓村の状況を聞く。
「ふむ……アブラナの栽培を開始」
「種を植えた程度ですが、いよいよ開始となりました」
「多分ふた月くらいで収穫出来るのでは?と言う話でしたよ」
「なるほど」
ダート豆から油を採ると言うことも出来るが、ダート豆自体が家畜の飼料なので大量に買い込むわけにはいかない。そして他の豆はどうかと言うと、調べてみた限りダメ。つまり、植物性油を使った料理を店で出すという場合には開拓村でダート豆を栽培するか、アブラナを育てるかの二択というのが現状。だが、ダート豆は他の農家と食い合う形になると問題なのでちょっとすぐには手をつけられない。
ちなみにこっちのアブラナは一年に五、六回収穫出来るらしいので将来的には大量生産が出来そうだけど、現時点では作付面積も小さいから生産量はたかが知れている。半年くらいはクレメル家と開拓村で消費する分くらいしか作れないだろう、というのがアランさんの意見。
開拓が進んで畑が広くなり、栽培のコツを掴めば相当量の収穫が見込めそうだけど、さすがにそれをやるにはまだ人手が足りなすぎる。
恐らくオルステッド家は諸々の料理を食べた結果として、さらに村民を集めるべきだと動き出しそうだけど、現時点で全員の家が建っていない状況なので、それは無理と回答している。
森を切り拓き、その木材で家を建てるので、建築資材は今のところ問題が無いが、畑が広がるにつれて、切り倒した木材を運ぶ距離は長くなり、時間がかかるようになる。人を増やしても簡単に解決できる問題ではない。
焦らずゆっくり人を増やしていけばいいのだけれど……
「何しろあのテンションでして。我が家族ながらお恥ずかしい限りです」
「いえ、そんなことは」
貴族だけど肉体労働系の一家だからああいうガッツリ系は気に入るんだろうな。




