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「こちらをどうぞ」
「えーと……ん?」
渡された手紙には、早急に登城するように書かれていた。
「城に?何の用かしら?あ、昨日の件を報告した結果、対応を協議したいとかそう言うのかしら?」
「いえ。二枚目をご覧下さい」
「二枚目……え……」
「レオナ様?」
「アランさん、こういう手紙でした」
心配そうな顔になったアランさんに見せると、ああ……という表情に変わった。
「セインさん、この早急、というのは今すぐと言うことでいいのでしょうか?」
「はい」
「わかりました。仕度をしましょう」
手紙に書かれていたのは、現在開かれている緊急の会合に出席するように、と書かれていた。そしてその会合の内容についても軽く触れられていた。差出人は国王陛下名義だけど、なんだろう……面倒くさいことが起きる予感しかしない。
馬車を走らせながら、セインさんとアラン夫妻にどうすれば良いかレクチャーを受ける。
「議題がレオナ様の叙爵についてと、開拓村の現状について、そして新たに開く店についてと言う時点で、レオナ様に対しての……」
「まあ、良い感情を持たない貴族がいるだろうって事は聞いてましたけど」
貴族と言えど一枚岩では無い。色々な意見があって当然。だから私に対しての批判が出るのはわかるけど、まだ貴族になってひと月そこらの小娘の扱いについて緊急の貴族会議を開いて抗議するとか、大げさすぎでしょう。私がどこかの貴族の利権をどうにかしているとか、予算を食い潰しているとかならまだしも……ああ、こっちは該当してたわ。現時点では私とその周辺、タダ飯ぐらいで全然稼いでなかったわ。でも、これから稼ぐんだし!あ、貴族から巻き上げるだけでこれと言って何かを生産するわけでは無いか。
「と言うことで、負け要素ばっかりですね……あははは」
「レオナ様の言動を表面だけなぞればそうなりますが、実際には違います」
「そ、そう?」
「はい」
「自信を持って下さい」
三人に慰められた。
「では、どうすれば良いのでしょうか?」
「レオナ様、こちらを」
「招待状?」
セインさんから十数通の招待状が渡された。ちゃんと宛先も記されていて届けるだけの状態のものが。
「これらは全て少々厄介な貴族宛のものとなります」
「厄介……今回の会議を招集したりとか、そういう動きをした人たち?」
「はい。ある程度予想はしておりまして、これらは直接レオナ様が届けるのがよいと判断し、残しておりました」
そう言えば、何軒か直接届ける先があるって言ってたわね。
わ、忘れてたわけじゃないのよ!忙しくって後回しにしていただけなんだからねっ!
「良い機会だから会議の場で渡してしまおうと?」
「そうです。公の場で突きつければかなりの効果が期待出来ます」
「ふむ……でも、渡し方次第ですよね?」
パーンと叩き付けちゃダメなのは間違いないけど、では何を言いながら渡せばよいのやら。
「まもなく城に到着します。会議室には我々は入れませんので、簡潔に伝える内容だけを覚えて下さい」
「渡す相手、面識が無いんだけど」
「レオナ様、幸いにして騎士団からも人が出ており、レイモンドとリリィが出席しています。どれが誰かはすぐにわかるかと」
そもそも鑑定すればわかる話か。初対面でいきなり「○○さんですね、こちらをどうぞ」てな具合に招待状を渡すというのもアリかな。
「オルステッド侯爵夫妻も出席しておりますので、フォローは効きやすいかと」
「わかりました」
それだけ味方がいれば充分というか、お釣りが来そうね。
「もっとも、他にオルステッド侯爵家派の貴族がいないのですが」
四面楚歌でした。
「そこは作戦を考えておりますので」
「わかりました」
城に到着するとアラン夫妻はそのまま戻る。侯爵家の三男と言えど、正式に爵位があるわけでも無いお二人は会議の場に出ることが出来ないのでここまで。一方、セインさんは私の家令なので案内として城内には入れるけれど、行けるのは会議室前まで。その間にどう振る舞えば良いのか聞いて、さらに「これを持って行かれると役に立ちます」と色々と手荷物を渡された。結構な量だけど
「レオナ様でしたら隠して持ち運べるでしょう?」
よくわかっていらっしゃるようで。
こんな感じで準備万端整えて、いざ会議室前に到着。
「ふう」
「落ち着いて下さい」
「ええ」
大丈夫と自分に言い聞かせる横でセインさんが扉の前の役人に到着を告げ、扉を開けさせる。さて、先制攻撃です。
「レオナ・クレメルです。召集に応え、参じました」
「遅いな」
やはりケチがついたな。だが、そのパターンは返せる!
「申し訳ございません、アルトゥール・バイン伯爵。辺境の出で、王都の道に不慣れなもので」
「む……そ、そうか」
イチャモンつけてきた貴族に丁寧に答え……リリィさんの横の席が空いていて手招きしているのでそちらへ向かう。と、今度は椅子の間から、私が通る位置、つまり私が転びそうな位置と角度で杖が出てきた。
小学校かここは。
えーと、この場合の対策は……
「うぃんどかったー(小声&威力最小)」
私の通る位置にある分だけ切り落として、カランと私の前に転がす。
「あら、リュディガー・トムゼン伯爵、杖が折れていますよ?」
「え?あ、えーと……」
「もしよろしければこちらをどうぞ」
「ど、どうも……」
セインさんに渡された、きっと使うことがあるでしょうアイテムの一つ、無難なデザインの杖――ただし私が「何でも良いからすごい能力つけ!」と念じたのできっとロクでもない効果のある杖になってるはず――を渡してさらに進むと、さすがにそれ以上の嫌がらせは逆効果と判断したのか、それ以上の障害はなく、無事に着席した。
「フン、所詮はついこの間まで平民、しかも孤児。礼儀も作法もまるでダメだな」
「作法に関しては申し訳ございません、アルベルト・ボルトリ男爵。なにぶん田舎者でして」
そう言いながら、やや圧を強めにしながらトントンとテーブルを指で叩く。ここに揃っている面々でこれだけの圧に耐えられるのは侯爵家の人くらいだろう。
「ぐ……」
「ぬぬ……」
別に害意のある圧では無い。ただ単に……どうしても五体投地したくなると言うだけだ。
普段、何気なくしているぶんには仮面で色々と押さえられているが、最近力が強くなってきているせいか「フン!」と気合いを入れると仮面越しでも気の弱い人なら五体投地するくらいにプレッシャーをかけられるようになってきたので、こういう場――つまり、仮面を外すとこれはこれで面倒な場――では役に立つ。もうちょっと使い勝手の良い力になって欲しいんだけれどそれは望みすぎかしら。
「レオナ」
「はい?」
リリィさんが圧に耐えながらこちらを見る。やり過ぎたかしら?大丈夫?
「いいぞ、もっとやれ」
「もの足りんな」
煽ってきましたよ。親子揃って。
とは言え、セインさんの描いたシナリオのパターンの一つに当てはまっているので、これはこれで進めて良いだろうと、圧を弱める。日頃の訓練のたまもので、要するに……気配を消すとかそう言う感じ?今なら七つの玉を集めるマンガの登場人物みたいに気を操れるんじゃないかしら?
「さて、私を呼ばれた理由を知りたいのですが」




