13-9
「さてと、すまないな。頑固な連中で」
「いいえ。領地の平穏、領民のことを考え、アメリア様のことを慕っている、いい人たちじゃないですか」
「そう言ってくれると、助かる」
「実際、いい連中ですからね」
ん?
「オルステッド領の領兵は違うんですか?」
「ウチの領兵は……一言で言えば暑苦しい」
「ああ……はい」
何となく察した。
それ以上追及するのは怖かったのでやめておき、とにかく先へ進むことに。
「ところで」
「何でしょうか?」
「その仮面だが、すごいな」
「あ、あはははは……」
「どうして外してくれなかったんだ?」
「へ?」
「うちに来たときからずっと仮面をしたまま。リリィに会ったときは仮面をしていなかったというし、扱いが違うんじゃないか?」
「えっと」
「悲しい」
「え?」
「私は悲しいぞ……あんなに可愛らしい顔だったなんてっ!」
面倒臭い人だった。
「いよいよ一番深い八層ですね」
「なんだこの禍々しい空気は」
あれから七層までは特にどうと言うこともなかった。もちろん魔物はわんさか出たんだけど、アメリアさんとリリィさんが全部対処した。私の出番?魔物を倒した後に落ちたものの回収です。あと、リリィさんの剣の消耗が激しいので持ち替えの手伝いとか。すでに七振り潰してきて、残りがそろそろ心許なくなってきましたけど、八層で使うことは無さそうな感じですかね。
そこへリリィさんの手紙が戻ってきた。
「我々と一緒に潜ってた連中も二層を通過中です」
「何とかなりそうだな」
七層に入った頃に「様子はどうだ?」と伝えておいたのだけれど、どうやら他のグループと合流しながらあと少し、と言うところまで来ているらしい。
「さてと、最下層だが……ここはこんな感じではなかったぞ?」
「そうなんですか?」
「ああ。特にこれまでと変わることのない、洞窟のような所だったはずだ。三ヶ月前に来たときと全然違う」
三ヶ月前って、そろそろ臨月って感じの時期ですよねえ?何やってんですか?とは言わない。
それはそれとして私たちの目の前にはだだっ広い空間が広がっていた。ダンジョンという場所故に真っ暗ではないのだけれど薄暗いせいもあって向こう側は見えない。私のマップで見た感じ、ざっと直径二キロ弱くらいの丸っこい広場。そしてその広場のあちこちに穴があって、その先は普通のダンジョンっぽい。
「ダンジョンコアを中心にでっかく抉り取ったような感じですね」
「ほう?ここの中心にダンジョンコアとか言うのがあるのか」
「ええ、あります。このまま真っ直ぐ、だいたい一キロくらい進んだところに」
「暗くて見えんが、レオナが言うならあるんだろう。行くぞ」
「あ、待ってください。危ないですってば」
「大丈夫だ」
「え?」
「どうせどこにいても変わらんだろう?」
「それはそうですが」
実りのないやりとりをしながらズンズン進んでいくと、お約束のように魔物がこちらへ集まってきた。
「ちと多くないか?」
「姉上、だいたいこんな感じです」
「は?」
「王都の南はもっと多くの魔物が押し寄せていましたから、これは少ないくらいと言っていいハズです」
「つまり、ここの広さ的にこのくらいが目一杯という数か」
「ですねえ」
マップで見ると結構ぎっしり魔物が詰まってる感じだ。
「フム……ではレオナの出番と言うことでいいのかな?」
「あ、はい。お任せ下さい」
わざとらしく一礼して前へ出る。
「では、耳を塞いでいて下さいね……えいっ」
火魔法レベル六 爆裂魔法×たくさん連射
「レオナ、言いたくはないが」
「耳だけでなく、目も閉じておいた方がよかったな」
「すみません」
私の放った魔法によって生み出された爆音があちこちに反射してくるのとそれに巻き込まれた魔物たちの断末魔。それだけでも鼓膜がやばくなるレベルなので耳を塞いでおくのは正解だったけど、意外なことに爆発によって生じる光も結構なもので、二人とも目がチカチカしているらしい。ホント、ごめんなさい。私?何ともないですよ。
「そして、あれだけの魔法を食らっても何ともない奴が二人。そして……アレがコアか」
「はい」
「あの二人、先ほどの奴とは比べものにならないくらいの」
「そうだな……さすがにアレに立ち向かうには何もかもが足りんとわかる」
そんなことはないですよ、と言いかけて止めた。実のところ、二人ともにあの魔族を相手に戦う程度の実力はあると見ている。ただ、残念なことにアイツらに対して有効になりそうな武器とか防具がない。二人とも魔剣に魔力を乗せて威力を上昇させるなんて事が出来るが、魔剣自体のキャパが足りなくてある程度以上の魔力を送り込むと言うことが出来ず、魔族に大したダメージを与えられないと言う結果になってしまう。早急に解決した方がいい課題と言えるだろう。
「全く、いきなりとんでもないモノをぶっ放してくれたな」
「普通は名乗ったりするモンじゃないのか?」
珍しく苦情を言ってくる魔族二人。
「そう?でも互いに名乗り合ったとして、そちらは元の世界へ引き上げてくれる余地はあるのかしら?」
「無いな」
「我らが王のためにも、こちらを侵略し、我らの楽園とせねばならんのだ」
「じゃ、交渉決裂と言うことで、これでお別れね」
「そう簡単には行かんぞ?」
「むしろお前らの方が先に、な?」
ククク、と二人が不敵な笑みを浮かべると同時に、イヤな感じの空気が濃くなった。
「ぐっ、これは」
「何という……」
「大丈夫ですか?」
「このくらいなら何とか。だが、普通の人間では耐えられんだろうな」
自分が普通じゃないって自覚してるんですね、よかった。とりあえずこの空気をナントカするべく仮面を外すと、少しだけ楽になったみたい。相変わらずよくわからない力だね。
「さて、行きます……よっ!」
「ぬ?」
時間感覚操作百倍
一気に距離を詰めて拳を振りかざし、鳩尾に叩き込むとあり得ないほどにめり込み、そのまま吹っ飛んでいったのを確認して解除。しばらくして、向こう側に激突したような音が聞こえた。結果はキチンと確認しなければならないが、とりあえずすぐに戻ってくることは無いと思う。
「貴様!」
「言っておくけど不意討ちとかじゃないからね?もうとっくに戦いは始まってるんだか……らっ!」
「ぐっ!」
通常速度で撃ち込んでみたがこれはガードされた。が、そのガードごと少しだけ後ろへ飛ばす。
「これほどまでとは……」
「うわ、雑魚っぽい台詞」
「な、何だと?!」
逆上して、無警戒にこちらに飛び込んできたので少しバックステップ。そして蹴り上げる。
「ぐはっ!」
「追加!」
火魔法レベル七 火砲
ズドンと言う轟音と共に姿が消えた。
「やってくれたな……」
「あら、生きてた」
角が一本折れ、翼は両方ともズタボロで機能するように見えない、満身創痍の魔族がヨロヨロと出てきた。大人しくしていれば楽に逝けたのに、健気なものだ。
「一応聞くけど、そっちの世界って、魔王が何人いるの?」
「答えると思「えい」
ダラダラ話しているつもりも無いので、首から上を蹴り飛ばす。
「リリィ、レオナって結構エグいことするんだな」
「そう……ですね」
ドン引きされた。うーん、生かしておかない方がいいからこうしているんだけどねえ。
「と、とりあえずコアを破壊しますね」
「ああ」
三人でコアのそばまで。いつ見ても思うけど、なんとも言えない色合いで不思議な光を放っているのを二人がじっくりと見ている。
「これがダンジョンコアか」




