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一方、その様子を見ている領兵の皆さんはと言うと、
「さすが」
「あれが騎士団の副隊長クラスの実力か」
「いや、副隊長というのは暫定的で、いつ隊長になってもおかしくないという話だぞ」
という、ありきたりというとちょっと語弊があるけど、すごさを称賛している者がいる一方で、
「くっ……俺も褒められたい!」
「己の実力不足が……クソッ」
「戻ったら訓練だ。今までの倍やるぞ」
おかしな反応もチラホラ。まあ、奮起して訓練するのはいい事ですよ、と言う事にしておこう。
ダンジョン内で魔物を倒すと勝手に消えて素材やら何やらを落とす。今回の場合、巨大な爪と牙、丈夫そうな皮が残ったのだけれど、持ち帰るには大きすぎるので私が持つ事になった。
「レオナ、他の者たちの場所はわかるな?」
「はい……五層へ向かう通り道の近くにいますね。行きがてら治療をしていきましょう」
「わかった」
そんな感じで五層を突破して六層へ入る。
「これは……何だ?」
六層はさらに空気が違っていた。
「姉上……これがここの普通なのですか?」
「違う」
このダンジョンの事ならだいたい把握しているアメリアさんが以上だと断言するレベルで、イヤな感じの空気が漂っている理由は……いるね、魔族が。
「これが多分、魔族がいるときに周囲にばら撒いているイヤな空気、と言う奴です」
「以前、王都や近くのダンジョンで見たときとは桁違いのようだが」
「そうですね……側近中の側近が来た、とかそう言う感じかな、と」
「何にしても進むしかあるまい?」
そう言ってアメリアさんが一歩進む。
「異論はありません、姉上」
「リリィ」
「はい、何でしょうか?」
「姉上じゃ無い、お姉ちゃんと呼べ」
「イヤです」
「小さい頃はあんなにも可愛らしく、お姉ちゃんお姉ちゃんと後ろをついて回っていたというのに、どうしてこうなってしまったんだろうか……レオナ、何か心当たりはないかい?」
「私に聞かれても困るんですが」
「そ!そんなっ!小さい頃のことでしょう!」
「はあ……お姉ちゃんは悲しいぞ。近くにいるのが親しい者だけの時くらいは甘えてもいいんだぞ、ほれ?ほれ?」
私は何を見せられているんでしょう?
そして領兵の皆さんはと言うと、
「尊いな」
「ああ……」
達観したというか何というか……遠い目をしていた。
「む?何か来るな」
「ええ」
すぐに気持ちを切り替えたアメリアさんが油断なく構え、リリィさんも剣を抜く。そして、現れたのは体格的にはリリィさんと同じくらいだが、背中にコウモリのような翼があり、頭に角の生えた、いかにもな感じの魔族だった。
「はあ、全く。放った魔物がいきなり死んでいくから何事かと思ってきてみればこういうことか」
やれやれとため息をつかれた。が、
「問答無用!」
「とおっ!」
魔族が続きを何か言いかけたが、それを待つようなお約束をすることなく二人が攻撃に入る。が、
「無粋な」
あっさりかわしたというか、さっきまでいたところから随分離れた位置にいて、二人の攻撃は空振り。
「くっ!」
「中々に素早いな!」
「ん?」
即座に魔族の方へ向き直り、瞬時にその背後へアメリアさんが回り込みケリを入れるが、少し頭を下げるだけでかわし、その正面へ切り込んできたリリィさんの剣を指先で軽く弾いてそらす。そしてすぐに軽いステップでその場を離れ……た先にアメリアさんが先回りしているのに気づき、そのみぞおちへ拳を振るう。が、それを膝蹴りで受けるとその勢いを利用して後ろへ飛び、壁を蹴るとそのまま天井まで。
「むむっ」
そちらへ目を向けた魔族の死角からリリィさんが斬り込んだがその剣を肘打ちで砕くと、上から降ってきたかかと落としに拳を合わせる。
「くっ!」
「何のっ!」
完全に攻撃が通用していないが二人の戦意は全く衰えず、すぐに次の攻撃へ移ろうとする。
「ちょこまかと邪魔な連中だな」
心底面倒臭そうにそういった魔族が、その拳に魔力を集め始めた。
「一撃で仕留めてぶぅわぁぅっ!」
それ以上はさすがに見ていられなかったので私が蹴り飛ばした。
「ぐぬぬ……貴様、今ので割り込んでくるとは……不粋な」
「うるさい黙れ」
そう言い捨てて二人の様子を見る。
「大丈夫ですか?」
「何のこれしき」
「まだ行ける」
「行くなと言ってるんです!」
二人にデコピンして止める。
「言ったでしょ。あれが魔族の使う魔道言語。相手に言うことを聞かせるという効果が少し乗っかってるんです」
「む……そうか」
「これが……か」
「はい」
「しかしだな!」
「うむ」
ダメだこの姉妹。
仕方が無いので、着けていた仮面を外して、全然笑っていない笑顔を見せる。
「くっ……」
「こ、これはっ」
「正気に戻りましたか?」
「う……ああ」
「すまない」
二人ともがくりと膝をつく。そんなに体力を消耗した様子はないのだけれどと思ったら、その後ろにいた領兵さんたちと一緒に五体投地しただけだった。全くもって調整の難しい力だこと。
「貴様ッ!」
「ああもう!面倒ねっ!」
何とか復活して飛びかかってきた魔族のアゴ先に掌底、のけぞったみぞおちに肘打ち、反動で前に出てきた頭を蹴り飛ばして二、三回転して壁に激突したところに火球を撃ち込んで終了だ。うん、我ながら綺麗にコンボが決まったね。
「く……クソッ……何だコイツ」
「それはこっちの台詞よ」
どうもコイツの魔道言語、効果が強いような感じなのよね。
領兵はともかく、アメリアさんもリリィさんも王国トップクラスの実力者。精神面の強さも相当なものがあると思うんだけど、その強さを突き抜けてわずかではあるが心を揺さぶるとはね。
「とりあえずいくつか聞きたいんだけど」
「答えると思うか?」
「関係なく聞くわ。そっちの世界にいる魔王って何人いるのよ?」
「フン」
「あっそ。答えないんなら……サヨナラね」
「え?」
ズドン、と重く響く爆音と共にカケラも残さず吹き飛ばして終了。
「と言うことで、結構強い魔族も出始めているのですが……って、起きてください」
「イヤしかし……」
「その、何というか」
仮面を着けていないと魔族の精神的な攻撃の影響を受けやすく、仮面を外すと五体投地。もう少し何とかならないか、神様に真剣に相談した方が良さそうね。
「とりあえず領兵の皆さんは引き返した方がいいと思います」
「そうだな」
私の提案にアメリアさんが同意するが、領兵の皆さんはなかなか首を縦に振らない。
「これは命令だ。戻れ!」
「しかし!」
「戻らないならここで私が蹴り殺す」
「くっ……」
なんでちょっと期待の眼差しなのよ!
さっきの魔族がそこそこの強さだったと言うことを考えると、十名ほどとは言え、私が守れると断言出来ない。それに、この先進んでいく途中で、私がどうしてもフォロー出来ない位置を移動していく魔物もいるだろう。そうすると、そう言う魔物に対応する戦力として彼らはとても貴重なはず。
そんな感じで説得して追い返した。




