12-12
「何があったんだ?」
「わからん。わからんが……突然崩れそうになって慌てて逃げてきたんだ」
「そ、そうか」
そこへダンジョン前出張所の所長バイルズが慌てふためいて駆けてきた。
「大丈夫か?」
「ああ。何かおかしいって、全員で逃げ出したからな。間に合ってよかったぜ」
「そうか」
「けど……ボルドたちは結局出てこなかった。あの女の子も」
場の空気が重くなるのは致し方ない。
「助けだそう。ボルドたちならきっと生きてる!」
「そうだ!あの女の子だって、あんなに強かったんだ!」
「うまいこと隙間に潜り込んだりして生きてるよな!」
誰かの呟きに誰かが応え、さらに誰かが応え、絶望を打ち消す声の輪が広がっていく。
「よし、掘り起こすぞ!」
「おう!」
「魔法を使える者は岩を砕いてくれ!」
「ツルハシでもシャベルでもいい!穴を掘れる物をありったけ持ってこい!」
それぞれが動き始める。
いつも一緒に馬鹿騒ぎして笑いあった仲間のために。
見ず知らずのハンターを助けるため、ダンジョンへ飛び込んだ少女のために。
いくつもの篝火が焚かれる中、様々な道具を手にした者達が穴を掘り、岩を持ち上げて運び出す。その周囲では力仕事はちょっとという者達が、水や食べ物を用意したり、潰れた手の豆の治療に携わったり、自然と連携が生まれていた。
「よし、そろそろ交替だ」
「おう。頼む」
時折交替しながら作業をすること二時間。その間にもダンジョン崩壊のことを知らずに到着したハンターたちが事情を聞いて作業に参加するなどして、ハンターたちの結束の強さが示されていたりもする。
「え?これ……何が?」
「ああ、ダンジョンが崩壊したんだ。それで、中に取り残された奴らがいて」
「え?マジで?」
「なんとか助け出そうとしているんだ。疲れてるかもしれんが手伝ってくれ」
「わかった」
「で、誰が取り残されたんだ?」
「ボルドたちだ。あともう一人女の子が。えっと、名前は確かレオナだったか」
「そうか、ボルド……って、それ俺だよ!」
「「「え?!」」」
「知らない天井だ……って、これ何回目かな?」
まあ、天井というか、天幕?テントの中で寝てたようです。
どうでもいい事をつぶやきながら体を起こし、周囲をグルグル回っている手紙をキャッチ。
「終わったか?のひと言だけとか、寂しすぎですよリリィさん」
もうちょっと何か書いてあってもいいんじゃないかなと思いながら「無事に終わりました」と送り返す。
そしてそんな手紙の行き来があれば誰かが気づくわけで、
「*&r%em3$?””」
何言ってるのかさっぱりわからないけど、多分「起きましたか?」とか「開けてもいいですか?」とかだろう。
「起きました。開けてもいいですよ」
伝わるかどうかはわからないけどそう答えると、バサッと扉代わりになっていた布がめくれて女性が入ってきた。ハンターギルドの制服っぽいのを着ているけど、ダンジョンに入る前には見なかった顔。まあ、女性が寝ているところの世話用に呼ばれたってところなのかしら?お手数かけます。
と、どうやって感謝の意を伝えようかと思っていたら、ひょいと一枚の白い紙を渡された。
筆談でもするのかしらと思ったけど、ペンは渡されず。んー、手持ちはあるけどそれを出せばいいのかなと思っていたら、女性が何かを話し、それが紙の上に私が読める形で文字となった。
「体の具合はどうですか?」
なるほど、これはこの人のヴィジョンで、通訳が出来るのね。
音声で通訳できるソフィーさんって実はすごいのかしらと、どうでもいい事をちょっと考えながら答える。
「ご心配おかけしました。大丈夫です」
すると紙に出ていた文字が消え、私が見た事もない文字がすらすらと現れ、さらに紙から音が聞こえた。女性がうんうんと頷いているという事は、え?そう言うこと?
この女性の通訳ヴィジョンは、私にわかる文字を紙に表示し、私の言葉を一旦文字に変換して、私の声っぽく音声にする、ということみたいね。うーん、通訳できるヴィジョンにも色々あるのねえ。感心していたら、女性が話を続けたのでちゃんと聞く、というか読む。
この人は私の予想通り、ハンターギルドのデリアさん。
私がここに来るという事前連絡で通訳としてこちらに向かっていたが、私の到着に少し間に合わず、ダンジョンに入る時に不便をかけて申し訳ないと謝罪された。その点については、状況も状況だったので、謝らなくていいですと答えておく。
そして、現在の状況を教えてくれた。
ダンジョンが崩壊し、中に生き埋めになったであろうボルドさんたちと私を助け出そうと必死に掘り起こしていたら、ボルドさんたち四人にシャロさんに背負われて熟睡した私が到着。ええ、地上に出て安全を確認できたと思ったら気が抜けてばったり倒れたせいで、彼らはかなり慌てたけど、寝てるだけだったので連れてきたとの事です。はは……心配させてしまいました。あとで謝りつつお礼を言わねば。その前に……今、初めてあの六人の名前を聞きましたよ。あとでちゃんと顔と名前を一致させないとね。
で、とりあえず全員の無事が確認できたので、救出作業は終了。私が目を覚ますのを待っていたとのこと。ちなみに私が運び込まれて約五時間経過。たっぷり八時間ほど眠ったワケね。うん、よく寝たわ。
状況が確認できたところで、「お腹も空いてるでしょう」とテントの外へ。
ハンターギルドの人とか、ボルドさんたちとかが一斉に集まってきてもみくちゃにされそうになったのをとりあえず逃げた。
私の力は、敵対する者に対して発揮されるので、友好とか親愛とかそう言う感情で接する人には無効。すなわち、絵的にはむさ苦しいオッサンたちがいたいけな少女を押し倒すという、色々問題のある絵になるので。あと、デリアさんの通訳の紙、大勢が一斉に話すとごちゃごちゃになってしまって目で追いきれないのよ。
ま、逃げたと言っても少し飛び退く程度で、私の目の前にはあまり見たくもないオッサンの山が出来たわけだけど。
「えーと、レオナだっけ?」
「はい……えっと」
「ちゃんと名乗るのは初めてだったな、シャロだ」
「はい、ボルドさん。改めまして、レオナです」
「うん……その……ありがとう」
「え?」
「レオナがいなかったら私ら六人は全員死んでた。だからありがとう」
私がダンジョンから連れ出した四人がそれぞれ名乗り、礼を言ってくれた。私の返事はとてもシンプルですけどね。
「出来る事をしただけですから」
「いや、あんな事が出来る者を今まで見た事がないんだけど」
「そう言われましても……はは」
若干間が開くけれど、言葉が通じるってありがたいね。
「それはそれとして」
「はい?」
「その……実に言いづらい事なんだが」
「なんでしょうか?」
「君と一緒にいたもう一人の子」
「え?」
「その……地上に出て、レオナが眠ったあと、全く動かなくなって……その、ここに連れてくる事も出来なくて」
「あああああ!」
またやらかした!
えーっとヴィジョンの様子……あ、確かにシャロさんの言うとおり二人――メリアさんとジェフさんだそうな――が周囲を警戒しているね。うん、どうしようか。
「えっと……その……あのですね……とりあえずもう大丈夫なのでこっちに戻って……ああ、そうだ。あの子に二人をここまで連れてきてもらいましょう」
「え?」
「そんな事、出来るのか?」
「はい。ただあの子はしゃべれないので」
こちらに移動する旨、文字にしてもらい、それを見ながらヴィジョンが地面に字を書く。うん、指でブスッとやると固い地面でもすいすい書けるあたり、この子はすごいと思う。で、その字を読んだ二人が頷いたのを確認し、抱えて一気に空へ。歩いて二、三時間くらいの距離はあの子にとって数分。あっという間にこちらへ到着。




