12-11
ここは一つ、リーダーとして、全員の意見の一致確認をしておこう。
「あの子に関して……可愛いことは可愛いが、それは……歳の離れた『妹に対する可愛い』である、マルかバツか?」
「マル」
「マル」
「マル」
「メリア、シャロとあの子、どっちの方が大事?」
「言うまでもなくメリアとシャロ」
「同意」
「メリアとシャロのどっちかって質問かとちょっとビクビクしてた」
「よし、問題ないな」
そう、問題は……ない!
「ちなみにどっちだ?」
「今はいいだろ!」
とりあえず脱臼の処置をしたら感謝の印らしくペコペコしているのを女性陣二人がわしゃわしゃとなでているのを見ながら歩いて行く。
「この後どうなるんだ?」
「さあ……あの子は何か考えがあるというか、目的があって動いているみたいだけど」
そして広間の奥にあるなんとも言えない光る何かの前で手招きしているので全員で集まると、その光る何かに手をかざし、なにかをした。
「「「「「「え?」」」」」」
パキッと言う何かが割れるような音がして一瞬強く輝き、パラパラと崩れて砂のように落ちていく何か。
「¥*p+!$fH<+!」
女の子が何かを叫ぶと同時にバリバリと地面がせり上がり、あっという間に視界が真っ暗に。
「*&%sTq@*!」
再び何かを叫ぶと、ぐらりと足元が大きく揺れ、さらにゴゴゴと地響きをさせながら、
「浮いてる?!」
「みたいだな!」
「暗くて何も見えん!ミリア!」
「わかっ……必要ないみたいね」
ミリアに明かりの魔法を頼もうとしたら女の子の方が気を利かせたらしく、周囲が明るく照らし出された。
「えーと、どうなってんだ?」
「岩で周りを囲んでいるみたいだけど」
状況が全く把握出来ない中、女の子が金色の子に何かの指示を出したらしく、トンッと飛び上がり天井まで。そして両手を天井についた途端。
「うわわわわわ……」
「なに……これっ!」
すごい揺れと俺たちのいる岩の球体(?)の表面に色々とぶつかっている轟音。立っていられないほどの揺れになんとか両手足をついて耐える……あの子は平気な顔して立ってるな。
「これ、もしかして……あの金色の子が持ち上げてるのか?」
「みたいね……って、何見上げてんのよ!」
「え?」
「馬鹿!最低!もしかして、ああいう子が好みなの?!」
「いや、そういうつもりは」
「全くない!つか流れ的に見上げちゃうだろ!」
「痛っ!叩くなよ!」
「うっさい」
「よくこんな揺れてる中でたたけるな……って痛っ!」
「スマン!悪かった」
「謝るならあの子にしなさいよ」
「それは……うん、そうだよな」
「だから見上げるなって言ってるでしょ!」
「どうしろってんだよ?!」
外の様子はマップで……うん、わからない。表示がメチャクチャ。ダンジョンが崩壊している真っ最中だから仕方ないか。でも、上に行けば出られるハズで、この岩の球体はかなりの強度を持たせてあるから壊れる心配は要らないだろう。私が魔力で補強し続けているし。
そして六人はと言うと、私のヴィジョンを指さして何やら……もめている?主に男性陣が女性陣に詰め寄られているという感じ?ああ、下から見上げたとかどうこう言う話なのかしら?うーん、あの子、見た目は完全に人間だけど人間じゃないし、下から見ても……身につけている物はあるし、あまりマジマジと見る物ではないという感じだし。まあ良いか。とりあえず元気そうだし。
三十分ほどそうしていただろうか。だんだん音が小さくなってきたような気がするけど……外の様子がわからないし、穴を開けてみてもなあ……ん?もめてた六人の話にケリがつい……なんで男性陣の両頬が真っ赤に腫れてんのよ。
「@#$&>*/¥|」
「「「%$”!*<!!」」」
男性の一人が前に出て何かを言って頭を下げ、続けて残りの三人が声をそろえて頭を下げる。これは……なんだろう、あの子に向かって謝罪する前に私に謝罪?意味がよくわからないし、どう答えたら……うん、日本人にはこう言うときの必殺の返し方があるのよ。
「あ、あははは……いいです、そんなに気を遣わなくても」
曖昧に愛想笑いしながら返す!
何言われてるかさっぱりわからないけど、とりあえず場を取り繕って切り抜けるにはこれが一番!
あ、通じたみたい。すごすごと下がっていって女性二人が、一言二言こちらに声をかけてきているけど、あれかな。「ホントゴメンね、ダメな奴らで」「あとでもう一回締めておくから許してね」みたいな感じかしら?うーん、気にしなくてもいいのに。
そんな風に考えていたら、外から聞こえてくる音が止み、揺れもおさまった。
「外に出たのかな?止まって!」
ヴィジョンがとりあえず上昇を止めて静止。この中だと見た目では全くわからないけど止まった。
「穴を開けて、よし、地上ね……下は結構ひどい事になってるから、あっちの方角へ百メートルくらい。んで、ゆっくり下ろして」
別に口にしなくてもいいけど、気分的にヴィジョンに指示出してる気分なのでそう伝えると、ゆっくり私の指す方へ進んでいき、静かに着地した。
「岩を解体、と」
パラパラと細かいカケラに分解されながら崩れていくと満天の星空が広がる平原のどこか。どこなのかは知りませんが、彼らならわかるかな?
外からの轟音が静かになり、女の子が壁に穴を開けて何かを言い、しばらくするとドス、と言う小さなショックがあり、止まったとわかる。そして、俺たちを包んでいた岩の球体がバラバラと崩れていく。
「外は夜だったか」
「時間の感覚、無視して動いてたからな」
「でも、無事に出られた」
「うん」
「ええ」
「ははっ」
「ぶはははっ」
六人が互いに笑いあいながら、無事を喜び合う。おっと、一番の功労者に感謝しないとな。全員で彼女の元へ行き、改めて礼を言う。
「助けてくれて本当にありがとう。何が何だかよくわからないけど助かった」
「うんうん。本当に助かったわ」
「ありがとう」
「なんて礼を言ったらいいかわからないくらいに、ありがとう」
それぞれが礼の言葉を口にするが、言葉の通じない彼女はポカンとして……いや、一応伝わったらしく、ニコリと笑った。
「&@*+=#pw」
多分「どういたしまして」とかそう言う台詞なんだろうな。
「で、ここはどこ?」
「えーと……うーん、あれがクロット山か?」
「ああ、多分そうだな。ってことはあっちの森は」
「サノワ大森林」
「だいたい位置はわかったな。ダンジョンの入り口から東に五、六キロってとこか?」
「なあ」
「ん?」
「ダンジョンって崩れたって事なんだよな?」
「そう……だな。あ」
「ダンジョン前、大騒ぎじゃね?」
レデリックは必死に仲間たちとダンジョンの入り口に向かって走っていた。突如ダンジョンが揺れ始め、そこら中が崩れる前兆のようにパラパラとカケラが降り始めたからだ。
「走れ!走れ!」
「くっそ!どうなってんだ!」
「いいから走れ!」
「見えた!出口だ!」
「うおおおおお!」
魔物が一切いなかったことと、ダンジョン内の地形を熟知していたことが幸いし、それほど時間をかけずに外へ脱出。息も絶え絶えに飛び出してきたベテランハンターたちに周囲は何事かと武器を構えて警戒したのだが、
「離れろ!ダンジョンが崩れる!」
「「「「へ?」」」」
「いいから離れろ!」
どうにか集まってきた連中を押しのけた直後、入り口が完全に崩れ落ち、同時にダンジョンの入り口となっていた小さな岩山が崩壊した。レデリックたちが押しのけていなかったら数人は崩れてきた岩の下敷きになっていたかも知れなかったが、幸い怪我人はない。




