12-10
倒すには倒したけど、なかなかにキツい相手だった。
何度も壁や地面に叩きつけられたせいで全身が痛い。と言うか、左腕は肩が外れてしまっていてブラブラしてるし、左足もくじいていて足首に力が入らない。かかと落としを決めた右足も実は感覚が鈍いし、全くとんでもない奴だったわ。
とりあえずヴィジョンを呼び寄せ、小屋のところまで運んでもらい、扉を開く。
うーん、六人全員が放心状態ね。まあ、わかるわよ。魔法の音、すごかったし。
「とりあえず、小屋から出て」
声をかけて一人の手を引っ張って外へ。残りの五人も何とか正気を取り戻したのか、おとなしくついてきてくれた。
全員が出たら小屋はアイテムボックスへ。
そして、ヴィジョンに抱えられながらダンジョンコアの元へ……ん?女性陣二人が私のところへ来た。ついでにその後ろで男性の一人がなんかやってる?なんだかわからないけど……
「&%※+#!!?」
何言ってるかわかんないけど、指さしているのは私の左腕。んー、脱臼って自然に治らないのかしら?骨が折れているわけでもなく、靱帯は痛んでるだろうけど治っていけば勝手にはまるんじゃないかな?あ、もしかして外れた腕をはめてくれるのかな?
そう思ってヴィジョンに下ろしてもらったら、当たりだったらしい。
バッグの上に毛布を置いて私を座らせ、一人が後ろから抱え込むように抱きつき、もう一人が左腕をぐいと少し引っ張る。そして「せーの」と息を合わせて――言葉がわからないけど多分そんな感じのハズ――グイッとひねりを加えながら、
「痛いっ!」
はめた瞬間の痛いことと言ったらもうね。
私の悲鳴に六人がちょっと慌ててたけど、二人がペタペタ肩やら腕を触ってうなずき合っているので、恐る恐る動かしてみた。
「お、動いた。ちょっと痛いけどこのくらいなら」
とりあえずペコペコお辞儀をして、二人に握手したりなんかして感謝していることを精一杯アピールしたら、なぜか頭をなでられた。解せぬ。
さて、周囲には魔族も魔物もいないので、このままダンジョンコアを破壊してしまおう。
コアの前で手招きし全員が集まったところで、コアに向けて手をかざし、魔法を放つ。
火魔法レベル十 滅却の業火
コアの向こう側で魔法が発動した感触、そしてピシッとコアに入るヒビ。
「土魔法で岩石生成!形は私たち全員を覆う球形!」
いきなり暗くなるが、すぐに魔法で小さな明かりを作り出すと同時に、大きな揺れが始まった。
「このまま脱出!持ち上げて!」
ヴィジョンを飛ばし、天井をぐいぐいと持ち上げていく。
私の風魔法の飛行だと、こんな閉じた空間で飛んでもピクリとも動かないが、この子の場合はしっかりと飛べる。相変わらず謎の多いヴィジョンだけど、頼もしいからそれ以上の追求はしない。
ものすごい揺れと、岩の表面に崩れてきた色々がぶつかり、砕ける音。
すぐ横で大声を出しても何を言っているのかわからないくらいの轟音の中、私たちは地上を目指し、上昇していった。
窓から恐る恐るのぞいてみていた光景は、多分一生忘れないだろう。
一瞬で消し炭と化す魔物、そしてそれを物ともせずに飛び込んでくる、どうみても俺たちが百人がかりでもどうにも出来そうに無い人の形をした何か。角が生えていたりするのはオーガかとも思ったがそう言うわけでも無くて、人語を解すらしく少女と何か叫ぶような会話をしている。何となく単語が聞き取れるような気もするが、殴り合ったり魔法を撃ったりと言った轟音のせいでほとんど聞こえない。
「ああ……俺たち、ここで死ぬのか?」
「馬鹿、あの子があいつに負けるなんてあり得ない……と信じたい」
「俺も、ここに来るまではあの子に勝てる奴なんていないと思ってたけどさ。ありゃレベルが違いすぎるだろ」
「そう?結構互角にやってるように見えるけど?」
「何て言うか、力とかそういうのは互角以上かも知れないけど、戦術とか駆け引きとか、こう……戦いの経験とか年季みたいのが段違いという感じかな」
「よく見えるな。俺、全然見えないんだけど」
「私も」
ま、確かにアレは前衛で近接戦闘してる奴でもなきゃ追い切れない速度だな。俺たちのパーティだと、俺ボルドとジェフにあとはシャロくらいか。
「でも私にもわかるわ……あの魔法、どうやって撃ってるのよ?」
「え?」
確かにあの子は魔法を連射しているけど、見た目の派手さで牽制するだけの魔法ならメリアだってこなすだろうと思ったが、違うらしい。彼女に言わせると、あの子が撃っている魔法は見た目が派手なのは確かだが、威力がハンパないらしい。
「ちなみにどのくらいの魔法なんだ?」
「ドラゴンのお腹に風穴があくレベル」
「「「マジで?!」」」
そんな威力の魔法を呪文も唱えずに連射という時点で、既に色々おかしいというのはここにいる者なら、いや、ハンターとして魔法を使う者と付き合いがある者なら誰でもわかる。そして同時に浮かんでくる疑問。
「あれが直撃しているのに平気なあいつは何者だ?」
「ボルド、やめろ」
「え?」
「考えるだけ無駄だ」
「それもそうか……うん、そうだな」
そうしてみている間にも角の生えた大男に女の子が吹っ飛ばされ、殴り倒される。しかし、フラつきながらも立ち上がる女の子。
「く、見てられん」
「だが、あれに介入出来るかというと」
「五秒ももてばいい方……」
「がんばれっ!」
「がんばって!」
「行け!行けええ!」
応援の甲斐があったのかどうかはわからないが、女の子が使う魔法を火魔法から他の魔法に切り替え――その時点でメリアがまた固まったが――首を蹴り折って終了。とんでもない物を見せられてしまったな。
「なんとか勝てたか」
「ああ。あの子が負けたら俺たち、だもんな」
男四人がホッとしている横を女性陣がドアへ向かう。
「ちょっと!ぼさっとしてないで!」
「え?」
「あの子、大けがよ!」
「そ、そうだ!そうだよ!行こう!」
全員で外へ出ようとしたとき、ちょうどドアが開いた。そこにいたのはあの子だけど……金色の子に抱きかかえられ……いや、吊り下げられてと言う方がいいのか?なんだかちょっと間抜けな光景に一同の足が止まった。
「q)h¥k”*@$」
女の子が一番先頭にいたシャロの袖をくいくいと引っ張るのでついていく。まあ、安全なんだろうし何かの用があるのだろうからと全員が外に出ると、小屋が消えた。
「ああ……うん」
「そうだな」
「気にしないことにしよう」
とりあえず意見は合わせて……
「おかしいな……治癒魔法が効かない」
「え?」
バイロの治癒魔法は結構高レベルなはずだが、
「効かないってどういうことだ?」
「わからんが……何となく、あの子自身に魔法が効きづらいというか」
「な、なるほど……」
「メリア、手を貸して」
「え?」
「せめてあの子の肩、はめてあげましょう!」
「う、うん」
「ああ、外れてんのか。じゃ、俺たちも」
「男共は接近禁止!」
「「「「え?」」」」
「これを口実に女の子の柔肌に触ろうって魂胆でしょ!」
「そ、そんなことは!」
「目がエロいのよ!」
「おいおい」
女性陣二人でも、脱臼くらいは対処出来るんだろうけどさあ……
「俺たち、そんなに信用ない?」
「ちょっと、いやかなりショック」
「同じ村で生まれ育ち、子供の頃からの幼馴染みオンリーのパーティがこんな……信用されていないとか……くっ」
「いや、逆だろ」
「「「え?」」」
ジェフが意外なことを言う。
「逆って言うか……その……ヤキモチじゃねえの?」
「え?どういうこと?」
「あ、そうか。俺たちがあの子になびいたりするのがイヤとか、そういう」
「そうそう。そんな感じだと思うんだけど……違うか?」
「そう言われてみれば、そうかも知れないけど」




