12-9
「やれやれ、とんでもないのが来たな」
「無傷ってのがちょっとショックよ。それなりに威力高めの魔法だったんだけど」
「悪いが俺は特別でね」
「そう?でも私は特別扱いなんてしないわ」
六人を乗せた小屋を入り口脇に下ろし、ヴィジョンに守らせる。魔法の余波とかは守り切れないと思うけど……ま、その時はその時という事で。
「魔王軍の攻撃侵攻部隊隊長ローガー、お前に殺された部下の分まで働かなきゃならん。死んでくれ」
「レオナ・クレメル、この世界に来た魔族は生きて返さないのがモットーなの」
「お互いに意見は一致するようだな」
「そうね」
「じゃ、遠慮無く!」
ドン!と跳んでくるのでこちらも迎え撃つ。
「おりゃあああ!」
「たああああっ!」
結論:体重差は如何ともし難い
壁に吹っ飛ばされて一瞬意識が飛びかけたけど、どうにか追撃をかわしつつ、隙をうかがう。ぐ……まともに衝撃を受けた左腕に力が入らないけど、仕方ない。
「痛ったいわね……あんたたちの国には「女性に優しく」とかないの?」
「あいにく俺は性差別撤廃者でね」
「あら残念。優しくしておいて損はないと思うのだけれど」
「ついでに言うならお前さんは俺の好みに合わない」
「奇遇ね、私もアンタみたいなのは嫌いなタイプよ」
「そいつはどうも。気が合うな」
「気が合うついでに帰ってもらいたいんだけど」
「そうしたいのは山々……ではないな。仕事でね」
「ちぇ」
そんなやりとりをしながらこちらに突っ込んでくるので迎え撃……たない。殴り合いでは押し負けるとわかっているんだから、わざわざ付き合う必要は無いと火魔法の火砲で応戦。
「っとと、すげえな」
「感心するくらいならまともに食らって欲しいのですけど」
「防御魔法が切れちまってな。まともに食らうとヤバいんだよ」
「サービス精神の無い人ね」
「よく言われる……よ!」
こちらの魔法を軽やかにかわす動きが癪に障る。私の目線とかを追いながら魔法の範囲を予測して回避か。なかなかの高等技術、違うか。私がそういう駆け引きとか視線を送らずに攻撃とかそう言うのが出来ない戦闘素人というだけで、彼らにとっては出来て当たり前のことなんだろうね。
「撃っても撃っても避けられるなら……避けきれないくらいに撃つ!」
「何っ!」
今まで一発ずつ撃っていた魔法を、相手のいる方向にほぼ同時に何発も撃つようにするとさすがに近づいてこれなくなったが、それでも避け続けている。
アレは最早そう言う技術とか言うのではなくて、戦闘カンとかそう言う次元だろう。
「ったく、これだけ撃って魔力切れしないとか、化けモンか?」
「失礼な。花も恥じらう十五の乙女よ」
「乙女がこんなドンパチするかよ!」
ぐぬぬ……言い返せない。
「とは言え、そろそろ反撃に移るか!」
「え?」
こちらの魔法――あのでっかいのを吹き飛ばした火砲が連射性もいいので使っているのだけれど――を気にせずに突っ込んできた。え?防御魔法が切れたとか言ってなかったっけ?
「ちと熱いが……実は効かねえんだよ!」
「何でっ?!」
振り下ろしてきた馬鹿みたいにでかい剣を慌てて避け、即座に反撃の魔法を撃つが、直撃しているのに意に介さずに突っ込んでくる。
「何で平気なのよっ?!」
「そいつは、乙女の秘密って奴さ」
「アンタのどこが乙女なのよ!」
「おいおい。どこからどう見てもお前さんより俺の方が乙女だろ?」
さらに横なぎの一撃をかわしながら、魔法を直撃させ……ダメだ、全然効いてない。
「どりゃ!」
「うぐっ!」
避けきれずに吹っ飛ばされたのをなんとか起き上がり……左足首から変な音がして、ガクンと力が抜けた。
戦闘中だと言うのに、色々と余計なことを考えてしまうせいで、いちいち隙が生まれてしまい、そこを突かれている流れ。こればっかりはちゃんとした戦闘訓練を積んで、場数を踏んでと言う手順で行かないと治らないと思うんだけど……って、また余計なことを考えてる!
「頑丈だな!」
「丈夫に産んでくれた両親には感謝してるわ!」
心の中で実際には神様のおかげですけどと付け加えながら魔法を放つ。が、やっぱり平気な顔して突っ込んでくる。
「少しも燃えないとかどういうことよ!」
「ははっ!すまねえなっ!」
火砲だけで無く火球も混ぜて放つが、髪が焦げると言うこともなく平気な顔。火球の爆風で少し髪が揺れたがその程度。全く以て、魔法に関する自信がガラガラと音を立てて崩れていくような感じね。まあ、私の魔法なんて神様チートが無ければ使えない、本当の意味でのチートだけど。
しかし、こちらの攻撃が通用しないというのはさすがに困る。そろそろどうにかしないと……よし、こうしよう。
「もう一発!」
「効かねえなあ!」
火砲に火砲を重ねて放ったのに意に介すこと無く突っ込んできたところで……時間感覚操作百倍。
魔法が直撃している辺りを観察……へえ。体の表面、身につけている鎧とかも含めてうっすらと何かに覆われている。これが防御魔法?
そうだ、鑑定してみよう……えーと……名前はいいや。お、火炎無効……これが、このうっすらと見えるナニかだね、きっと。
つまり、コイツは私が使い勝手がいい――単純に威力が大きいのと、少しくらい外れても余波でダメージを与えられるし――ので連射している火魔法が効きづらいという事ね。
それなら簡単。時間感覚操作を解除、と。
近づいたままの状態、つまりでっかい剣の間合いの内側から殴って……
「うわっとおっ!」
チ……反射神経の鋭い奴め。でも、火だけ無効と言うことは他は効くと言うこと。もう逃がさないからね。
水魔法レベル六 凍結
「な、何ッ!」
いきなり魔法を切り替えたのに追いつけなかったらしく、足下から凍り付いていく。
「クソがっ!うおりゃあああ!」
「えー、そう言うことも出来るの?」
「そりゃそうさ……一応は魔王様直属、炎のローガーと呼ばれているからな」
ローガーの全身から噴き出す熱気で、凍り付きそうだったのが溶けて……いくかと思いきや、私の魔法の方がやや強い。
「ぬおおおおおっ!」
さらに気合いを入れているところ申し訳ないけど、こちらも負けるわけにはいかないのよ。
「ていっ!」
「ぬわっ!」
必死に氷を溶かそうとしているところに新たな魔法を叩き込むべく魔力を集中。これなら行けると勝手に判断したところにヴィジョンを呼び寄せて油断たっぷりに突き出していた顎を蹴り上げさせると、さすがに不意討ち過ぎたのかガクンとのけぞった。そしてパキパキッとのけぞった姿勢のまま上半身が凍り始めたところに追加。
土魔法レベル八 地槍乱舞
地面から生えてきた無数の槍が私の氷すら突き破り、ローガーの体を貫く。
「ぐ……が……かはっ……」
そして追い打ちをかけるように串刺しになったまま全身が凍り付いていく。
「トドメ!」
仰向けになった姿勢の首筋へかかと落としを食らわせると、バキッと割れて落ちた。
「ふう」
さすがにこれで……うん、マップ表示上も消えたわね。
「はあ……疲れた」




