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そう、俺たちはそこそこ腕が立つつもりだが、あくまでもそこそこ。そしてそんな俺たちでは到底敵わないような魔物たち。目くらまし、陽動、罠と、ありとあらゆる手段で逃げ回っていたところにそれらを軽く一蹴できる化け物登場。
そしてそんな化け物すら圧倒して見せた少女。
「俺としては……実に情けない話だが、あの子に任せようと思う」
「……」
視線が冷たい。
「そりゃ俺だって、あんな小さな子に頼るのはどうかと思うよ?でも見ただろ?あの化け物相手の戦いを」
「そうだな」
「俺たち全員が束になってもかすり傷一つも追わなかった化け物が」
「上半身吹き飛んで消えるとか……な」
「あの子が何を考えているのかわからないけど、俺たちを助けようとしてくれているんだと思う」
「賛成」
「異議無し」
とりあえず全員の意見はまとまったが、一つ問題が。
「俺たち、ずっとこのまま?」
いくらあの子が強いと言っても腹も減るだろうし眠くもなるだろう。飯の支度くらいはした方がいいかな?という話にもなったが、小屋の中で煮炊きの火が使えるわけがない。
「とりあえず、出来る事を考えようか」
前向きなのか後ろ向きなのか、はたまた現状維持なのか、どうとでも受け取れる事しか言えなかった。
そして、それじゃあ……と手をつけようとしたら、小屋の揺れが止まり、どこかに置かれたようなゴトンと言う音がした。
「ん?何だ?」
「止まった?」
恐る恐る窓から覗いてみると、
「壁?」
小屋全体が高い壁で囲まれていた。
「何だこれ?」
「出てみようか」
だが、外に出たところで何がわかるわけでもない。ただ単に壁で囲まれた中に小屋が置かれており、あの少女は……壁の上にいた。
「ちょっ、女の子を下から見上げないの!」
「いや、そう言われても」
どう見てもズボンだからと言いかけてやめた。口では絶対負けるから。
「うわ、これすごいな」
「え?」
「この壁、魔法で作られてる」
「マジで?」
どうも小屋をぐるりと囲んでいる土を固めたような壁は魔法で作られているようだ。
「あきれるほどの魔力量っぽいな」
「え?」
「正確にはわからないが、多分厚さも二、三メートルはあるだろ」
「ありそう……だな」
コンコンと叩いてみても響く様子がないから相当厚いだろう。
「そしてこの高さ……宮廷魔導師数人がかりレベルだぞ」
「マジで?」
「だが、言われてみればそうかもなと言うくらいの壁だな」
「それよりもこの強度。ちょっとやそっとじゃ壊れないわよ?」
「確かに」
全員の思いは一致した。
「「「「「「あの子、何者?」」」」」」
こちらに害意がないのは間違いないが、一体何が目的で自分たちをこうして連れているのか、そしてこうして壁で囲んだのか……わからんな。
疲れたので少し休憩。小屋をむき出しのままとか危険すぎるので周りを壁で囲んでおく。
私はその壁の上で寝ればいいかと、アイテムボックスから毛布やら食べ物やらを出そうとしたら下から話し声が聞こえてきた。うーん、ここで少し休憩しますって伝えた方がいいんだろうけど、言葉が通じないって不便ね。
とりあえず下を覗き込んで……うん、元気そうね。よしよし。こっちを見上げているので手をヒラヒラやって、元気ですよ、問題ありませんよアピールの後、そろそろ寝ます、みたいな感じでジェスチャー。伝わるといいな。
さてと、では休憩……うーん、魔物がウロウロし始めた。ちょっと鬱陶しいかな。
「魔法で吹き飛ばす~っと」
ちょっとした広間みたいなところなので見通しもよく、範囲広めの魔法で吹き飛ばして残骸をそのまま放置すれば、危険を感じて近寄ってこない……といいな。
「とりあえずあの子が上にいるのはわかった」
「うん」
「で、どうやらここで休憩するらしい」
「みたいね」
「どうする?」
全員で互いを見合わせ、意見は再び一致した。
「「「「「「メシにするか」」」」」」
幸い、壁と小屋の距離は程よく開いているので、火をおこす。その横では鍋の用意。適当に干し肉と干し野菜を放り込んだスープにする。ダンジョンではこんな簡単な料理ですら中々出来ないという事を考えると実に贅沢だな。
「あの子にもお裾分けした方がいいのかな?」
「うーん……呼んでみるか」
ダンジョンに入っている以上、あの子も食べるものは用意しているだろうが、暖かいものの方がいいだろうし、皆で食べた方がおいしいだろ?
「おーい、名前がよくわからないけど、聞こえるかい?」
ひょこっと顔が出てきた。
周囲が静かになったので、さてご飯に、と思ったら下から声が聞こえる。私を呼んでいるのかしらと覗いてみたら……あら、こんなところでたき火開始?酸素不足で窒息するわよ?
とりあえず壁の一部を魔法で操作して数センチ隙間を空ける。ダンジョンの壁際だから魔物が入り込む事もないでしょう。
って、手招き?鍋で何かを作っている……一緒に食べようってことかしら?
「ふむ」
ま、いいか。言葉は通じずとも心は通じ合えるはず。と言うか、この状況でお誘いはお断りしますとか、ちょっと冷たい対応だと思うし。
トンッとジャンプして降りると……何これ、結構いい香りじゃないの。お腹がグーと鳴った。
一旦覗かせた顔が引っ込み、どうかなと思ったら飛び降りてきた。
このくらいの高さはなんともないという感じで。
そして、こちらの鍋を見つめ……お腹が鳴った。
そして、実に女の子らしく、慌ててごまかそうとしたりしてて、全員が吹き出した。魔物を一撃で屠る戦闘力があっても、こういうところは年相応の女の子だね。
「あり合わせで適当に作っただけだけど」
そう言って、椀に入れて渡してやると、にっこり笑って受け取り、キチンと足を揃えて座って食べ始めた。何て言うか、小動物が食べている様子みたいでずっとみてられそうな感じだ。
「それにしても」
「うん?」
「変な仮面してるけど、可愛らしい感じよね」
「そうねえ」
「……ちょっとだけ髪型いじりたいかも」
「あ、あとさ……これなんてどう?」
女性陣がキャッキャとはしゃいでいるけど……ここ、ダンジョンだぞ?緊張感持とうぜ……って無理か。こんな壁をぶち抜いてくるような魔物、少なくとも俺たちの知る限りこのダンジョンにはいないだろうし。
お腹が鳴ってしまったのは恥ずかしかったが、なんか微笑ましい物を見せてもらいました、みたいな表情でスルーしてくれて、出来たてのスープをもらった。
体を動かすために必要なのだろうけど、具だくさんでちょっと濃いめの味付けだけどこれはこれでおいしい。体に染みわたる。
「んーっ、おいしい!」
なんてやっていたら、このパーティの女性二人から妙な視線が。え?あの?ちょっと?その手にしている紐とか布とかなんですか?
「@$*kjyh♪」
「≒~)%{+@<*♪」
楽しそうな雰囲気で前後に立たれ……髪とか服とかいじられた。まあ、服はすこし絞って飾り布をつける程度だけどね。
私的には仮面の力で伸びたように見えているだけの髪が紐で結べるというのに一番驚いたけどね。これ、仮面を取ったらどうなるんだろう?
二人とも私の仕上がりをみてご満悦な感じなので、ここを出るまでの間は仮面を取らないようにしていようかな。
さて、六人全員が落ち着いた感じなので、精一杯「ありがとうございました。ご飯おいしかったです」をアピールして壁の上へ。散らかしておいたおかげなのか、魔物は寄りついていないので、とりあえずここで寝よう。毛布を頭からかぶっておやすみなさい。




