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私の周りには、色々と優秀な人を集めてもらったんだなと改めて実感。オルステッド家の皆さんには感謝しかない。
セインさんは皆の状況を完璧に把握しつつ、私が何をするべきか適確に判断して伝えてくれる。
クラレッグさんとエルンスさんは、ちょっと情熱が溢れすぎているけど、腕は確か。
ライルズさんは今のところ特に目立ったことはないけれど、新興貴族である私の屋敷の安全を守ってくれているのは間違いない。
うん、私みたいな新興貴族の屋敷って、だいたい数日の内に泥棒が入るのが常なんだってさ。物盗り目的とは別に、貴族になったばかりの無駄に緊張していて脇が甘い隙に潜り込んで色々情報を抜き取る目的もあるらしいけど、セインさんの報告書によると既に五十人以上を捕縛してるって書いてあった。
私の屋敷、狙われすぎでしょ、と思う。まあ、狙った方もまさか元騎士団の優秀な面々が警備しているとは思わないだろう。
え?捕まった連中がその後どうなるかって?セインさんが「知りたいですか?」とニコニコ顔で聞いてきたので、聞かないことにしたよ。だいたい想像がつくし。
そしてタチアナ。侯爵家に居候していた時からの付き合いね。私とは常識の方向性がズレていて、言動に変人っぽさが見え隠れ……いや隠れてないか……とにかく変人。だけど、メイドとしての立ち居振る舞いは完璧だし、セインさん同様に各貴族家についても詳しい。
「ここのダンジョンともう一つが片付いたら、みんなに労った方がいいのかな?」
それが仕事だし、それに見合う給金をもらってますって言いそうだけどね。そんなことを考えながら目を閉じて少しだけ休むことにした。
二時間ほどで目を覚ますとうーん、と伸びをする。さすがに硬い岩の上にそのまま寝てると体中が痛い。すぐに治るけど。
そして私が寝ていた岩壁の下は魔物で一杯。押し寄せてきたのが全部ここで足止めされ、オーバーハング&下向きのトゲをはやしておいたおかげで登ってくることも出来ず、と言うわけだ。
「とりあえず片付けますかね」
思ったよりも頑丈な魔物が多くて、威力調整を見誤ったけど、魔法三発で一通り片付けると、再び走り出す。
「八層到着……むむ」
八層は大きな、それこそ街一つ分くらいありそうなほど大きな空間とその周囲に細い通路と小部屋という構造。そしてその巨大空間に、大きな反応と……人間数名。まだ生きているのでは無い、魔物……いや、魔族が戯れに生かしているだけのようだ。
完全に私のエゴだけど、私としては、出来るだけ大勢助けたい。だから、全力で駆け……るのでは無く、ヴィジョンに運んでもらう。平均速度で言えば飛んで移動するのが一番速いので。
「いた!」
ヴィジョンを戻しつつ地面へ降り、そのまま魔物へ向かって駆けていく。
時間感覚操作十倍。
材質不明な鎧を身につけた三メートルはありそうな巨体が面倒臭そうに、それでいて反応を楽しみ弄んでいるふうに一人の男性を蹴り飛ばそうとしたところに滑り込み、蹴り上げてきた足を殴りつけて向きをそらす。
「ぬおっ!」
私の登場に多分気づいていただろうけど、こんなふうに入ってくるとは思っていなかったようで、バランスを崩して魔族が倒れる。そのすきに周囲を確認。
他に魔物は無し。ハンターが六名。連れて歩くにはちょっと多い?でもとりあえず
「ヒール」
傷を癒やし、体力も回復させる効果があるけど、緊張が切れたのか、全員がその場にへたり込んでしまった。このままだと、戦いに巻き込んでしまうので、すぐに魔族の元へ。
「どりゃあああああっ!」
足を掴んでブンと振り回して奥の方へ放り投げ、すぐにその跡を追う。この勢いでどこかにぶつかったところで、コイツにはほとんどダメージにならないのはだいたい想像がつくし。
「こんの、こむすぬぐわっ!」
何か言いたげに開いた口へ膝蹴りを食らわせてそのまま地面に叩きつける。
「コール!」
「ぬぐおうふっ!」
ヴィジョンを呼び出し、即座にでっかい腹にパンチを連打させると、さすがに応えるらしく、苦悶の表情になる。
「悪いけど、ここで終わらせるわ!」
私の魔力で生み出した炎を剣の形に固めてその首へ振り下ろす。
このダンジョンへ入ってから練習した、結構防御力のある魔物相手に有効な攻撃手段。魔王の手下とか言う、トンでもクラスの耐久力を誇る魔族でもひとたまりも無いはず。
そう考えていた時期が私にもありました。
「ぬん!」
「えぐっ!」
振り下ろした炎の刃はかすかに食い込む程度で止められ、私の頭よりもでかい握りこぶしで吹っ飛ばされた。私のヴィジョンも。
「ヌハハハハハ!終わらなかったようだな」
「ったく……頑丈ね」
「ちいっとばかり、痛かったかな?」
「ま、いいわ。そのくらいは有るかなって思ってたし」
「ほほう?」
「それに、どんだけ頑丈だろうと、私がやることは一緒。少しだけ死ぬのが先に延びた程度よ」
「ふむ……この俺を殺すというのか」
「ええ」
「断る」
「女性のお願いには応えて欲しいわね」
「フン、貴様のようなチビには興味は無いんでな」
何の会話よこれは。
ま、私としては、コイツがどういう考え方をしているとしても、追い返すか殺すかの二択しかなく、どうせ帰れと言っても聞かないのだろうからやることは変わらないんだけどね。
一応説得はしておきますか。
「今からでも遅くないから帰ってくれない?」
「ほう?まさかアレか。殺したくないとかそう言う甘っちょろいことを言うつもりか?」
「そうじゃ無いわ」
ビシッと指を突きつけて言ってやる。
「このダンジョンの一番奥まで行くの、面倒臭いのよ」
「な、そんな理由で?」
「え?いけなかったかしら?」
「いや、その……何というか、こう」
「アンタだってそうでしょ?」
「え?」
「言っておくけどこの先、外に出るまで結構かかるからね。ところどころ道も入り組んでいるところとか多いし」
少なくとも地上と彼らの世界に通じる穴、行き来するだけで数日かかるような位置関係は彼らがこの世界を侵略する足がかりとしても立地条件が悪すぎるだろう。
「ふ……」
「ふ?」
「ふざけるな!」
「ええ……」
「俺は魔王様直属の近衛騎士チャド。この世界を支配するのは我らが主のみ!今ここで障害となる貴様を木っ端みじんにしてくれるわ!」
説得、無理でした。
そのまま頭から突っ込んできたので……避ける。
「ぬあっ?!貴様!何故避ける?!この俺様から逃げるというのか、この臆病者め!」
「いや、何というか……」
明らかに体格に差がありすぎて、どう考えても私が吹っ飛ばされる未来しか見えないんですよね。縦も横も私の倍以上あるんだから。
「どおりゃああ!」
「ふんぬ!」
両者の拳がぶつかりあい、衝撃波が周りにまだウロウロしていたハンターを吹き飛ばし……私はダンジョンの地面を抉りながらどうにか耐えて魔族を逆に弾き飛ばす。
「さらに追い打ち……って、さっさと逃げなさい!」
シッシッと追い払う仕草をしておいた……あ、出られないように壁で塞いじゃったんだっけ……ああ、もう、どうしよう!
「中々やるな」
「少しでも脅威に感じてもらえたなら、戻って報告した方がいいんじゃない?」
「愚問だな。脅威を排除しておきましたという報告の方がいいだろうに」
無駄に有能ね。




