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うん、面倒くさいからこのまま入っちゃおう、そうしよう。そう思って歩き出したら、ギルド職員さんたちが私の前を塞いで何やら騒ぎ出した。
んー、多分コレは……そうか。私がやって見せたのは傷を治しただけ。魔物相手に私が戦えることを見せないとダメ、とかそう言う感じかな?
ん?またダンジョンから……もう一匹出てきたか。
先ほど三匹倒した人たちは、位置的に微妙。と言うか、私が戦えるってことを示しておくべきでしょう。
時間感覚操作、百倍。
時間の流れがゆっくりになった世界で、一気にハイオークへ駆けていき、間抜けに突き出ているアゴへアッパーカット。首から上を吹き飛ばし、直後に解除。
ドムッという衝撃音が私の頭上で響き、慌てて離れた辺りに血肉の雨が降り、ドサッと体が倒れる。
「え……」
「今の、何?」
さらに追加が出てきたと思った瞬間、少女の姿が消え、同時に頭が吹き飛んだ。
理解の及ばないことが起きているのだがと、ギルド職員とレデリックたちとは顔を見合わせて頷いた。
「理解するだけ無駄だな」
目にも止まらぬ速さで移動し、魔物の方が何をされたか気づくより速く倒す。
そんなことが出来るハンターなど、世界有数の実力者が集う迷宮都市でもそうそう見かけないだろう。
「あ、おい。ちょっと!」
少女がこちらにヒラヒラ手を振ってからダンジョンへ向かう。
奥の方へ行くらしいが、案内とか必要なんじゃないか?
「頼む、道案内だけでも」
「わかりました。行こうぜ」
正直、こんなことを手のひらで出来るような者に護衛とかそう言うのが必要かというと疑問ではあるが、ハンターギルドに属していない者を何も無しに入れるのはさすがにマズい。何しろ結構な身分の人物らしいから、何かあってからでは遅いのだ。
とりあえず通してくれたのでダンジョンへ入ったんだけど、後ろから五人のハンターが着いてきた。まさかと思うけど、このまま着いてくるつもり……なんだろうなあ。急がないとならないのにコレじゃあ……うーん。まあいいや。着いてくるのが無理と判断すれば勝手に戻るでしょう。
「マップ確認……うげ、ほぼ真っ直ぐ進まないと下に降りられないのね……うわ、すぐ近くに魔物が集まって……って、ハンターもいっぱい?」
先へ進むのも時間がかかりそうだし、そもそも襲われているハンターも助けないと、と思っていたらリリィさんからの手紙が飛んできた。
「えーと、状況を教えてくれ、と。あとは……え?このダンジョン、十三層まで確認されていて、さらに奥があるらしいとも言われている……うわあ、時間かかりそうだわ」
とりあえずダンジョンについてちょうど中に入ったばかりだということと、構造的にすごく時間がかかりそうだということ。既に魔物が出たことと、後ろに監視役(?)として五人着いてきているんだけど、どうにもならないから振り切る予定だと返事をする。これで対応を協議してくれるといいけど、外のギルド職員に「監視とか不要。危ないから全員逃げろ」って伝わるまでに何時間もかかるのは間違いない。
「とりあえず……急がないと!」
ちょうど返事を送り終えたところで……地獄絵図とでも言えばいいのだろうか。ハイオークの群れと必死に戦うハンターたちのところへ辿り着いた。
既に事切れている者、重傷者、何とか動けているが、倒れるのも時間の問題の者……何となくの空気でわかるけど、ハイオークはここのダンジョンの一層に出る魔物ではない。だから一層に挑んでいるレベルのハンターたちには荷が重いのは明らか。
「わわわっ」
辿り着いて状況を視認している僅かな間に、ハンターが三人私の上に倒れてきた。私の立っている位置が悪いわけで彼らに非は無いから、蹴り飛ばすとか言う選択肢はない。
「ふみぃ……動けないなら……コール!とりあえず目につく魔物をやっつけて!」
ふわりと出てきたヴィジョンは私の指示に頷くと、二、三メートルの高さを維持しながら飛び回り、ハイオークの首を刈り取っていく。わあ、なかなか雑に物騒なことをするわねえ。まあ、私も多分同じようにすると思うけど。とりあえず見える範囲のハイオークを片付けたところで、次は私のお仕事です。
「ヒール!っと、動けるなら降りて下さい」
言葉は通じていないけど、必死に私が押しのけようとしたら、私の後からついてきた人たちが手を借りながら降りてくれた。やれやれ。
「えーっと、大丈夫そうね。うん、ではみんな逃げて。出口はあっちよ」
通じないのは承知の上で、私が来た方向を指し示し、近くにいた数人の背を押してさっさと行きなさいと促す。
「ガアッ!」
「うわ、また来たわ」
ハンターたちが色々戸惑うのは仕方ないのだけれど、そうやっている間にもどんどん魔物が押し寄せてくる。ああ……私のヴィジョンは健気ねえ。ちゃんと指示通りに首を刈りにいってるわ……手っ取り早いのは確かだけど、ものすごく殺伐とした絵なのよね。もう少し何とかしようと、今後の課題として覚えておくことにした。だって、魔物の返り血まみれの美少女が無表情のまま首を蹴り飛ばしているのよ?アフターフォローをしっかりしないと一生のトラウマになりかねないわ。まあ、ハンターってそういうのが日常風景の職業なのかも知れないけど。
とりあえず少女のあとについてダンジョンに飛び込んだらいきなりモンスターの群れに遭遇とか、一体どうなってるんだとレデリックたちはどうにか後輩ハンターたちを助けようとしたのだが、何しろ狭い通路にひしめき合っていて前に出ることが出来ない。と言うか、すぐ前で倒れている三人の下に少女が潰されるようになっている。とりあえず怪我などはないようで、這い出そうとジタバタ手足が動いている。ハイオークを簡単に倒すほどの力があれば、上に乗っかっている者をどかすなど容易だろうに、重傷者へ配慮しているのだろうな。
「とりあえずこれを引っ張り出すか?」
「だな……」
やれやれと手を伸ばそうとしたらいきなり目の前に、金色としか表現のしようのない少女が現れた。
「※@#$%!!」
ぷはっと顔を出した少女が何かを叫ぶと、その金色の少女は目にも止まらぬという表現がしっくりくるほどの速さで空を駆け、ハイオークを蹴り飛ばしていった。いや、正確にはハイオークの頭だけを蹴り飛ばしたという方がいいだろう。何しろ少女の駆け抜けたあとには首から下だけになったハイオークしか残っておらず、しばらくプルプルと震えた後にバタリと倒れていくのだから。
「何これ」
「俺に聞くなよ」
本来、魔物が目の前にいるのだから呆然とするなどあり得ないのだが、あまりの出来事にただ見ているしか出来なかったというのも情けない話だ。そして一分もかからずに全てが片付いたところで、何とか這い出そうとしている少女が何かを呟くと、あたりに倒れているハンターたちの体がボウッと光に包まれた。
「な……何が……」
「って、え?え?何これ?」
「腕が折れてたはずなのに」
「なあ、俺……肘から先が千切れ飛んでたハズなんだけど」
「そこに落ちてるな」
彼らの言葉を総合すると、手足が欠損するレベルの重傷すら治してしまっていると言うことか?理解が追いつかないがとりあえず、少女の上に倒れたまま何が起きたかさっぱりという三人を引っ張り起こすと、少女がふうとため息をつきながら立ち上がり、パンパンとあちこちを叩いて汚れを落としていた。




