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  作者: ひじきとコロッケ
中級ダンジョンと聞いてワクワクが止まりません
112/283

12-1

「アレがダンジョンね」


 遠くに、小さな岩山と集落が見えてきた。外から動物や魔物が入ってこないようにするための柵などがないことからダンジョン周辺にハンター向けの施設が自然に集まって出来た集落だと判断。私のマップ上も、アレが目的のダンジョンだと示しているし。

 今回はキチンと話を通しながらダンジョンに入るわけだけど、言葉が通じないから細かい話を私が出来ない。つまり、空を飛んでやって来たことについて「気にしないで下さい」とも「魔法です」とも説明出来ないので、手前の街道沿いに着地。もちろん近くに誰もいないことを確認しながら。

 改めて身なりを確認。エルンスさんの徹夜の成果の上に適当にサイズの合う物を用意しただけの革の防具……ぶっちゃけ何の意味も無いけどね。顔には隠すどころか変装レベルで姿を変えてくれる仮面。物の出し入れの時にカモフラージュになればいいかなという程度の役割しか期待していない腰のポーチに、これまたお飾り以上の役割を担うことのない短剣。足元は一応それっぽく見えるように選ばれたゴツい感じのするブーツ。

 怪しさだけを演出している仮面を除いて、遠目に見れば駆け出しのハンターにしか見えないハズなんだけど、一つ一つが私の目から見ても高級品。普通、駆け出しハンターの身につける物なんてどれもコレも、銅貨数枚で買える物が精々だろうに、これらは全て金貨が必要。それどころかエルンスさんの作った服に至っては、金貨を積み上げないとダメな奴。価値のわかる人が見たらどう言う感想を抱くやら。

 とまあ、気にしても仕方ないことを確認してからダンジョンに向けて歩き出す。微かに森との間に踏みならされた道はあるけど、この先にあるのはフェルナンド王国との国境になる険しい山脈とその麓の大森林のみ。そこから歩いて出てきている時点で怪しさ満点だけど、そこはもう諦める。他の方角には目隠しになりそうな物も無いから空から下りてきた時点で目立つからね。仕方ないよね。

 そんな風に、比較的どうでもいいことを考えながら歩いて行くと、さすがに向こうからもこちらの姿が見えるようで、数人、こちらを指さして何かを話している様子が見える。ええ、集中すれば話している声は聞こえるんだけど、何を話しているのかはさっぱりです。あ、そろそろこの「首から提げておくように用意された紙」を……首から提げるのは恥ずかしいのでやめます。手に持ってるだけにします。何て書いてあるかわからないから不安だし。




 ルブロイ北部にある、比較的危険度の高い――中にいる魔物の強さという意味であり、魔物が外に出てくることは無いため、周囲に住むには特に危険は無い――ダンジョンで、ハンターの出入りを管理しているギルド出張所に、早馬で伝えられたのは、普通に考えたら頭がおかしい内容であった。


「ダンジョンの奥に異界の魔王が穴を開け、こちらに侵攻しようとしている。中の魔物も強くなるため、できるだけ早くハンターを引き上げさせるように。また、ダンジョンの最奥まで向かい、魔王の侵攻を止めるため、フェルナンド王国から少女が一人派遣される。特にもてなしなどは不要だが、邪魔をしないように……という通達がラガレットからの正式文書で通達されたが信じられると思うか?……と書かれているんだが、お前らどう思う?」


 所長のバイルズから、どう思うと言われても、と出張所の職員たちは顔を見合わせる。


「それ……「信じられると思うか?」まで書かれてたんですか?」

「ああ、ほらここ」


 ホレ、と渡された紙には確かに先ほど読み上げられたとおりの文面が書かれていた。正式文書そのものは王城で保管しているとも書かれているが、別に本書に興味は無い。


「さらに続きがありますね。この派遣されてくる少女について」

「ん?ああ、続きも読み上げようと思ってたんだが……いいや、代わりに読み上げてくれ」


 この出張所の所長という肩書きはあるが、こんな小さな出張所で上下関係なんて面倒くさいと思っているバイルズは、読み上げる役割を押しつけた。誰が読んでも同じだし、と。


「えーと……背格好は十二、三歳程度だが、一応十五歳で成人しているため、相応の対応をすること。髪は長い茶髪か、短い淡いピンクのいずれか……って、なんで「いずれか」がついてる?」

「だよなあ」


 髪型なんて、何かの理由で切ったから短くなった、というのはあり得るが、長さと色が二パターン。カツラでもしているというのならわかるが、そういう風に読める文ではない。よくわからんな。


「身につけている物は特にこれと言った特徴の無い、駆け出しハンター未満だが、よく見ればどれも上等な物なのでわかると思う」

「駆け出しハンター未満ってどういうことだ?」

「多分、胸と腹を革の鎧で覆って、丈夫なブーツと手袋位って事ですかね?」

「そんなんでダンジョンに入って平気なのか?」

「少なくともそれで平気な奴を俺は知りませんよ。えーと、続き……武器は多分持っていないか、持っていても適当に格好のつく程度の短剣。あと荷物を入れる背嚢の類いは持っていないが気にするな」

「そこ一番気にするところ!」


 ダンジョンに入るハンターが手ぶらで入るとか意味がわからん。もちろん、「ちょっとそこまで」と二、三時間で戻ってくるような採取依頼のために潜るときには比較的軽装な者もいるにはいるが。

 だが、ダンジョンの奥、それも人類未到達の最奥まで行くというのに、ほぼ手ぶらで行くというのは普通では考えられないこと。引き留めずに素通りさせるようにと書かれているが、「死にに行きます。気にしないで下さい」と言っているような者をそのまま見過ごすわけにも行かない。


「そんなわけで、すまないが……同行を頼む」


 そう言って、急遽来てもらったベテランハンター五人組の方を見る。


「まあ、俺たちは仕事として請けるだけですけど」

「あまりにも危なっかしかったら、首根っこつかんで戻ってくるか、見捨てるか……どっちがいいんですか?」

「判断は任せる。状況次第ということで」


 少なくとも、この文書に書かれている、ダンジョン内の魔物が強くなる、と言う事象が起きていない以上、この少女がここに来るかどうかも怪しいと睨んでいたのだが、職員が一人駆けてきた。


「あの……それに書かれているっぽい人が来てますけど」

「え?マジで?」


 とりあえず出迎えるか。




 集落に着くと……なんか立派な制服を着ている人が数人並んでいたので、紙を見せると頷いて、どうぞこちらへというジェスチャー。着いていった先はハンターギルド出張所、多分。紙に書かれてるのと同じ字が看板に書いてあるからね。そして、渡すように言われていた封筒を一番偉そうな人に渡すと、中身と私を交互に見ながら他の人と色々話をしている。事前に伝わっている内容と手紙と私を見比べているみたいね。まあ、ここで数分を焦っても仕方ないのでちょっと待……ん?




 森に通じる獣道のようなところを歩いてきたのは、確かに知らされていたとおりの少女。こちらの言葉が通じないようで、ジェスチャーでなんとかという感じか。手に持っている紙には……「事前にお知らせがあった人物が私です。フェルナンド王国の上位貴族で、ラガレット王室と深い関わりがある重要人物として丁重に扱うように願います」と書かれている。何だコイツは?

 何とも怪しい仮面をしているので表情は読み取れないが、口元はにこやかに笑っているようなので、過剰な警戒は不要かと思ったら厳重に封のされた手紙を渡された。封蝋の紋章はラガレット王国の正式な物のようだな。中身は、さっきまで確認していた内容とほぼ同じだが、この人物がラガレット王国とフェルナンド王国を繋ぐ架け橋というか、重要人物だということが書かれている。まさか、どちらかの国の王族とかそう言うことは……無いと願いたいね。


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