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で、食べた結果がどうなったかというと……一時間、いや二時間ほど、色々と聞かれた。材料はもちろん作り方も。以前、コレを作って屋敷で食べたあとに、セインさんから「仮に王族に知られた場合の返事」を教えてもらっていたのでその通りに答えるだけだけどね。
材料については正直に答える。物が物……家畜の飼料に使われることが多い作物だと言うことを隠すとロクな事にならないから、キチンと正直に。ただ、家畜の餌箱からかき集めてきたわけではないと言うこともキチンと強調しておく。そうしないとどこでどんな話になるかわかった物では無いので……という一応の警戒はしておいたのだけれど、国王夫妻と王女王子に宰相さんがそろって「え?一個しかないの?」という視線をこちらに向けた後に、「え?それが材料なの?」という表情になった上で王様たちからこう言われた。
「次は全員に四個ずつ頼みたい。と言うか、店を出して売ってくれませんか?」
「あなた……いきなり店なんて」
「おお、そうか……そうだよな」
「ご安心下さい。店の場所くらいならいくらでも確保致します」
何だろう……勝手に話が進んでいくよ。
とりあえず、クラレッグさんがレシピとしてキチンとまとめ上げるまでは店を出すなんて無理。ついでに言うと、城に来る度にそんなに大量に作ってくるとか……え?ホントにやらないとダメ?
「うむ。レオナ様のところの料理人の評判はもちろん知っている。あの若さで大したものだとな。だが、それはそれ」
「え?」
「私たちは、レオナ様が作ったものが食べたいのよ」
「……善処します」
日本の政治家が返答に困るとこう答えていたけど、その気持ちが少しだけわかった気がするわ。
と言うことで、この会合で決まったことは次の通り。
一つ。今回ダンジョンを一つ潰したことについて、リンガラへ何らかの対応が必要になる。詳細はラガレットと協議して詰めていく。また、平行して私に関わった方へのフォローも入れる。
一つ、現在判明している魔王が進行してくるポイント二つの状況は近日中に私が確認し、詳細がわかり次第報告する。
一つ、クラレッグさんにおはぎのレシピ完成を急がせる。販売するための店舗の手配は進めておくのでよろしく。
一つ、今後私が城に来るときには何らかの手土産、もとい手料理を持参する。材料費等の相談には応じる。
後半二つが明らかにおかしい件。まあ、いいか。
話を終えて退室していくときの王子二人の妃の視線がちょっとキツいかな、と思った。多分、おはぎの材料が家畜の飼料というのがダメだったんだろう。何となくだけど、王族の皆さんは、フランクな感じ。おはぎに関する感想は多分本心からの物だろう。もちろんそこには、天候不順などの際の非常食としての活用方法という、実利の面が少なからずあるだろうから、そこは差し引いて考えておいた方がいいかもしれない。王様自らが「コレは美味い、皆も食べると良い」と言えば、国民も従いやすいだろうし。
だけどあの二人にそういう意識はないのだろう。いわゆる貴族としてお高くとまってるというか、そう言う感じなのかな、と思う。
フェルナンド王国の貴族にも色々なタイプがいる。私の提示した料理に興味を示し、活用方法を考えるなど、常に国益を見据えて粉骨砕身するオルステッド家のようなタイプに、貴族という特権階級にあぐらをかいて贅沢三昧の日々を過ごすタイプ。様々だ。
国としてはキチンと税を集め、領地を治めてさえいればそれぞれの貴族がどんな生活をしていようと口を挟むことはしないらしい。
それでいいのかと思ったんだけど、領民たちは住んでる地域の税が重いなど、領主に不満があるなら……逃げ出すんだって。いわゆる一家全員で逃げ出す夜逃げタイプは最終手段で、第一ステップは近くの別の領地へ人を遣り、領主へ訴えるんだそうだ。そうすると、「そりゃひどい」という話になって、領主間で色々とやることになるんだけど、だいたいそこでバックにいる寄親、侯爵クラスが暗躍し、ひどい税を課していたり、当地に問題のある領主の首が飛ぶ。時には物理的に。そして国王へは事後報告。それでいいのかこの国は。
話がそれたか。
とにかく、まあ、そこまでひどくなくても貴族はだいたいいい暮らしが出来るのが一般的。そしてそれを権利として甘受するか、義務を伴うとして襟を正すか、と言うところで、あの二人は甘受するだけの立場なのかな。今のうちにしっかり教育しないと、将来問題になりそうだけど……ま、いいか。
「と言うことでクラレッグさん、あなたに指示があります」
「はい。何なりと」
帰宅してすぐにクラレッグさんを呼び出して今後についての指示を出す。
「おはぎのレシピの完成を急いで下さい」
「え?」
「あれが、我が家の趣味のレベルを超えました」
「ええっと……どういうことでしょうか」
「詳細は調整中ですが、早ければひと月くらいの間に、店を出すことになります」
「店?!」
「そしてそこで売る、と」
「え?店?売る?え?」
まあ、そうなるよねぇ。
「もちろん、そこでクラレッグさんが調理をする必要はありません。クラレッグさんが誰でも作れるように調整して作り上げたレシピを元に、人を雇って作って売りますので、クラレッグさんの職場はここから変わりませんよ」
「それは、はい。ありがたいですが……えっと」
「お店の手配その他は、宰相さんがして下さるそうです。具体的なところではお手伝いいただくと思いますが、基本的にはセインさんがメインで対応を」
「お任せ下さい」
「宰相……さん?」
「国王様肝いりの案件になりましたのでよろしく」
あとはよしなに、って貴族っぽくない?
「レオナ様!」
「何でしょう?」
「見ていただきたい物があります」
「厨房でいいのかしら?」
「はい、お願いします」
まあ、私も用があるしね。ええ、先ほどからタチアナからの刺すような視線が。全方位からジト目とか、ホントすごい能力だわ。
「こちらが現時点での……完成品です」
そう言って渡されたそれは完成にはほど遠い一品だった。
「うーん」
「その……お願いがあります」
ダメ、という判定は想定通りだったようだ。
「もう一度、作っていただけませんか?」
「いいわ……だけど、ちょっと待ってね」
作業にかかりたいのはやまやまだけど、その前に神様のところに確認を。っと、その前にメモを一枚渡しておこう。
「ただ、待ってる間にこれを用意して欲しいんだけど」
「わかりました。すぐに用意します」
「と言うことでやって来たわけですが……間隔短すぎでした?」
「いや、今回はちょうどいいくらいだね」
はいこれ、と紙が渡された。
相変わらず地名がきちんと書かれていない――書かれていてもちんぷんかんぷんだから別にいいんだけど――けれど、山とか川とか大きな街の位置が描かれているから大丈夫ね、多分。
「で、時期的には?」
「そっち、君のいる位置から南西方向は既に小さい穴が開く寸前」
「うわ」
「あと二、三日と言ったところかな」
「わかったわ」
「少々厄介なのは、そのダンジョン、結構広いんだよ」
「広い……面倒臭そうねえ」
「かなり階層も深いみたいだよ」
「参考までに、どのくらい?」
「聞きたい?」
これ、聞いちゃいけないパターンだわ。




