11-12
城に着くとそのまま王様の執務室へ直行。むしろ私待ちだったらしく、王様の真正面の席がしっかり空いていた。
「おお、ようこそおいで下さいました」
「王様にそう言われる私って何者なのかしら?」
「神様の御使いに礼を欠くことなど」
私が王様にどう接すればいいのかわからなくなるので、出来れば上から目線で話して下さい。その方が平民の私にとっては話しやすいのです、多分。
「コホン、よろしいですかな」
「あ、はい。どうぞ」
ロナルド宰相が、話を進めましょうと促してくる。
「今回の件、リリィ・オルステッド様より、概略については確認済みですが、詳細をお聞かせいただきたく、ご足労頂いた次第です。お手数ですがよろしくお願い致します」
「はい。何でも答えます!」
「では早速……」
私が向かった先については、ラガレットを通じて近くの街の名前まで判明している。私は行かなかった上に、興味も湧かなかったから聞かなかったけど。
で、私がこれまでにもあったようにダンジョンを探索し、一番奥にあったコアを破壊。魔王の侵攻を食い止めた、というのは特に問題はない。当初の予定通り。私の到着前にダンジョンに入っていて亡くなったハンターもいたかも知れないけれど、ダンジョン外への被害は最小限に食い止められたわけだし、ラガレットに入っている一報によると感謝の言葉が届いているらしいし。
だけど、その過程で関わった、あるいはその後のアレコレで関わった人について確認したいのだそうだ。
と言うことで、必死に思い出しながら話をする。
「えーと、それで……そこで助けたのが」
「ふむふむ」
「それから次に……」
記憶をたどりながら、関係者の名前などを挙げて答えていく。
何のためかというと、あとでラガレットにこの情報を渡し、何らかの謝礼をしよう、ということらしい。謝礼が必要なのか?とも思うけどね。放っておけば、街どころか国が滅んでもおかしくない事態を防いだわけだから。
それでも、目的達成後にぶっ倒れた私の面倒を見てくれたのは確かなわけで、私自身がお礼を言ってはあるけれど、それはそれ。国としてキチンとした形の謝礼を、と言うことらしい。
うーん、なんだかよくわからないけど、そういうもの、らしい。私としては難しいことは全部偉い人に丸投げでいいか。
「フム、こんなところですかな」
「はい」
「そして芋ですか」
「ええ。とても美味しかったです」
私の食生活が充実したのはここ最近なので、国内で栽培されている芋の中には美味しい物もたくさんあるだろう。でも、あそこで食べた芋は、前世から今世まで通じた中でもかなり上位に入る。是非とも、普通に食卓に並ぶようにしたい。
「詳細はラガレットとも確認ですな」
「うむ。輸送に耐えられる品種でないこともあるからな」
芋にも色々あるらしく、国内で栽培されているにもかかわらず、長期保存・輸送が出来ない物もあるという。出来ればそう言う品種でないことを望みたいところです。
「場合によってはラガレット同様にリンガラにも道を引くことも検討するか」
「通訳がおりません」
「そうか……なかなか難しいものだな」
探せばソフィーさんの他にも通訳の出来るヴィジョン持ちがいる可能性はある。だけど、簡単に見つかるかというと……微妙。自分のヴィジョンが何か、なんて申告する義務はなく、特に生活で役立てそうにないと判断したらその力を使うことなく暮らすことも珍しく無いから簡単には見つからないだろうという判断。実際、ソフィーさんが見つかったのも偶然だったらしいからね。
それに、外交の経験の浅いフェルナンド王国がラガレットとの国交も始まったばかりの状況でさらに他の国、というのは正直厳しい。外交というのは通訳以外にも多くの人員が必要になる。実際、ラガレットとの国交のために、現時点でも三十人ほど。最終的には百人近くが必要になるそうだ。フェルナンド王国は人材不足というわけではないけれど、いきなり何十人もポンと出せるほど余っているわけでもない。急いては事をし損じる、と言う奴ですよ。
「さて、他に確認することは?」
「フム……これと、これ……これは良し……あとは……」
何度か聞き直しをして、思い出し忘れていないか確認して終了だ。
さて、他に話すことは……現状わかっている残り二カ所の件かな。神様のところに行かないとわからないから、帰って確認してまた後日……と思っていた。そのときは。
「よし、少し休憩して続きを話そうか」
「あ、はい」
そうですね。何度も確認しながらの聞き取りだったので二時間弱。休憩も必要ですね。
「ところで、レオナ様」
「はい?」
「何でも、とてもおいしい甘味を作ったとかなんとか」
「え?」
「新たな開拓村ではそれをメインの売り物にするべく動き始めているとも聞いておりますが」
「ああ、はい。そうですね」
隠していたつもりもないし、隠すつもりも隠す必要もない。王様への報告がされていなかったと言えばそうなのだけれど、セインさんは特に何も言ってなかったので、本格的に栽培が始まってからでいいのかと思っていたんだけど、違ったのかしら?
「ええと、すみません。色々と報告が出来ていませんでして」
「いやいや、問題ありません。開拓したばかりの領地でこれから何を、というのは領主であるレオナ様の自由です。それに領の規模にもよりますが、二、三年は税も免除となるのが決まり。その間に何を作っていたとしても、違法な作物でもない限りは咎を受けることもありません」
「そうですか」
「しかし、それはそれ」
「え?」
「王としてあるまじき考えではありますが、個人的にどんな食べ物を作ったのか、実に興味がありまして」
「え、ええ」
「是非とも一度、食べてみたいのですが」
ええ……いいの?あれを出してもいいの?
一応、世間一般では家畜の餌として流通している物が原料なんですけど?確かにリリィさんにフェデリカさんにラガレットの方々なども口にしてますけど……王様に?
え?ラガレットの王子?止めようとする間もなく勝手に食べた人のことなんて知りませんよ?
ギギギ……と音がしそうな感じで首を右へ。オルステッド侯爵がニヤリと笑う。うん、あれは「俺も食いたいぞ」だね。そのまま左へ。エリーゼさんがにっこりと。これは「私は二個食べたいわ」ね。ダメですよ、一人一個ですと視線で返し……「二個よ」と返された。でもダメですってば。
と、そこへドアノックと共に六人の男女が入ってきた。第二王妃様と、王女、王子兄弟とその奥様たちがゾロゾロと。
「あ、えっ……えっと、その!」
「初めまして。レオナ・クレメルね。私はシャルロット。よろしく!」
「ディドリックです。こっちが妻のローディット。以後お見知りおきを」
「姉さんも兄さんも、もう少しこう……レオナ・クレメル様、お騒がせして申し訳ありません。フェルナンド王国第二王子のヴィクトルです。こちらが妻のジャニエル。よろしくお願いします」
「こっ!これはっ!そのっ!ご丁寧にどうもっ!」
いきなりの出来事に私の思考が追いつかない。ドタバタと立ったり座ったりした後に、何度か深呼吸。
「お前たち……隣で盗み聞きをしていたな?」
「仕方ないでしょう?」
「あのレオナ様がいらっしゃるというのにいてもたってもいられなくて」
「そうそう」
はあ、と軽く額に手を当てて王様が続けた。
「で、今のタイミングで入ってきた理由は?」
「それはもちろん」
「何かおいしそうなものを食べるとか」
「これは見逃せないよね」
「うんうん」
えーと、王族ってもう少しこう厳格で、こういうときにも言い回しとかそう言うのが……と思っていたんだけど、すごく気さくな感じだよ!ギャップに追いつけないんですけど!




