11-10
ええと……でっち上げるわよ!
「日々の祈りを始めとする行動へ「ありがとう」という感謝の言葉をいただいております」
「ほ、他には?!」
「えーと……その……魔王の侵攻を防ぐのが最優先だったので、あまり多くを語る時間が無くて、とのことでした」
「そうですか」
「申し訳ありません。私の方がいっぱいいっぱいで、あまりたくさん覚えていられなくて」
「いえ!」
「とんでもないです!」
「私たちの名前を存じていただけているというだけでも!」
三人とも感極まって泣き崩れてしまいました。
罪悪感。
うーん……あとで街の教会に立ち寄って、光っておく?でもなあ……「さすがに来る間隔が短すぎ」って怒られそうね。
それから一時間もすると、料理もほぼ片付いて、何となくお開きの流れに。
「では、私はこれで。このまま帰ります」
「え?」
「どうやって?」
うーむ……ライアンさんは私が空を飛べるというのは知っているわけだけど……適当にごまかすか。
「乙女の秘密です」
「「「……」」」
くっ……沈黙が痛い。
「え、えっとですね……あ、そうだ。今日のお料理にあったお芋って、高かったりするのでしょうか?」
「え?」
「いえ、そんなことは」
「この村と言うか、この地域ではごく普通の芋ですよ」
あれが普通の芋か。異世界ってすごいわ。
「では一つお願いが」
「な、何でしょうか?」
「とてもおいしかったので……フェルナンド王国への輸出を!」
「え?」
「私、レオナ・クレメルの名を出していただいて構いません!」
「は……はあ」
「何だったら……山を切り拓いて道路を引くのもやぶさかではありませんので、是非とも!」
「わかりました。領主へ掛け合いましょう」
「お願いしますね」
ベラウル司教が「お任せください」と自信ありげなので任せて……期待しよう。
「それでは、失礼します。私がまたここに……魔王の侵攻を防ぐ目的で来ることが無いことを祈っています」
時間間隔操作千倍。
タタッと十メートルほど離れてからヴィジョンを呼び出して空へ。少し飛んでから解除、と。これで、皆さんには私の姿がいきなり消えたように見えるハズ。こういう演出って大事ですからね。
「さてと……早く帰って……寝よう」
少し横になったけど、しっかりと眠りたいのですよ。
「ふわあああ……っと、リリィさんからの手紙だ」
パシッと受け取って……何々?ダンジョン崩壊と魔王の侵攻について一報が届いたと言うことで、ラガレットの王子が……リンガラへ向かうことになった。
王都に向かい、対応をして欲しい……というのが通常の流れだが、私にそれを頼むのは酷なので、速やかに帰国するように。
「わかりました。ちょうど帰り始めたところです、と」
返事を送り返す。仮に、仮にだけど、王国がもっといろいろな国と国交があったなら、私が王都に向かってアレコレ、というのも出来たんだろう。各国に大使的な人が派遣されているだろうからね。
でも今は無理。そして、私も……人生経験はともかく、外交なんて……村の人たちとのやりとりでも結構神経使ったのよ。と言うことでリリィさんからの連絡は願ったり叶ったり。
次に侵攻してくるのがいつなのか、どこなのか。気になるところではあるけれど、今は帰ろう。
飛び続けること約半日。ようやくフェルナンド王国の王都が見えてきた。が、いきなり王都に入ったりはしない。私の領地の方へ針路を取り……いた。
「到着しました」
「「お帰りなさいませ」」
セインさんとタチアナが馬車を用意して待っていてくれた。リリィさんの返事に到着予定を書いておいたからね。そのまま馬車に乗り、王都の我が家へ向かう。
道中、タチアナから話を聞いたけれど、留守中は特に何も無し。クラレッグさん達とエルンスさんが色々やっていたようだけれど、通常業務はこなしているので問題は無いそうだ。ま、だいたい何をやっているか予想はつくけど、害が無いなら好きにさせておきましょう。
「それと、オルステッド侯爵からの伝言です」
「うん」
「一度、城へ顔を出して欲しいと」
「何かしら?」
「さあ、そこまでは」
「何か思い当たることとかある?」
「んー……たくさんありすぎて」
「たくさんあるの?!」
「ありますよ」
何で?いや、当たり前か。色々あるもんね、私。
「一番可能性が高いのは今回の件についての報告でしょう。概略は伝わっているようでしたが、詳細な情報を欲しいという話かと」
「それはあるわね……ねえ、そういうのって報告書を出したりしないのかしら?」
「報告書ですか。あるにはありますが、レオナ様は書いたことがありますか?」
「ありません」
当たり前じゃないですか。
「では、口頭報告で十分かと」
「いいのかしら?」
「大丈夫ですよ」
私たちの会話を聞いていたセインさんが御者台から答える。
「聞かれたことに答えていけば、書記官が報告書にまとめますので」
「ふーん」
字の読み書きがまだ完璧では無いからありがたい、かな。
「他には?」
「エリーゼ様が、レオナ様試作の料理を熱望されていると」
「うぐっ……わかったわ」
「あとは領地の方でも少し進展が」
「どんな?」
「と言っても、畑で栽培が始まったという程度ですが」
「今のところ問題なし、と言うことね?」
「はい」
問題が無いならいいか。
優秀なメンバーがアレコレ手配してくれている以上、余計な口出しはしない方が吉よね。
「ただ、出来れば明日か明後日、一度顔を出していただけると」
「わかったわ。特に私が予定していることは無いから、予定は任せるわ」
「かしこまりました」
基本的に私に個人的な予定という物は無い。これが結婚して子供がいて……となっていれば、そっち方面の予定が入ったりするのだろうけど、今のところは何も無いから、予定はお仕事で埋まっていく。その予定の調整をするのが執事のセインさんを筆頭とした方達の仕事。私がアレコレ口を出してはいけない範囲、だそうです。
「お帰りなさいませ」
「うん、ただいま」
家に着くとすぐに自室に向かい、着替え。そして執務室へ向かう。
「それでは城とオルステッド家に連絡をして参ります」
「よろしくね」
セインさんが出て行き、次はタチアナ?
「エルンスさんがお話があるとのことですが」
「出向いた方がいい?」
「おそらくは」
「じゃ、行きましょうか」
工房に入ると何やらトンカンやっていた……けど、すぐにこちらに気づいて手を止めた……いいのかな?
「わざわざ来てくれたのか」
「ええ、まあ。えーと、手を止めても大丈夫なのですか?」
「ん?ああ、大丈夫だ」
「ならいいけど。用件を聞きましょうか」
「二つだな。まずはこれ、油を絞る奴だ」
「ふむ」
ゴンとテーブルに置かれたそれは、この前見たのよりもちょっとゴツくなっていた。
「あと少しで残りの部品が仕上がる。そうしたら試しに使ってみて……という感じだな」
「なるほど。いつになりそう?」
「明日の朝には」
「もしかして……徹夜?」
「まさか」
夕方くらいから作業して、一晩かけて自然に冷えるのを待つんだそうです。詳しいことはわからないけど、その辺は専門家に任せましょう。




