11-9
入ってきたのは五十代くらいの男性に、二十代前半らしい男女二人。全員がそれっぽい格好に身を包んでいるので教会関係者、それも先頭にいる男性は結構良い身分だろう。
「えーと……どちら様でしょうか?」
「フン、やはりな」
「え?」
「神託を授かったなど、嘘偽りを言うだけのことはある」
「はあ?」
どゆこと?
「この私のことを知らんのが何よりの証拠!」
「そう言われましても」
初対面だし……あ、もしかしてすごく有名な方?さて、どうしよう。
「小娘!」
「はい?」
「貴様が神の名を騙り、我が国の貴重な財産であるダンジョンを潰し、さらに護ってやったのは自分だと甘言を弄したことは明白!おい!コイツを引っ捕らえろ!」
「えと……」
「その……」
後ろの二人、一応ロープとか持ってるけど困ってますね。多分、連絡を受けてすっ飛んできたんでしょうけど、私が予想を上回るレベルで小さい小娘の上、変な仮面をつけていて怪しさ満点。そのくせ、村人を始め、ハンターギルドの職員にベテランも含めたハンターと仲良く食事なんてしているというギャップに悩んでいるのでしょう。と言うことにしておきたい。他の可能性?怖い想像はしませんよ。
「その……えっとですね」
「何だ?!」
ブライルさんがさすがに見かねたというか、ちゃんとフォローするべき人がフォローすべきだよねと一歩出る。
「少なくとも、彼女の言葉に嘘は感じられません。ダンジョンの中に今までに見たこともなかったような魔物が溢れていたのは事実。そのせいで命を落としたハンターもおります。オマケに通常ならあり得ないことですが、ダンジョンから魔物が出ようとしていました。それを全て解決したのが彼女です」
「フン、どうだかな!」
「と申しますと?」
「その小娘がダンジョンの中でモンスターを呼び出す、悪魔の所業をしていないと誰が言える?」
「そ、それは……」
そんな方法があるなら、その方法を説明してみろ、という理屈が出てきましたよ。
「それに!その小娘がダンジョンの中で魔物を倒した?なら聞くが、その小娘はいつダンジョンに入ったのだ?」
「そ、それは……」
痛いところを突かれた。敢えて触れないようにしていたけど、私がダンジョンに入ったのは……まあ、何というか褒められた方法ではないからね。そして、ブライルさんが「どうしましょうか?」という視線をこちらに向けている。うーん、そこは何とか切り抜けて欲しかったんだけど仕方ない。
「そうですね。ダンジョンに入る手順を無視していたことは事実ですが、こうやって入りましたというのをお見せします」
時間感覚操作百倍。
暴風を巻き起こさないように気をつけてそっと部屋を出て解除して、ドアノックして入り直す。
「こんな感じです」
「「「「え……」」」」
元の位置へスタスタと進み、フォークでお芋をふかしたヤツを一つ口へ。モグモグ終えた頃に全員の硬直が解け始めたので続けようか。
「詳細はお話し出来ませんが、こう言う感じで入りました。ご迷惑をおかけして申し訳なかったと思いますが、なにぶん、言葉が通じないことが明らかな上、説明して理解いただける状況ではなかったための緊急的措置です。改めて、ご迷惑をおかけしたことをお詫び致します」
リリィさんに教わった、謝罪するときの礼の作法に従い、ハンターギルド職員さんたちに村長さん、そして固まったままの司教さんたちへ謝罪の意を伝える。
「一刻を争う事態だったことと、ラガレットからの伝達も為されているのですが、未だ調整がついていないようでして……まあ、間に合って良かったと思います、はい」
モグモグ……このお芋、赤いところよりも緑色のところの方が好きかも。見た目は毒々しさを感じる緑だけど、ホクホクです。赤いところはしっとり系でこれもこれで捨てがたい。ぶっちゃけ、このお芋の輸入のためだけにフェルナンド王国との間に道を一本引いてもいいと思う。絶対ダメだと言われそうだけど。
「しかし!それでもだ!その見たこともない魔物とやらをその小娘が手引きしていないとは言い切れんぞ!」
やってないことの証明とか言う悪魔の証明をしろと言われてもねえ。
うーん、どうしようか。
ぶっちゃけ、「そんなの知りませんよ」と放り出してさっさと帰ってもいいのだけれど、この人……悪意が無いのよ。見た目が結構悪人面だし、声も悪人っぽいし、言ってることも大概アレだけど、私のマップ上は敵意が無いどころか友好的と判断されている。
おそらく、この方は私が神託を受けてここに来たというのを全面的に信じているのだろう。だが、その一方でそれなりに責任のある立場故の考えもあるのだろう。
例えば、今回の騒ぎの犠牲者への哀悼に、ダンジョンが消えたことによる今後について。そして、万が一があったらどうなっていただろうかという不安に、これからもこういうことが起きるのかという不安。
そして、私が受けたような神託を自分たちが受けていなかったという……信仰心が揺らぎそうな悩み。
さてと、今までロクに使ったことの無い……鑑定スキル使用。へえ……人の名前もわかるんだねえ……っと感心している場合では無い。
「ベラウル司教」
「え?」
「それと後ろにいらっしゃるのは助祭のマーヴィさんとジャスリンさんですね」
「「え?」」
名乗っていないし、紹介もされていないのに名前だの役職だのがわかるというのは驚いたようね。
さあ、ここからは……どれだけ勢いで乗り切れるか、つまりハッタリをかまして煙に巻くのよ!
「私が受けた神託では、本日ここに誰が来るかまではわかりませんでしたが、近くの街の教会から人が来ることは示されていました」
ゆっくりと歩きながら指を立てて、指揮棒のようにして……諭すように。
「いやあ、大変だったんですよ。全員の顔と名前が並んで「誰が来るかはわからないけれど覚えておくように」って、会ったことも無い方の顔と名前を覚えろって言うんですから、結構神様って無茶ぶりが多いんですよ」
「ああ……」
「何と」
「我々のことを……」
よし。いい感じだ。
「神様からは……今回の事態に際し、直接行動を起こす私にしか神託をもたらせないことを申し訳ないとひと言伝えておいて欲しいとも。何でも神託って神様にとっても結構力を使うらしくて」
「そ、そうなんですか」
「ええ。ですから例えばベラウル司教に神託をもたらしたとしても、私の所にその内容が届くまでの間にダンジョンから魔物があふれ、魔王による侵攻が始まってしまうことを懸念して私に直接、と」
「し、しかし」
「ライアンさん」
「へ?俺?」
いきなり話を振って、流れを振り回していこう。
「あなたの目から見た感想でよいのですが、あのダンジョンにいた魔物を倒せるような力量の持ち主はリンガラにいるでしょうか?」
「う、うーん」
ライアンさんは少し首をひねってから答えた。
「俺が知る限り……騎士団の団長クラスでも一対一でやっと、だと思う」
「待て、ライアン」
「え?」
「騎士団の団長とか……そう言う国家戦力的な物は機密事項だぞ」
「あ」
ちょっとだけギルド職員さんが慌てているけど、気にせず続けよう。
「まあ、一対一でという条件があそこで成り立つかというと?」
「そうだな……あの数は……うん」
「既にお話ししたとおり、私はフェルナンド王国から来ています。まだラガレットと国交を始めたばかりの状況下で、ベラウル司教が私に情報を伝えることが出来たかというと」
「無理とは言いませんが、何ヶ月もかかったでしょうな」
私はその返答に満足げに頷いておく。
「神様からは皆様の信仰への感謝の言葉もいただいておりますよ」
「何と……」
「ああ……神よ」
よし、丸く収まった!
「あ、あの!」
「はい?」
「神様からは何と?」




