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「何をどうしたらそうなるんだ?」
「その……何だ……まあ、あまり深く追求しないで欲しい」
「そう……か」
どうやら何かをやらかした結果、右手首が切り落とされて、そのあと生えてきた。その結果、傷が消えていると言いたいらしいが、まあいいか。
「うーん、つまり……話せばわかる、か?」
「多分な」
ライアンが言うには、四層にいたライアンを抱えて五層の奥まで進み、そこにいた何だか訳のわからん連中を吹き飛ばした後、見たことも無い不思議な球体を破壊した結果、ダンジョンが崩れたと。
「ダンジョンコア、と言う奴か?」
「多分な。ちなみに場所はダンジョンの一番奥のさらに向こう側だ」
ダンジョンコアという存在は噂話というか、おとぎ話にはある。だが、実際に見たという話は聞いたことが無い。ここのように隅々まで確認されたダンジョンですら見つかっていなかったのだが、ライアンが言うには壁の向こう側にあったと言うことらしい。
そして、見た目は何とも表現しづらい物だったのだが、そこにあの少女が魔法を撃ち込んだ。どんな魔法なのかはわからないし、どういうわけかそのコアの中に撃ち込めたという。なかなか理解が追いつかないが、とりあえずそういうことにしておこうか。
で、その直後にダンジョンが崩れた。
少なくとも近隣諸国で共有された情報の中に、ダンジョンが崩れたという話は聞いたことが無い。もちろん、隠し通路的な意味で壁が崩れたというのはあるが、ダンジョン全体が崩れたというのは初耳だ。ダンジョンがどういう物なのかというのは、各国の魔導師たちを始めとする研究者たちがああでも無いこうでも無いと色々な説を唱えているが、さて今回ここで起こったことが知られたらどうなるだろうね。
そんなことをライアンに言ったら軽く返された。
「俺たちが百人集まっても出来ないことをあの子はやってるんだぞ。研究が進むとは思えん」
「なるほどな」
ダンジョンコアを探し出すのも、そこに何らかの影響を及ぼすのも、あの少女の足元にも及ばない次元では議論するだけ無駄か。
「ところで……俺の目がおかしいのかな?」
「え?」
「あの子……ものすごく眠そうなんだが」
「俺にもそう見える」
なんだか私の連れてきたおっちゃんが連れて行かれて色々事情聴取されてるみたいだけど……もう帰っていいかな?眠いんだよね。でも、帰る途中で寝落ちしたら、物理的に墜落するよね。どうしよう。と思っていたらゾロゾロとやって来た。
「@$%&*+#?」
「あはは……何言ってるか全然わからないんですけど」
こちらの言ってることも通じていないだろうと思いつつ答えてみたら、何か向こうの方でゴソゴソとやっていて、そちらの方を指さしている。あそこに行けと言うことなのかしら?とりあえず行ってみるか。
「テント?」
ハンターの誰かが出したのか、小さなテントが設営されていて、中に毛布が置かれていた。
で、ギルド職員らしい女性がどうぞ、と示している。
「中に入れと?」
コクコク。
「休んでいいと?」
コクコク。
ボディランゲージって奴ですね。
テントの中に入り、毛布を下に敷いて、もう一枚をかける。ちょっと汚れてるけど贅沢は言わない。村で暮らしていた頃に比べればはるかに綺麗だし。
ただ、何というか……一つ懸念というか何というか。ハンターってやっぱり男性比率が高くて、ここにいるのも男性が多め。そんな中で、女性陣が目を光らせているとは言え、そのまま寝るのは少し抵抗がある。
「そうか、こうすればいいのね」
思いついたことは即実行、と。
「おやすみなさい」
私がいくら図太い神経の持ち主でも、こんなところで熟睡とはならず、ウトウトする程度だったけど、この微睡み感がたまらん!と堪能していたら、テントの入り口で声が聞こえた。
「んにゅ?」
何を言っているかわからないけど、とりあえず返事っぽい声を出したら、恐る恐る入り口の布がめくられて……
「っきゃあああああああ!」
悲鳴って、どこの言葉でもだいたい似たような物ねと感心。まあ、驚くよね。入り口開けたらヴィジョンが無表情で立っていたら。
私が眠ったら何をやっても動かなかったらしいから、用心のために立たせておいたら予想以上の効果です。びっくりさせてごめんなさいね。
とりあえず起こそうとしたらしいと言うことは、通訳の方が来たのでしょう。ヴィジョンを戻し、服装を整えて外に出ると、ハンターギルドの職員が結構な歳の男性を伴ってやって来た。
「えーと……どうするのかな?」
ソフィーさんみたいに普通に会話すればいいのかしらと思ったら、男性が板を渡してきた。材質は……石?重さはほとんど無いけど……これがこの人のヴィジョン?男性も同じ物を持っているけど……
一体何をどうするのかと思っていたら、男性が何か話しかけてきて、同時に表面に文字が浮かんできた。
「えーと……この文字が読めますか?はい、読めます」
男性の方を見ると、頷いてすぐにまた何かを話すと文字が浮かんでくる。
「大丈夫そうですね。私が通訳をします。普通に話していただいて大丈夫です……わかりました」
まあ、ヴィジョンの効果ですから、どう言う仕組みかわかりませんけど、この男性の話す言葉が私に読める文字で表示される。私の話した言葉はもう一枚の板にあちらが理解出来る文字として浮かび上がる、と。
なるほどねぇ……表示される文字は私も習ったフェルナンド語……に時々日本語が混じる……どうやら私が単語の綴りをキチンと覚えていない部分は日本語になるらしい。ぱっと見だと片言英語が売りの芸人の台詞を読んでるみたいね。まあいいけど。
「早速だが質問をしていいかな?」
「はい。どうぞ……っと、ちょっとお待ちを」
話を始めようとしたそのとき、リリィさんからの手紙が飛んできた。
すぐに手紙を開いて中を確認する。
えーと……交渉は難航。基本的にこちらの話を信じてもらえない。状況次第だが、ダンジョンを破壊しても構わない。ええ……壊したあとに届いた手紙です。
えーと、続き。リンガラの偉い人と話せるようなら、以下の要点を話してくれ、か。
フェルナンドとラガレットの国交開始については公表して構わない。道が出来たことも公表していいが、通行には許可が要ることを強調しておくこと。道を作ったのが私であることは出来れば伏せておくように。
ふむふむ。偉い人……ハンターギルドの職員って、一応そこそこの社会的地位もあるはず。私から引き出した情報を上に通すのもやってくれるでしょう、多分。
それから……私についてはフェルナンド王国の貴族であることを伝えてもよい。神託を受けて行動していることも伝えてよい。信じないなら光れ。
光れという指示はいかがな物か……はあ。って、教会とかそういう施設がないんですけど、どうすれば?まあいいか。言葉が通じるならそう言う話をすれば。
で、続き、と。ダンジョン崩壊に伴うアレコレについてはラガレットへ話をつけてくれ。どうせ突っぱねるだけだが。突っぱねるなら話す必要ないのでは?と思う。
とりあえず返事を出しておきましょう。ダンジョンコアを破壊、ダンジョンは崩壊しました。えーと、ハンターギルドの方とちょうど話を始めるところです、連絡のあったとおりに話します、と。
「お待たせしました」
返事を送り出すと、待たせたことをひと言詫びてたら、ブライルと名乗ったハンターギルド職員さんによる質問攻め……というにはかなり穏やかな質問タイムが始まった。




