プロローグ
何となく書きためた物がそこそこの量になったので投稿開始します。
ふと気がつくと、手にしていたカゴが薬草でいっぱいになっていた。ちょっと夢中になっててこんなに集めてしまっていたかと、クスッと笑みを漏らしながら、今日の作業はここまでにしようと決めて立ち上がる。
いつもよりもちょっと多めに薬草が摘めたけど、ちょっと腰が痛い。まだそんな年じゃ無いはずなのに、ホントに体力が無いなあ。少し伸びをして腰をトントン、と。ちょっとはマシになったかな。帰りますか。
ここ数日、小雨と晴天が繰り返し続いていたから、ちょっと期待してたんだけど、期待通り薬草がよく育っていていつも以上の収穫に。空の恵みに感謝。村に教会とか無いから神様に感謝は出来ない……と言うか、教会があったら多分怒鳴り込んでるはず。
可能な限り武装して。
何となく拾った木の枝を指揮棒代わりに振りながら鼻歌――森のお化けと子供達の交流を描いた有名なアニメの歌――を歌いながら村までの道を歩く。ほぼ毎日繰り返してきた日常の風景。ちょっと大変な生活だけど、平和が一番。
でも、今日は少しだけ違っていた。
「これ、もしかして」
地面のそれを見た時、こっちに来たときのことを思い出した。そう、転生してきた時のことを。
前世の私がさてお迎えか、と目を閉じて、次に気づいた時、何だかよくわからない場所にいました。よくわからないというのは暗いでも明るいでも無く、何かが見えているようで見えていない、そんな不思議な感じの場所だったから。
「ここはどこ?」
ふとつぶやいたら、目の前に何だかもやもやしたものが現れてこう言いました。
「中村さん、あなたは死にました」
「……それはまあ、理解しています。あれで生きていたら不思議ですよね?」
「理解が早くて助かります」
いや、理解するでしょ。
だって私、中村由紀子は享年九十三歳。孫どころかひ孫まで抱っこしてからの大往生です。天寿全うした!って感じで、それほど苦しい思いもしない安らかな最期でした。子供たちは皆泣いてましたけど、年寄りから順番に逝くのはごく普通のことでしょう?
「ここは、あの世という場所ですか?」
何だか寂しい場所ですね。
「現世ではありませんが、あの世と言うには少し違います」
もやもやがすぐ近くに来ました。このもやもや、人の形にも見えますが、目鼻がありませんね……と思っていたらぼんやりと目と口が見えました。こちらの考えを読んだのでしょうか?
「あの……異世界転生とか、興味ありません?」
こう見えて私、同居している孫が読んでいたラノベを借りてちょっと夢中で読んでたりしてましたから、異世界転生という単語には聞き覚えがあります。簡単に言ってしまうと、おとぎ話の世界へ行く、といった感じですよね?
「興味のあるなしで言えばありますけど、唐突ですね」
「少し切羽詰まってまして」
「それに、そう言うのって、もっと若い子とかを送るのではありませんか?」
トラックにはねられるのが定番ですね。トラックの運転手さんも災難ですけど。
「そこは何とも言い訳のしようも無い事情がありまして」
「聞かせてもらっても?」
「ええ……まず私ですが、あなたのいた世界とは違う、これから行って欲しい異世界の神です」
やっぱり神様か。
「で、私の管理している世界に、他の世界の住人が攻め込もうとしてまして」
「いきなり大変ですね」
「さすがにマズいので、向こうの世界の神に抗議したんですが、現世……神の管理する世界で起こっていることには干渉しないのがルール、とスルーされました」
「あらま」
「私、神としてはあまり強くないので、そう言われてしまうとどうにも出来ないんですよね」
「あの、ほかの世界から攻め込まれるって、どんな風になるんですか?」
「簡単に言うと、世界と世界を、なんて言うかこう、繋いでしまうんです。そしてその繋いだところが、ダンジョン、とか呼ばれるような場所になるんです」
「ダンジョン?」
「ええ。そして、そのダンジョンからゾロゾロとやってきて私の世界の人々を襲い、蹂躙しようと、着々と準備を進めているんですよね」
この神様の世界のダンジョンって、そういうものなんですねと思ったら、全部がそうでは無いと教えてくれた。と言うか、別の世界に繋がっているダンジョンの方が少数派だと。でも、別の世界に繋がっているダンジョンは、住んでいる人たちにとってはとても危険なことに変わりは無い。
「ここでは無い、現世で起こっていることには干渉できないというのが神の間のルールですから、私が直接出向いて穴を塞いだりということはできないんです。でも、私の世界の住人たちには穴を塞ぐような力はありませんから、このままではいずれ完全に支配されてしまいます」
「支配されてしまったらどうなるんですか?」
「私が神として存在できなくなります。つまり、神の死、ですね」
「それって、世界が終わってしまうのでは?」
「ご明察、その通りです」
結構深刻な事態が起きていました。
「さて、今いるこの場所ですが、神々の住まう世界という……言ってみれば、世界の外側になります。どんな世界の生き物も、死ねば魂がここを通ってあの世へ行き、生まれるときには魂がここを通ってそれぞれの世界に行きます」
「……魂の通り道ということですか?」
「そうですね。と言っても、ここは私の住居ですから、魂がホイホイ通ることはありません。ちゃんと決められた場所を通っていきます」
閻魔大王とかそういうところの前を通るのでしょうか。
「で、この通過する魂ですが、時々そこらを歩いている神と接触してしまうんです。どっちも避けるとか道を譲るとかしませんからね。そうして神と接触してしまった魂が現世に降りると、いわゆる異能とか持ったりして、神の子とか呼ばれるようになります」
「それって問題ないんですか?」
「基本的には。だって事故みたいなものですからね。あなたの世界、地球の感覚で言うと数万年に二、三人、どこかの世界に生まれる程度です」
「あ、もしかして攻め込もうとしている世界の住人って」
「そうなんです。神の力を得て、世界の壁に穴を開けられるというとんでもない能力を持ってしまったんです。だからどうにかしてくれと頼んだのですが、ルールはルールと」
「ということは、私をここに呼んだのって?」
「ええ。他の世界で死んだ魂を捕まえて力を与えてから送り込もうかな、なんて思いましてね。他の世界の魂なら、『私の世界には干渉してません』し、力を与えるのも世界の外側でやっているなら問題なし。そして魂を送り込むのは神の仕事ですからね。ルールの穴です」
「結構黒に近いグレーでは無くて?」
「バレなきゃ良いんですよ」
そういうものなのかしら。
「そんなわけで、あなたには私の管理する世界に行って、他の世界から攻め込んでくる連中、まあぶっちゃけ魔族とか魔王とか呼ばれてる、そういうのを倒して欲しいんです」
「魔王って……」
「お願いします。神助けだと思って」
今何と?
「でも、私なんかに出来ますかねえ?」
「大丈夫ですよ」
そう言って大丈夫だという根拠を述べていった。
まず、私が転生するのは子供。与える予定の力は非常に強く、魔王に対抗するには充分なハズとのこと。だが、いきなり使えるようにするとどんな頑強な人間でも体にかかる負担が大きすぎるので、少しずつなじませて、成人する頃に力を発揮できるように調整して、魔王に対抗できるようにするという。どんな力なのかは少しずつ理解できるらしいし、困ったら教会で祈ってくれれば連絡できるようにする。その間、世界について知識を蓄えたり、仲間を募るのも良いだろうと。
「仲間ですか」
「必要だと思いますよ。何しろ相手は一国の軍隊全部が攻め込んでくる感じですからね。例えばあなたが魔王と一騎打ちをしたとします。あなたに与える力は強大ですが、魔王だって死にたくはないでしょうからそれなりに抵抗するはず。戦いが一瞬で終わるなんて事は無いでしょう。そして魔王を相手に戦っている間も、手下はどんどん攻めてきます。戦いが終わるまでの間、持ちこたえるためにも仲間は必要でしょう」
「なるほど……でも、仲間と言っても、普通の人ですよね?」
「そこなんです」
「え?」
「これから行ってもらう世界は、私が創ったときにちょっといろいろやってしまいまして、個人レベルでは結構強くて、魔王の配下の足止めくらいはなんとか出来る人がいますよ。ただまあ、いろいろとバランスが難しくて、イマイチ文明とかの発展が遅いのが欠点です」
「未開の地?」
「そこまでひどくはないですが、ほら、必要は発明の母と言うでしょう?」
「ええ」
「個人の持つ力が結構高いレベルになってたりするので、生活を便利にしようという発想があまり生まれなくて、なんとなく文明が発展しなくなっちゃったんです。そこであなたを送り込んで、いろいろと引っかき回してもらおうかなと」
「引っかき回す?」
「平均レベルが低いのをこう、グイッと底上げして欲しいなと。簡潔に言うと、やらかしてください」
「やらかす?」
「そうです。日本では普通に身の回りにある便利なものがないんですが、『こう言うのがあるとみんな便利になるよ』というのを見せれば、一気に広まるはずです」
「それが刺激になって文明の発展、あわよくば仲間を集めて強くなってみようといった感じ?」
「ご名答」
「私なんかにできるかしら?」
「できますよ。人生経験、豊富でしょう?」
「それはまあ、否定しませんけど」
「もちろん、最初はいろいろ苦労すると思いますけど、その辺は色々と力を与えますので、どうにかなるんじゃないかな、と」
「うーん」
よくある異世界転生ということなんだろうけど、うーん。
「ちなみに、剣と魔法の世界、王様とか貴族もいます」
「行きます」
即決しちゃいました。だって、本物の王様とかお姫様とか見てみたいじゃない?楽しみね。年甲斐も無くちょっとワクワクしてきちゃった。
「あら、でも異世界に転生って、誰になるのかしら?」
「ちょうど病気で亡くなった子供がいるのでそこに。もちろん病気は治しますよ」
病気かぁ……ちょっと複雑な感じですね。親御さんのことを考えると少し胸が痛みます。
「年齢は五歳。両親や親しい人の顔と名前などのちょっとしたことは記憶に入れるようにします」
そのくらいの年齢なら、『どうして○○なの?』と聞きまくっても不審に思われないからちょうどいいのかもしれませんね。
「それと、成人するまでが心配ですからね。病気なんかで死にそうになったら回復する、と言う程度の力は与えておきます。でも、風邪とか普通に引くので気をつけてください。あとケガも」
健康第一ね。
こうして私は転生することになり、スーッと意識が遠のいていきました。
二話目、十八時で予約設定します。
一週間の間、毎日投稿予約入れます。
そのあとは私の他作品同様、週一ペースになります。