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納得いかない境遇  (原文)

予定としては……、


第一回 「餓鬼ども!」第一話の「納得いかない境遇」 (原文)

第二回  英語っぽい日本語にした「納得いかない境遇」

第三回  対訳「納得いかない境遇」その1

第四回  対訳「納得いかない境遇」その2

第五回  対訳「納得いかない境遇」その3

第六回  完全英訳版「GAKIDOMO!」Episode

  と、いうふうに進めようと思っています。

 「餓鬼ども!」第一話  納得できない境遇 


 たこ焼き、フランクフルト、りんごアメ、イカの姿焼き、ベビーカステラ。

初詣客で賑わうお寺の境内には、美味しそうな屋台があふれていた。

 そんな中……。

「お腹すいたよー」と、ナツミが声を上げた。

「ほんまや。それにえらい寒いわ!」震えながら言ったのはスグルだった。

 それもそのはず、俺達はもう4日間も食事にありついておらず、しかも裸だった。

 と、側でたこ焼きを食べていた小さな女の子が、つまようじの先からひとつ落とした。

「あ、私もーらい!」

 ナツミがスグルを押しのけて、落ちたタコ焼きを拾い上げたその瞬間……

 なんとたこ焼きは炎に包まれてしまったのだ。

 これにはナツミだけでなく、落とした女の子も目を丸くして驚いた。

「なんでよー」

 ナツミが地団太を踏んで悔しがった。

「だってしょーがないしょ。あんた達、餓鬼がきだから賞味期限切れしか食べられないしー」

 見えないはずの俺達に声をかけたのは誰かとふり返ると、そこにガングロ天女が立っていた。

 彼女はこの地区担当で、赴任したばかりの天女だった。

「わ、天女様!」俺は思わずナツミとスグルの頭を押さえて下げさせた。

「痛ててて、なんでこんなやつにお辞儀なんかすんね……ププププ」

 文句を言ったスグルの口が無くなっていた。

「キャー!」ナツミが悲鳴を上げた。

「なんか、私ら天女の悪口言うと口が無くなるとか聞いたしー。でもすぐに戻るけどね」

「それを早よ言え、このアホ天ヒョ、ウプププ」

 再びスグルの口が消えた。

「で、今日は天女様、いったいなんでここに?」

 俺はつとめて冷静にガングロ天女に聞いた。

「あ、なんかね、あんたらに名前を付けるように言われたんよー。人の名前じゃおかしいからって」

「いいよ、あたしナツミで!」

「なんかそうもいかないんだってー。だからあんたピッピね。こっちの人はペロタン。で、このすぐ怒る人はプンプン」

「ピ、ピッピって、あんたどんな感性してんの? こう見えてもあたしは昔、アイドルだったのひョプププ……」

 ナツミ改めピッピの口が消えた。

「かわいそうとは思うけどー。これ抽選だし……」

 そう言いながら、ガングロ天女がマズっとばかりに口をふさいだ。

「ええーっと、抽選とおっしゃいますと?」

 俺は再び、つとめて冷静にガングロ天女に聞いた。

「ま、いいか……。つまりーあんた達、死んだ時―、クジ引かされたっしょ。何色だった?」

「茶色……」

 口が元通りになったピッピが答えた。

 見ると彼女の額にはなにやら梵字が浮かび上がっている。

 おそらくここにピッピと書いてあるのだろう。

「やっぱりね。それが餓鬼の当たりクジだったんよ。約500分の1の確率ね。餓鬼は9千人だから。ちなみに私はピンクだったしー、こっちはなんと10000分の1の確率―ゥ」

「えーっと、とおっしゃいますと、我々が餓鬼なのも、あなた様が天女なのもクジだったと?」

「だってー、大天女様が言うにはー、日本人なんて誰でも似たようなもんでー、みんな飽食してるし、それなりに良い人達ばかりだから、簡単に決められないんだってー。だから抽選にしたらしいよ」

 腹ペコの俺達の血圧が上がった。

「すると、俺達はそんなことで餓鬼やらされてると……?」

「そ、なんでも昔の偉いお坊さんが決めたシステムだから、それを維持する為なんだってー」

 天女はどこからもらってきたのか、綿アメをなめながら言った。

 ついに俺達の血管が切れた。

「どこのくそ坊主だ! こんなバカな事を思いついたのは! 俺も坊主だったが、ヴィナヤ・ピタカ(初期経典で戒律の書)にもそんなこと書いてなかったぞ」

「食べられないし、裸だし、なのにあんただけ良い着物着て。納得できなプププ……」

「しかも俺らの前で、もの食べんなプププ……」

 俺達全員の口が同時に無くなった。

「と、とにかく私は役目、はたしたしー」

俺達の剣幕に、ガングロ天女はたまらず退散した。


「やってられへんのー、ペロタン」と、元・スグルのプンプンが言った。

「えーん、餓鬼やだよー」と、これはピッピ。

だが、俺はその時、別の事を考えていた。

「なあ、やつは餓鬼が500分の1の確率で9千人だって言ってたよな」

「それがどないしてん。運の悪いやつが仰山ぎょうさんおるだけやろ!」

「いや、そうじゃなくて、おまえ日本人の死者が年間何人だか知ってるか?」

「さあ、150万人位やないか……(正確には2009年度は114万人、今後は166万人まで上がる)」

「だとしたら500分の1だと3千人だよな。つまり餓鬼の任期は3年ってことじゃないか? ということは俺はあと、2年と3カ月ってことになる」

「そういうたら前におったやつもおらんようになったな。それやったら俺もあと2年半や!」

「ヒーン、私なんか2年9カ月もあるよー」

 とはいえ、なんとなく希望が見えてきた俺達は、

 あのすっとぼけたガングロ天女にちょっとだけ感謝した。


      (おしまい)


この小説は、2012年に単行本化した「餓鬼ども!」の第一話部分です。

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