きゅう
「ダンジョンでのドロップ品はこちらで受け取ります。どうぞ」
ディーツィア王国内にあるダンジョンに潜ってきた帰り。
ダンジョンの出入り口横にあるディーツィア王国プラピヤーギルドダンジョン前出張所に立ち寄る。
ここに立ち寄っておかなければこの国が難癖を付けて冒険者を犯罪者に仕立て上げるのだ。
その後は奴隷へと堕とし、楽しむための道具とする。
「こちらで全てですか?」
カウンターの上に担いでいた袋から取り出したドロップ品を全て出して、私はギルド職員に向けて一つ頷く。
「では、合計金額は5600Gとなります。冒険者プレートを出して下さい」
ギルド職員に言われたとおりに首から下げている二枚のタグを外し、カウンターの上に置いた。
タグを受け取った職員はそれをカウンター内にある紫の線が走っている板の上にかざす。
板の上に小さく淡い紫色の光が現れ、その光がタグに吸い込まれて消えていった。
「入金いたしました。こちらは返します」
職員がカウンターの上に置いたタグを、私は手を伸ばして受け取りタグに触れる。
タグに表示される数字を見てちゃんと入金されていることを確認した私は紐を首にかけた。
「次の方どうぞ」
カウンターの前から立ち去ると私は宿に向けて歩いていく。
同じように冒険者達が皆黙って一方向に歩を進める。
これが他の国ならばねぎらいの声や次の日こそは!と仲間を奮い立たせる声、今日は何階層まで行った!と仲間と成果を報告する声、ダンジョンに挑んで夢破れどこかで仲間と喧嘩している冒険者などがいて騒がしいはずだが、この国のダンジョンの周りには騒ぐ者も必要以上に話す者もいない。
他の国であればギルドが冒険者を守るが、この国ではギルドの力がほぼ皆無に等しい。
体裁が悪いためこの国はその事実を否定しているが、冒険者や他の国のヒトには周知の事実である。
何故ギルドの力がほぼ皆無なのか。
神級ダンジョンが出来たときに色々とあったらしいことは伝わってはいる、が詳しい内容は一部のヒトを除いて知る者はいない。
その内容は私も詳しくは知らないので置いておくとして、この国で冒険者をしていて困るのは活動資金の調達だ。
どこの国でもいい、国が背後についている冒険者ならばディーツィア王国でも一応国賓扱いされ支援を受けることが出来るがその他の冒険者はそのようなものは受けることが出来ない。
必然的にこの国にあるダンジョンに潜りドロップ品を換金しなくてはならず、換金される額が他の国のギルドと違う。
例えば、ダンジョン内でドロップするゴブリンの魔石が一つあるとする。
他の国では一つ500Gで引き取ってくれるのに対して、この国では250Gと半分の金額になる。
残りの半分はどこに行っているのか。
ディーツィア王国に税金として納めさせられている。
(どこをどう考えてもこの国はダメだ。いつまでもこんな所に神子様を置いてはおけない。早くしなくては)
宿まであと半分の距離まで歩いたところで風の上級精霊達が私の元まで飛んできた。
『ねぇ、蒼の目のヒト』
『コレを愛し子のところにもっていって!』
『わたしたちも愛し子に会いたい!はやく!!』
慌てて周りを確認すれば夕刻だというのにヒトの気配はなく、私一人だけのようだ。
精霊達に向かって手を差し出せば、少し濁ってはいるが透明なキラキラと輝く花弁が数枚置かれた。
(これは……北の大国のみが栽培している花の花弁……。分かりました。神子様の元へと参ります)
『人除けはまかせて!愛し子のためならやる!!』
『はやくっ!はやくっ!はやくしないとお前の髪ぐちゃぐちゃにしてやるからな~!』
『さぁ~いくよ~!!』
風の精霊達が私の手を持って宙を舞う。
引っ張られて私も空を駆けるように飛んでいく。
(いつになっても……空を飛ぶのは苦手だ……。)
足元に地面が無い事に不安になる心を無視しながら連れられる。
遠い目をしていたら神子様が閉じ込められている屋敷に到着した。
場所を確認するために辺りを見渡していると、種を発芽させた塀の近くであることがわかった。
(良かった。ここからならば中に干渉できる。神子様は今……。)
種に魔力を通し地面に私の魔力を浸透させ、この屋敷にある植物を支配下に置く。
神子様がどこにいるのか植物を通して視て位置を探った。
位置はすぐに分かったが、傍にはこの屋敷の人間が二人いる。
屋敷の人間は真っ赤に焼けている石を神子様に近づけているところだ。
私は急いで視ているものを映像として残すため鞄から緑の板状のクリスタルを取り出し、映像を記録し始めた。
もちろん声付きで、だ。
「ワタクシからの施しよ嬉しいでしょう?汚く醜いデトリチュス」
人間の少女は歌うように気持ちの悪い声でのたまう。
「さぁ!早く食べなさい!!」
この屋敷の奴隷だろう人間が神子様の顎を持ち口を大きく開かせた。
少女は魔法で浮かせている真っ赤な石を無理やり神子様の口に入れる。
「――――――――――!!!」
奴隷らしき男が神子様を離したことで神子様は地面に倒れ、口から真っ赤な石を吐き出した。
「ねぇ!お味はどぉう?卑しいんですもの!さぞ美味しかったでしょう?もっとあるわよ!!」
少女はキャハハハハッと楽しそうに笑いながら魔法を使うための補助杖を振るう。
そこら辺に落ちていた石を5~6個浮かすと、全ての石を火魔法で真っ赤になるまで熱する。
「ワタクシったら本当に優しい子だわ!!」
無邪気な態度で少女は真っ赤に焼けた石を神子様の上に落した。
神子様が声にならない悲鳴をあげる。
その様子を物凄く楽しそうに見ている少女。
「さて、ヴィルトゥ。お父様の所に戻りますわよ。今日あった楽しい事を報告しなくちゃ!!」
少女は男の奴隷を連れて走って行った。
映像記録を止めた私は怒りに震えながら、手に持っている透明な花弁を壊さないよう小さなヒビが入っている結界の隙間に押し込む。
『私達の愛し子……!!早く連れ出してよぅ……!!』
『ぼくたちは外から見る事しかできない……!』
風の精霊達が顔を覆って嘆いている。
なんとか結界の内側に透明な花弁を入れた私は、その花弁を神子様の元へと持っていってくれるように中にいる上級精霊達にお願いする。
(これを……お願いできますか?)
『任せて!』
勢いよく頷いた精霊は透明な花弁を神子様の元へ持っていく。
口の中に入れようとするが神子様は両手で口を押さえて藻掻き苦しんでいて入れることが出来ない。
『愛し子お願い……!これ食べて……!!』
泣きそうな精霊が再度、神子様の口元に花弁を持っていく。
神子様が気絶したのか両手が退き花弁を入れることが出来た。
効果の程は分からないが、神子様の胸元が微かに上下するのを確認した私は映像記録用の青くなったクリスタルを握りしめる。
(……この国は腐っている。民も、思想も、上も、全て)