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ディーツィア王国の首都、アルバラズ。
中が見えないほどの大きな城壁に、いつ開いているのか見たことがない大きな門扉。
隣には行商や冒険者等の外から入ってくるヒト専用の門扉が開いており、首都に入るためのヒト達が作った長い行列が出来ている。
門扉を挟んだ場所にも扉があるがそこはこの王都の民、人間専用の通り抜けるための扉だ。
私達馬車に乗っていた冒険者は皆降りて行列に並んでいる。
どのくらいの時間がかかったのか分からないが目の前に門兵が立っているのが見え、次は私達の番となった。
私達冒険者は皆一様に口を開く事無く無言で冒険者プレートを見せると門を通る。
門をくぐった先はこの国の人間達が侮蔑と蔑んだ目で冒険者達を見て隣の人間達と囁きあう。
「見て。今日も冒険者が沢山来てるよ!」
嫌悪感を露わにする子供の声。
「ねぇ!美しいわあのプリーモ!早く堕ちないかしら!」
どこか腐った声を思わせるような女の声。
「早く死んでくれよ?今回の冒険者共」
迷惑そうに願いを口にする男。
「この神聖な地に毎日飼われていないデトリチュス共が来るなんて、虫唾が走る」
街を巡回しているのであろう衛兵。
(どれだけこの国の民達は自らが優れていると過信しているのか.......。)
ギリリッと歯を噛み締める音が隣から聞こえた。
顔を動かさずに視線のみを向ければ隣を歩いている猫獣人のシーフが今にも飛び出してしまいそうな程気配を薄くしている。
目の前で冒険者が捕まり奴隷紋を押される所は見たくない。
(この冒険者はこの国に来るのは初めてなのか.......?仕方ない)
ダウン。と隣にいる猫獣人にのみ聞こえるように囁く。
ハッとした表情の猫獣人は私に視線を合わせゆっくりと瞼を閉じる。
(通じたようで良かった)
ダウン
この言葉は外国に活動拠点があり信用が置かれている冒険者のみが知っている略称、のような物。
この国の人間達は知らない。
上も知らないだろう。
知らせる必要性もない。
冒険者達が周りの出店に目もくれずに冒険者ギルドへと歩いていく姿は異様だろう。
冒険者ギルドに着いた私達は黙ってギルドカウンターに並ぶ。
他国では見られない異様な光景だ。
奴隷制度が未だに残りヒトを蔑む国民達。ここまで酷い国が何故存続しているのか。
それは必要だからだ。
世界には幾つものダンジョンと呼ばれる未知の領域がある。
ダンジョンにはランク付けがされていて、下から順に下位ダンジョン、中級ダンジョン、上級ダンジョン、そして誰も踏破したことの無い神級ダンジョンがある。
そしてダンジョンは時に内の魔物達を外に溢れ出させる。
下位で町が一つ無くなり、中級で街が一つ壊滅、上級では国の中の領土一つが死の土地と化す。
この国にあるダンジョンは誰も踏破したことの無いと言われる神級ダンジョン。
そのダンジョンから魔物が溢れたらどうなるか.......。
ディーツィア王国は周りを列強4国に囲まれている。
4国の重鎮達は即座に答えを出した。
大規模魔法を構築している間、魔物達はディーツィア王国に対処してもらおう、と。
魔物達は何かを食べている間は進軍を止め、その場に留まる。
その間に王国全体を包む結界を発動させ魔物を封じ込める。勿論、それは中にいるヒトも例外ではなく閉じ込められる。
その為の布石となる結界石はディーツィア王国に知られることなく配置されている。
要するに、ディーツィア王国とその国民達はダンジョンから魔物が溢れてきた際に肉壁としての役割がある、と言う事だ。
冒険者達に関しては、とある合図があると逃げるように言われているらしい。
「お次の方こちらへ」
カウンターに3人並んでいる内の1人のギルド職員が声をかけてきた。
私はその職員の元へと歩いていき首に下げていた2枚の冒険者プレートを外し渡す。
職員は冒険者プレートを専用の魔具の上に翳して一つ頷いた。
「ようこそアルバラズへ。良きダンジョン生活を」
固い口調のギルド職員が冒険者プレートを渡してきたので受け取り、元のように首に掛ける。
今日の宿はギルドの用意した宿舎だ。
この国に人間以外の種族が普通に泊まれる宿屋など存在しない。
外に出た私は、首にかけている冒険者プレートに魔力を通し、宿舎までの簡単な地図を浮かび上がらせる。
道のりを覚えた後は簡易地図を消し歩き始めた。
今回泊まる所は貴族街にほど近い場所。
かなり大きな建物の入口近くにある丸い石に冒険者プレートを翳す。
ガチャリと開いた建物の扉をくぐり宿泊部屋へと向かった。
密命の為に今回この場所に泊まらせてもらえる様になっている。
ある一定の冒険者でなくては泊まれない場所だ。
部屋に入った私は魔法を使い部屋を調べ、盗聴等の魔法の痕跡が何も無い事に安堵し鎧を脱いだ。
(早くせねば.......。だが急いではバレてしまうだろう。ここは朝になるまで我慢せねば)
魔法鞄から取り出した干し肉と乾パンで簡単な食事を済ませベッドに横になり目を瞑った。