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さん


 

 

 

 

 空が白んできた。

 今日もまた生と死の瀬戸際の一日が始まる。

 夜明け前の気温が一番下がる時間帯、子供は寒さで目を覚ます。

 そしてまた、近くに生えている雑草を食べる。

 苦く美味しくない雑草を無理矢理飲み込む。

 少しでもお腹の中に入れておかないとその日が辛いために子供は必死に雑草を食べる。


 カチャカチャという音が柵の外から聞こえてきて、雑草を食べる手が止まった。

 子供は身を縮こませながら茂みの中から柵の外を注意深く見る。

 見ていると細い剣を腰にぶら下げたヒトが歩いてくるのが見えた。


 お願い、見つかりませんように.......。


 見つかれば屋敷の住人に折檻を受ける。

 痛いのは嫌だからヒトが早く立ち去るのを祈っていたのに、無情にも立ち止まった。

 息を止め目を閉じる。自分はいない、自分はいないと心の中で呪文のように繰り返す。

 音が無くなった。

 そっと息を吐き、恐る恐る目を開ける。


 「っ!!」


 息を呑む。

 ヒトはいなくなっていなかった。

 しゃがんで、自分と同じ目線になってこちらを見ている。


 あ、ぁ、見つかった.......見つかってしまった。

 また、いたい事をされてしまう.......早く、早くこの場から逃げなきゃ……!


 「何もしないから、待って。逃げないで」


 優しく、そっと言われたが、もし外のヒトに会ったことが屋敷の住人にバレたら折檻を受けるのは決定事項だ。

 

 こわい、こわいこわいこわいこわいっ

 

 怖くて、怖くて、子供はその場から逃げた。

 この屋敷の敷地内にいる限り子供にはどこにも逃げ場は無い事は分かっている。

 それでも子供はフラフラと、足元が覚束無い足取りで必死に走る。

 (はた)から見れば子供はただフラフラと歩いているようにしかみえないが、子供にとっては走っているのだ。

 

 「っ!」

 

 がむしゃらに走っていると足をもつれさせてしまい子供は前方へと転がった。

 顔面から土に突っ込む形で転んだ。

 子供に怪我は無かったものの顔面と服と言っていいか分からないずた袋は土だらけになってしまった。

 起き上がると土と一緒に植えられたばかりであろう若い苗がぐちゃぐちゃになっている。

 どうやら転んでしまった場所は花壇だったようだ。

 子供はただでさえ血色の良くない顔を更に悪くして身を震わす。

 

 たいへんだっ.......。早く直さないと.......!

 来る前に早くっ.......!早くっ.......!

 

 この後自分の身に降り掛かる事を回避しようと子供は懸命に土まみれになってしまいボロボロの苗を震える手で整えようと頑張る。

 ザクっと子供の後ろの草を踏みしめる音がして子供は身を固くする。

 影が子供に覆い被さるように近付いてきた。

 子供は恐怖に身がすくんで動くことが出来ない。

 影が何かを振り上げる仕草をした事で漸く、子供は身体を動かすとその場から逃げようと身をひねる。

 

 瞬間、子供の背中に衝撃が走る。

 

 「あ"ぁ"ぁ"ぁ"っ.......!!」

 

 衝撃を受けた背中は熱い熱を持ち始めズクンズクンと脈打つように身体中に痛みを伝える。

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい勝手に触ってごめんなさい勝手に転んでごめんなさいっ.......!

 

 子供は痛みに身を丸め目をキツく閉じる。

 

 「ゴミ風情がっ!御館様に捧げる為の大事な大事な苗を駄目にしおってっ!!こうしてくれるっ!!」

 

 老人の声が聞こえ、子供の傷付いた背中を抉るかのようにその老人は足蹴にする。

 何度も何度も血が流れている子供の背中を蹴る老人。

 

 「.......ふんっ。次やったら苗床にしてやるからな。はぁー.......全く、ゴミの血が付いたせいで折角の靴が穢れたではないか」

 

 老人は気がすんだのか子供の元から去っていった。

 背中が血塗れになってしまった子供は起き上がろうと身体を動かす。

 動かした瞬間に背中に激痛が走り、またも身体を丸くする。

 

 いたいよ.......。しんどいよ.......。誰も助けてくれない.......。いたい.......。背中があついよ.......。早く、ここから離れないと.......。

 

 ズクンズクンと痛みを訴えている背中の事を意識の外に追い出そうと子供は丸めていた身体を動かす。

 少しでも動かすと激痛が身体を駆け巡るがそれでも子供はひたすら我慢して痛みで震えている手を芝のような草の上につく。

 立ち上がれない為、四つん這いになった状態で子供は少しづつその場から離れていく。

 

 

 

 何度も意識が遠くなりかけ身体が倒れそうになりながら進む。

 辿り着いた先は暗い茂みの中、柵と下の方が崩れかけている塀の境目。

 

 ドサリ、とその場所に倒れた子供は意識を手放した。

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