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 寒い。


 寒くて子供は目を開けた。

 後頭部の傷は塞がったらしくもう痛みはない。

 ふるふると震えながら、ゆっくりと起き上がった子供はこれまたゆっくりと立ち上がる。

 辺りは真っ暗で静かだ。


 真っ暗だからお屋敷には入れないな。

 今夜は寝るところ外、だね。


 子供が歩きだそうとすると、クキュゥゥゥと腹の虫が鳴った。


 その前に何か食べないと。


 お腹を押さえ、寒さに震えながら子供はその場から離れていった。


 屋敷内の敷地には木々が植わり草が生い茂っている所がある。

 子供はその場所に行くとしゃがみ、一心不乱に草を食べはじめた。

 勿論、ここの草は薬草という訳ではなく、どこにでもある食べても栄養にもならず、美味しくも無い雑草だ。

 それでも子供は雑草を食べ続ける。


 はっ.......お腹、ちょっと落ち着いた..............。


 口元を拭った子供はさっきより、ほんの少しだけしっかりした足取りで次の場所に向かう。

 そこは、昼間は洗濯場として使われている所

 

 子供は壁に備え付けられている蛇口の上に付いている石を触る。

 するとチョロチョロと水が出てきた。

 それを手で受けると口を付けて飲み、満足したら頭を洗い始めた。

 こんな寒い夜中に何故水で髪を洗うのか。

 血で汚れたままでいては次の日の朝、酷い事が待っているからだ。

 洗い終わった子供はブルブルと頭を振って水気を飛ばそうとする。

 だが、乾くはずもなく疲れた子供はまた歩き始める。

 柵の近くの茂みに入った子供は身体を丸めて目を閉じる。


 やっと、今日も一日が終わった。

 寒いけど、疲れてるから眠れるかな。

 あぁ、しかし、いつになったらこんな生活終わるのかな。

 ..............生前の自分が羨ましい。

 あの世界にまた、戻りたい..............。


 そう、子供の魂は元々は別の世界にあった物だ。

 それがなんの因果かこの世界に来てしまい、生まれ落ちてしまった。

 それだけだったらまだいいだろう。

 人間の男と女の間に産まれた子供は、両親の色を受け継いでいないどころか種族まで違っていた。

 白金色の髪に光の加減では金に見える緑の瞳。

 白磁の様に白い肌。そして、横に長い尖った耳。

 エルフ、と呼ばれる種族の姿をして産まれてきたのだ。

 あと、産まれてきた家も悪かった。

 人間至上主義の大国の、古くから続く侯爵家。

 母親は産まれた自らの子を見た瞬間表情を歪めた。

 父親は、母親の不貞を疑い母子ともに切り殺そうとした。

 が、母親は子供を庇い死ぬ瞬間、父親に向かって魔法を使った。

 それは子供を殺させないようにするための魔法。

 もし、子供が屋敷を出たり殺せばこの家は終わりとなる魔法を掛けたのだ。

 その魔法に気付いた父親は子供を殺せなくなった事に舌打ちをした。

 すぐに子供を乳母に預け、父親は自分の頭の中から子供の存在を追い出した。

 乳母は初めの数年は世話をした。

 だが、徐々に世話をする回数が減っていき子供が5歳くらいになると完全に世話をしなくなった。

 子供はお腹が空くと屋敷の中をフラフラとさ迷い歩いた。

 

 ある日、風に乗ってとてもいい匂いがして子供はそちらへと歩いて行く。

 屋敷をいつの間にかに出てしまい花が咲き誇る場所に来てしまい、そこで久しぶりに自らの父親と会うことになる。

 父親-ー現侯爵家当主は子供が産まれて一年後に新しい妻を娶り、子をもうけていた。

 新しい妻の子は膝の上に乗せ、大層可愛がっていた。

 お茶会をしながら父親と継母と可愛がられている少女。

 そこへ姿を現してしまった子供を見た父親は嫌悪の表情を浮かべる。

 少女を膝の上から退けると立ち上がり杖を持って子供の元へ向かう。

 そして近くまで来ると杖を振りかぶり子供の横顔を強かに殴る。


 「屋敷に置いてやっている身でありながら私の家族に近付くとは身の程を知れ!!穢らわしい。おい!これをどこか敷地内の見えない所に捨ててこい!!」

 「はっ!!」


 周辺にいた一人の護衛が子供の腕を掴むとどこかへと引き攣っていった。


 「ねえお父様!あの子供はだぁれ?」

 「メアリが気にすることはないよ。アレはただのいらない物だから」


 無邪気な少女の問いに父親は声音を穏やかにしながら答える。

 それを聞いた少女は考えた。


 「いらない物って事は、私のオモチャにしてもいいのね!!」

 「何をしても良いけど、アレをこの屋敷から追い出すことと殺す事はしちゃダメだよ?」

 「うん!分かったわお父様!!」


 あぁ、なんと残酷な事だろうか。

 この親子の会話に誰も疑問を感じず、口を挟むことも無く普通にしている。

 これにより、子供の更に過酷な生活は始まった。

 父親は子供を見た瞬間雷魔法を落としたり、殴る蹴る等の折檻を繰り返す。

 継母は蛇蝎のごとく嫌う眼差しで睨みつけ、隠し持っていたナイフで子供の身体を傷付ける。

 少女は遊んであげると無邪気な笑顔で自らの魔法の実験台や毒を食べさせ、子供が転げ回るさまを楽しそうに見ていた。

 勿論子供は一度は屋敷の敷地の外へと逃げたがすぐ捕まってしまった。

 そして逃げだした罰として奴隷の首輪を付けられた。

 また屋敷を出ようと塀や柵に触れば、首輪から電流が流れ出し体中を駆け巡る術式が込められている。


 そんな生活が7年。

 子供は命令を聞く生きる屍と化していた。

 表情は無く金に見える緑の瞳も無機質なガラスのよう。

 身に纏う物は、穀物を入れていたボロ袋に頭と腕を出す穴を開けた物を、お腹の辺りで紐を括った、服とは言えない物を身に纏っている。

 そこから出た手足は異様なほど細い。

 エルフと言う種族を抜きにしても12歳になったと言うのにこの子供は小さい。5歳の時の身長のままである。

 仕方が無い。小さい頃から栄養状態が悪かったせいで成長が出来ていないのだから。



 

 

  

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