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じゅう




 夜の暗闇に紛れて誰にも見つからないように宿に帰ってきた。

 宿泊している部屋に行く途中、階段を上っていると小さな精霊が寄ってくる。


 『きをつけて~』


 精霊はそう言うと何処かへ行ってしまった。


 (神子様に危険が……?それとも、これは私への報せか?)


 顔や仕草にも出さずに考える。

 私が借りている部屋は二階の階段の(そば)近く。

 階段を上り廊下に足を付けた途端、違和感が履物の裏から足へと伝わってきた。


 (やはり今回も細工をされたか)


 私は借りている自分の部屋より離れたところで思案する。

 同じく階段を上がってきた小柄な冒険者も廊下に足が触れた瞬間異変に気付いたのだろう。

 小柄な冒険者も借りている部屋の前に立つとドアノブに伸ばした手がとある合図の形になる。

 それを横目で視認した私は首から下げている二枚ある冒険者プレートに指で触れ、心の中で『ロゥ』と唱えた。

 頭の片隅がどこかと繋がる感覚がする。

 その状態で私は借りている部屋に入っていった。


 『聞こえていますか』


 私が確認するように問いかける。


 『えぇ。ばっちし聞こえるっすよ~。コレ、この階全体に仕掛けられているっすね』


 若く少し幼さを残した男性の声、多分だがさっきの小柄な冒険者だろう。


 『上も仕掛けられているのか』


 低めのそれなりに歳がいっていそうな男性の声は一階のヒトか。


 『三階もあるですよ~』


 高めでのんびりとした女性の声。

 本人も言っている通り三階のヒトのようだ。


 『……。チッ』


 舌打ちした人物が誰なのかは分からないが、苛立っている事は分かる。

 

 『という事はこの宿全体に仕掛けられている。と考えて良さそうですね?』

 『そっすね~。ま~た随分と今回は大掛かりにやったすね。……そんなにエルフという種族が欲しいっすか』


 軽い感じの言葉が返って来る。

 後に付け足された言葉からは呆れと侮蔑の感情が籠っていた。


 『まぁ、エルフという種族は総じて顔だけは整っているからな』


 だけは、という言葉を強調している低い声のヒト。

 確かに、種族的に見てエルフという種族は見目麗しい者達ばかりだ。

 性格は別として、だが。


 『エルフの皆さんは~普段はこの国に来ないのに今回結構いますよね~。どうしたんです~?』


 のんびりと話す女性は疑問に思っていたであろうことを質問してきた。

 多分だが、他のエルフ達もそれぞれの里の長達から神子様を見つけ救い出してくるよう命を受けている可能性が高い。

 だがこの事を知らせていいのは一部の特別な者達のみ。

 

 『……。もしや特別な古木(エピィ・パーキゥ)、か?』


 さてどうしたものか。

 と考えていると低く暗く静かな声のヒトが確認するように聞いてきた。

 先程の時にはこの声のヒトは居なかった。

 という事は舌打ちしたヒト、もしくは新しく会話に入ってきたヒトか。

 

 『そうですね。私のギルドランクは特別な古木(エピィ・パーキゥ)となっております』


 自らのギルドランクは周りに言いふらす事でもないが、別段隠している訳でもない。

 伝えれば複数人の気配が揺らいだ。


 『……。そうか。お前も探しに来たのか。世界樹(シャイシル)を』

 『……探しに来た。という事は、あなたも?』

 『……あぁ。そうだ。俺のギルドランクも特別な古木(エピィ・パーキゥ)だ……。』


 



 * * * * * * * * * * *





 微かな月明かりに照らされた屋敷の敷地内。

 子供が細く、震える腕を支えに身体を起こす。

 起き上がった子供の影から4人の精霊が姿を現した。

 

 『アァ、ぼく達のいとし子。かわいそウに……。』


 赤い精霊が子供の頬に手を伸ばす。


 『きズがいっパい。いタイ、いたいイたい?』


 幼い緑の精霊はむき出しの細い脚に触れる。


 『ニンゲンにくい?にくイよね?にクいでシょう?』


 とても楽しそうに聞いているのは青い精霊。


 『ふくシュう、しちゃオーよ!』


 黄色い精霊は子供の片手に両手を重ねた。


 ここにいる精霊達に共通しているのは身体の半分以上が黒く染まっている。ということ。

 子供が4人の精霊を見ていると、精霊たちが子供の周りから離れる。

 周りを楽しそうにクルクルと舞っている精霊たち。

 子供の周りに紫色の輪が現れ、揺れ動く。

 舞っていた精霊たちが手を上にあげた状態で止まる。


 

 『チカラ、あげル!』



 4人の精霊が声を揃え、上にあげていた手を下した。

 子供の周りで揺蕩っていた紫色の輪が子供に吸い込まれていく。

 全部吸い込まれたのを見た4人の精霊は笑いあいながら消えていった。



 

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