14 テイマーと危機の気配
活動報告を更新しました。よろしければお付き合いください。
「うわぁ可愛い~、私魔物って初めて見ましたよ~」
「ヒキー……」
森から無事に帰ってきた2人はヒーリ草の納品を終えると犠牲のペンダントを購入した『シムーン商店』に寄った後、スターズ亭に戻ってきていた、宿探しをめんどくさがったシュウが朝の時点で部屋を予約していたため、今日も昨日と同じ部屋に泊まることになっている。
ちなみに犠牲のペンダントは入荷していなかったため完全に無駄足であった。流石に早く行き過ぎたかとシュウは思ったが、そもそも入荷頻度がかなり低いらしい。そんな次第で必ずまた買いに来ると店員に念押しして帰ってきたのである。その後、泣きながら問屋に声をかけまくる店員の姿があったのは内緒の話。
そして今は夕飯待ちをしているわけだが、ヒーりんの姿を見たクリムが2人の部屋でヒーりんを弄繰り回しているところであった。なお「ヒキー」はヒーりんの鳴き声である。そのまんまだった。
「わぁ~見た目に反して結構硬いんですねぇ~枕にしたら寝心地良さそう~……ねぇ、もらっちゃだめ?」
「お代官様! それだけは! それだけはご勘弁を!!」
「ヒキー」
「あははは! シュウさん必死すぎておもしろ~」
借金のカタに娘を持っていかれるとばかりにクリムに縋りつくシュウと、その光景を生暖かい目で見つめているアーシェであった。お代官様ってなんだよ。ちなみに本当に持っていかれたら泣いていただろう、シュウが。
「あんまり抵抗がないみたいだけど、クリムは魔物が怖くないの?」
「う~ん、あんまり怖くないですね~、たまに来る地上げ屋さんの方がずっと怖いですよ~」
「ごめんなさい、聞いた私が悪かったわ」
闇の深そうな話なので打ち切ることにした。多分正解である。
「それは良いとしてもお父さんを手伝わなくていいの?」
「う~ん、まぁ今日はお客さんかなり少ないから多分大丈夫ですよ~」
ちなみにクリムの父はヒーりんを見るとその顔からは想像もできない悲鳴を上げて厨房に引っ込んでしまった。元々冒険者をしていたという事なのでなにかトラウマを思い出したのかもしれない、悪いことをしたとシュウは思った。今後移動中などは隠しておいた方が良いかもしれない。
「そういえば近所の人が言ってたんですけど~、ギルドでなんかの魔物の討伐依頼がたくさん出てるみたいですね~なんて言ったかなぁ~たしか~……」
「『フォレストバット』のことね、さっき私たちもギルドでその話は聞いたわ」
「あ、そうだったんですね~、なんでも森の方で大量発生してるとかなんとか~」
そう、現在ブルンネンの森ではフォレストバットが異常発生しており、ギルドがその対応に追われているところであった。と言っても冒険者用の依頼を大量発注するくらいだが、万が一の時はギルドのお抱えに処理を頼まねばならないため呑気にしていられない事情もあった。
もっとも大量発生したからと言って即座に問題が発生するわけではない、しかし放っておくと溢れた分が森から出てきてしまい、街道を行く商人や近隣の村に被害が出ることがある為早急に対処するに越したことはなかった。
ちなみにこれは【レッドダイアモンド】でもよくあることであった。むしろ依頼料が増えるためちょっとしたイベントくらいの扱いであったが、そんなことを思い出していたシュウはあることに気づく。
「フォレストバットの大量発生……?なんだっけ、なんかあった気がするんだけど……」
「シュウ?」
「ヒキー?」
【レッドダイアモンド】におけるフォレストバットの大量発生、そこには何かしらの意味があったはずだが、その『何か』が思い出せない、シュウは歯がゆい思いを隠して曖昧な笑みを浮かべた。
「ううん、なんでもない。それより明日はどうする?僕たちもフォレストバットの依頼受けてみる?」
今までは依頼されたモンスターを指定数分確実に討伐する自信がなかったため、あえて討伐系の依頼は受けてこなかったが、大量発生してるとなれば別だ。
なにせ目的のモンスターがうじゃうじゃいる上に、討伐数に下限はあれど上限はないのだから、倒せば倒すだけ報酬が受け取れるシステムとなっている。フォレストバットは経験値効率は低いがアーシェの魔法で一撃なこともあり、基本的には受け得である。
「私はそれで構わないわよ、どうせ明日も今日とやることは変わらないわけだし、ちょっとおまけが付くくらいのものでしょう?」
「アーシェが良いなら明日の朝一にギルド行ってから森に向かおうか――さて、下から良い香りがして来たし、そろそろ降りておこうか」
どうやら1階で食事の準備が整ったようだ、気づくとクリムの姿も見当たらないため途中で手伝いに行ったのだろう。なんだかんだで気の利く良い子であった。
結局その日は『何か』を思い出せず、翌朝を迎え、ギルドで依頼を受けるとその足で森に向かうことになった。
その『何か』はその後、最悪のタイミングで、そして最高のタイミングで思い出すことになることを、この時のシュウはまだ、知らない――
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