12 テイマーと真実
本日2度目の投稿です、読み飛ばしにご注意ください。
シュウは今日も今日とて困惑していた。悪徳商店(シュウの感想です)において、お財布が軽くなっていくことに絶望しながら会計を済ませてからというもの、アーシェが露骨にボーっとしているのである、一応話しかければ返事は返ってくるものの心配であった。
恐らく昨日から色々あって疲れたのだろうと考えたシュウは少し早いが『スターズ亭』に戻ることに決めた。アーシェにそのことを伝えると生返事が返ってきたため、2人で向かっている途中である。
そんなこんなで様子のおかしいアーシェだが、その胸中は例の『虹のアミュレット』のことについて一杯であり、アーシェは自身が虹のアミュレットを託された瞬間を回想していた。
――姫様! アミュレットの秘密を知る者以外には心を許してはなりませんぞ!
追手から自分を逃がす際、隠し持っていたアミュレットを渡しながら発せられた、爺の最期の言葉だ。
実質アミュレットの秘密を知っているのは自分だけであることは疑いようがなく、アーシェはこの言葉を『誰にも秘密を明かしてはいけない』と曲解していた。しかし今隣を歩いている問題児の問題発言によって事態は混迷を極めていた。
聞いてしまえば楽になるのかもしれないが、もし、もしも、確率は万に一つもないと思うが、自分を追ってきた『間者』であった時のことを考えると恐怖に身を捩りそうになった。そもそもギルドで騒動を起こした際にあんなタイミングで勧誘をしてきたことも今となってはタイミングが良すぎたように思え、その考えを助長させていた。もっとももし本当に『間者』であればとっくの昔にアーシェの命はなかったし、実際当の本人は真の意味で何も考えていなかったわけであるが。
そんなシリアスな思考の無限回廊に隣を歩く仲間が閉じ込められていることなど露知らず、暇を持て余したシュウは事あるごとに話しかけ続けていた。
「それでさ、明日はヒーリ草集めながら時間が許す限りレベルアップを目指そうと思ってるんだけど、しばらく狩りはアーシェの魔法頼みになるから、僕は戦闘に参加せずヒーリ草集めててもオッケー?」
「……ええ」
「良かった、あとはまた泊りにならないようになるべく早く戻ろうか、もしウッドゴーレムが居れば倒してから帰ってきても良いけど、もしいなかったら早めに見切りを付けて帰ろう」
「……ええ」
「……おしり揉んでもいい?」
「……ええ」
「う~ん、重症!」
シュウは諦めた。ちなみにさりげなく全編にわたって相当に酷い事を提案していたのは内緒だ。
とはいえ流石にずっとこのままでは困る。出来れば明日の朝までには治っておいてほしいものだ。
などと考えているうちにお目当てのスターズ亭に到着した。少し早いからか人の気配をあまり感じない。そのままスルーして歩いていきそうになったアーシェを引っ張りながら入店する。
「いらっしゃいませ~、ってああ! シュウさんじゃないですか! 昨日帰ってこなかったから心配したんですよ!!」
「あ゛、やっべー忘れてた」
ロビーで対応してくれたのは宿屋の看板娘『クリム』であった。歳はシュウの2つ下だが、強面の店主の遺伝子を奇跡的に跳ねのけた天使であると持て囃され、この界隈では可愛がられている。実際将来は美人に育つだろうなとシュウは確信していた。
「お金を先に払ってくれていたから文句は言いませんけど~、次からはこういう事無いようにしてくださいね」
「ハイ、ハンセイシテマス……というわけで今日も部屋を借りたいんだけど、空いてる?出来れば2人分で、あと食事もお願いしたいんだけど」
「切り替え早いですね~、ええっと今日は1人部屋は一杯ですね、2人部屋で良ければご案内できますが」
「っていうことみたいだけど、アーシェはそれでもオッケー?」
「ええ……え゛?」
「大丈夫みたいだからそれでお願いするね」
「わかりました! ではお部屋の確認をしてきますので少々お待ちください~」
「ちょ、ちょっと待って! 流石にそれは良くないでしょ!」
最悪のタイミングで我に返ったアーシェはクリムを引き留めようとしたが、その手をすり抜けるようにさっさと走り去ってしまった。
「え~なんで? 2人部屋の方が格安だし、1人部屋一杯みたいだから別の宿探さなきゃだし、めんどくさくない?」
「面倒だとかそういう問題じゃなくて! その、そういうの良くないと思うし……」
「だから、なして?」
「それはその……と、とにかく私たちにはまだ早いわ! そ、その、道徳的? にも良くないと思うの!」
アーシェも流石に若い男女が同じ部屋で一緒に過ごすのは問題だと感じていた、別に間違いが起こるとまでは考えていないが、まだ出会って3日しか経っていない事を考えれば常識の範囲的だと言えるだろう。
一方のシュウは何言ってんだこいつと言わんばかりの視線でアーシェを眺めていた。ボケているわけではなく本当にアーシェの言わんとすることが分からないのである。しかしこのままだと宿探しをする羽目になりそうなので仕方なく理詰めで畳みかけることに決めた。
「道徳がどうこうはよくわかんないけど、そもそももう既に一緒のキャンプで過ごした仲なわけだし、多分今後パーティを組んでいればまたこういう事あると思うよ。2人部屋の方が打ち合わせもしやすいだろうし、まぁアーシェがどうしても嫌だって言うなら考えるけどさ」
「うぅ、それはそうかもしれないけど……」
「お2人とも準備出来ましたよ~――あれ? どうかなさったんですか?」
「なんでもないよ、それじゃ案内よろしくね。ほら、アーシェも」
「うううう……わかったわよ、もう」
結局良い返しが思いつかないアーシェが早々に折れる結果となった。もっともどう切り返しても結局未来が変わることはなかったであろうが。
2人が案内されたのは前回シュウが泊まった2階部屋の丁度真向かい、部屋の半分はベッドに支配されており、前世で言うところのビジネスホテルに近い内装である。ちなみにシャワー室とトイレも完備している。シャワーはどこからともなくお湯が出るし、トイレは水洗式だ。魔法って便利(シュウ談)。
ちなみに当然のことだが、ベッドが2つに分かれていることにアーシェはこっそり安堵していた。
「それではお食事の準備が整いましたらお声掛けさせていただきますね~、多分1時間後くらいになりますので、それまでゆっくりしていてください~」
案内が終わるとクリムはパタパタと1階に戻っていった。必然的に2人きりの状況になり、一度は落ち着いたアーシェの緊張は最高潮に高まりつつあった。
「さぁてと、ご飯の前にシャワー頂いてきちゃおうかなぁ……あ、疲れてるみたいだしアーシェ先入る?」
「ひぇ! わ、私は後で大丈夫です……」
どうしてよりによってそのチョイスなんだとアーシェは心の底から能天気なシュウを恨み続けた、恐らく本人に自覚がないのがまた憎らしい。しかしシャワーを浴びに行ってくれればその間は1人になれるし、その間に心を落ち着かせられると自分に言い聞かせこの状況を乗り切ろうとしていた。
「そっか~それじゃあお先に失礼するね」
しかしあろうことかそう言うとシュウはおもむろに装備を外し、自分の服に手をかけると、そのまま脱ぎ始めてしまった。アーシェは一瞬呆けてしまったが、すぐ我に返ると見てはいけないと慌てて手で目を覆い隠し、シュウから顔を背けた。
「き、きゃあ! ななな何をしてるのよ!?」
「きゃあって、そりゃシャワー浴びるから服脱いでるだけなんだけど」
「ど、ど、ど、どうして脱衣場で脱がないのよ! おかしいでしょ!!」
「いやだって洗濯籠ベッドの横にあるし、わざわざあっちで脱いでまた持ってくるのめんどくさいじゃん?」
「そういう問題じゃなくて! 少しは恥を知りなさいって言ってるのよ! 最初から思ってたけどあなた少し変よ!!」
「恥……? よくわかんないけど、別に見られても減るもんじゃないし、減るところもないし」
ぎゃあぎゃあと言い合いは続く。実際には叫ぶアーシェをシュウがいなしているのだが、その間にも布ズレの音が聞こえてくる。脱衣の手は止まっていないようだ。そろそろ近所から文句が出そうというところでアーシェは好奇心に負け、遂に指の隙間から横目でシュウの姿を見てしまう。悲しいかな、彼女もお年頃の女の子なのだ。
――え?
つい見てしまった生まれたままのシュウの身体に、アーシェは本日何度目かわからない衝撃を覚える。
凹凸はないがすらりとした身体のライン。小さな、本当に小さな胸の膨らみ。いつもはフードを被り、纏めているため気づかなかったが、長く綺麗な髪。そして知識としてだけは知っている、見たことはないが、男性ならば付いているはずのモノが、なかった。
「別に女の子同士なんだから、そんなに気にしなくても良いと思うんだけどなぁ」
唇を尖らせ真っ裸でそんなことを宣うシュウに、アーシェは渾身の叫びを上げずにはいられなかった。
「あ、あ――あなた女の子だったのおおおおお!?」
ちなみにこの後、夕食時にクリムにこってり怒られることになるが、それはまた別のお話――
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