05
□ □ □
「ぅえぃ!?」
がば、と起き上がる。
ってか、自分の奇声で目を覚ますって、以外と気分最悪ですね…。
キョロキョロと周りを見れば、周りは真っ暗。
月明かりで浮かぶ上がる室内は、さっきのビップな部屋。
シャレムさんもセシリア皇太子も居ない。
…そりゃそうだ。
「しっかし…何だ?今の夢。」
夢にしてはリアルだった。
ベッドから降りて、大きく伸びをする。
ふと気付く。
「服…変わってる…。」
来てた制服は何処へやら。
今、俺が着ているのは肌触りのいいシルクのパジャマ。
「何て高級そうな…ってか、誰が?」
ぽん、と思い浮かんだのはシャレムさん。
………ないな。
次に思い浮かんだセシリア皇太子。
…ま、男だし、なくはないよね。
ぺたぺたとテラスへと向かう。
窓を開ければ、心地よい風。
空を見上げて、銀色の満月に驚く。
「月まで銀色かよ…。」
その時。
「目が覚めたか?」
セシリア皇太子の声。
同時に、大きな羽音と共に突風が俺に襲い掛かって来た。
「っぷ、何?」
急な出来事で、咄嗟に目を瞑る。
謝罪の声に目を開けば、驚きのあまり言葉を失った。
「どうかしたのか?」
どうしたもこうしたもない。
今、俺の目の前に居るのは、セシリア皇太子…ではなく。
「りゅ、龍!?」
俺の目の前に降りて来たのは、どうにか広いテラスに収まるデカイ銀色のモンスター的龍。
凛々しい顔立ちに、頭部にある鋭い2本の角。
月明かりを照らし返す銀の鱗。
俺、唖然。
でも、声はセシリア皇太子だった。
俺、パニック!
すると、龍の体が淡い輝きを放ち、ポウンと軽い音を立てて人間になる。
銀の髪が風に靡く。
「あの姿が珍しいのか?」
「珍しいも何も…人間は龍になんてなんないし…。」
やはり、あの龍はセシリア皇太子だったようだ。
ムカつくほどの美形だ。
セシリア皇太子は、不思議そうな顔で、俺の言葉に反応した。
「そうなのか?まぁ、我が帝国の人間も、王族以外は変幻せぬが。」
「変幻?」
「龍に転じる事だ。」
あーもう、俺様大混乱!
目が回る。
脳味噌も回る。
その時、体が大きくよろついてしまう。
(あー…床と仲良くチューしちゃう!)
っと思ったのも束の間。
いい匂いに包まれた。
「大丈夫か?」
ごく近場で聞こえた低い声。
思い切り瞑っていた目を、ゆっくりと開いてみる。
最初に目に飛び込んだのは、綺麗な銀髪。
少しの動きでサラサラと流れ落ちる。
そして、ドドンと美形のドアップ。
うわー…コレは落ちない女は居ないな。
…ユキちゃんも落ちそう。
何か、男の俺でも心臓バクバク…。
「おい、星慈?」
「あ、わり。」
一応の謝罪を述べて、体を離す。
いやー…イイ匂いでした。
甘いけど爽やかな匂い。
…雅やか?
「で?皇太子は何してた訳?」
聞いても、じっと見られたまま反応はない。
物凄く居心地が悪い。
「皇太子?」
「それだ。」
びしっと指差され、俺びっくり。
それだって…何が?
「何か違和感を感じていたのだ。その“皇太子”と言うの、止めてくれないか?」
やめるも何も、アンタ、皇太子殿下でしょうが。
我侭言うんじゃありません。
「何が我侭だ。お前が悪い。皇太子と言う割に、お前は一向に敬語にならぬであろう?」
…そう言えば。
「そうですね…。」
「だろう?故に、お前に皇太子などと呼ばれると寒くて敵わぬ。今すぐ改めよ。」
いやいや。
普通、言葉遣いの方を改めさせるでしょうが。
…とは言えない。
言い負かされるのが解ってるから。
「あー…じゃ、何て呼ぶべき?」
「父上たちには、セシーと呼ばれているが…。」
「じゃ、セシルでいいか。」
ほぼ投げやり。
本人も満足そうに頷いてるし、問題はない筈だ。
「で?いい加減、俺の質問に答えてくれない?」
本題からかなりずれた。
「ああ。散歩がてら見回りだ。1日おきにしてるんだが。」
「見回り?なんで?そんな物騒な訳?」
俺とセシリア皇太子は、テラスにある卵みたいなハイギングチェアーにそれぞれ腰掛けた。
柔らかなクッションが、体を優しく包み込む。
「…お前は、何も知らないのだったな…。」
「ま、来たばっかだし。」
むしろ、順応力は高いと思う。
「今、この世界は暗黒の力に支配されようとしている。魔術師達は“エレシュキガル時代”と言っていたな。」
「話に割ってはいるけど…この世界は魔法が使えるの?」
「ん?ああ、皆、生活に困らぬ程度には使える。神々が眠りに就いていても、精霊たちが力を貸してくれるからな。」
ほー…じゃ、セシリア皇太子もシャレムさんも使えるのか…。
俺は使えるのかな。
両掌をムムッと睨み付けるが、何も起こらない。
「勉強しなければ無理だ。この世界の住人ではなかったのだから。」
…何だか疎外感。
胸がチクチクする。
「暗黒の帝王“ジャガンナート”の手下共が、民を襲うんだ。人の血肉を食らって、醜い成長を遂げる。民の魔術では、太刀打ち出来ん。王族に仕える魔術団が、結界を張っているが…最近、稀に侵入して来る輩が居てな。父上も大分年を召された。母上も同様だ。弟妹も居るが…幼過ぎる。私しか、手出し出来る者は居らぬ。」
月明かりに照らされる横顔が、疲れの色を滲ませている。