02
ケホン、と咳払いをすれば、男前が説明を開始した。
「お前は、魔術団にこの世界に召喚されたんだ。」
おお…イイ声。
って、そうじゃなくて。
更に頭の中のハテナが増えた。
「召喚?は、何で?」
「せ、セイ様。」
シャレムさんが何か慌ててたけど、男前…えっと…セシリア皇太子が「良い。」と止めて口を開いた。
「父上、この者は確実に何も知らないでしょう。私とシャレムで頭から説明を致します。宜しいでしょうか…。」
「うむ、仕方あるまい。シャレム、済まぬが頼めるか?」
「承知致しました。」
シャレムさんの了承の言葉に、皇帝陛下は満足そうに頷くと、部屋を出て行った。
残された俺と皇太子とシャレムさん。
何とも気まずいメンバ。
シャレムさんだけなら問題なかったんだけど…。
ってか、正面からの視線が物凄く痛い。
正面。
うん、皇太子だね。
美形に見つめられると、自分がちっちゃくなってくのが解る。
『俺なんか見たら、目が腐りますよ?』的な心境。
「な、なにか?」
我慢出来ずに問い掛けた。
皇太子は、悪びれも無く言いやがった。
かなりムカつく一言。
「いや、思いの外、平凡な者だなと思ってな。」
サックリ。
俺のハートに突き刺さった。
で、俺、爆発。
「ほ〜う、平凡だが、何か問題でもあんのか?ん?美形さんはそんなに偉いわけ?確かに、この国の方々は素晴らしく美形だね。アンタも、シャレムさんも、皇帝陛下も綺麗な顔の造りだよ。でもさ、あんたの中身は真っ黒だね。」
すらすらと出てくる言葉。
セシリア皇太子もシャレムさんも目が点になっている。
王族って言うくらいだからね。
それはもう、キラキラしたお上品な世界で、日々をお過ごしになられたんでしょうよ。
俺の舌業、侮るな!
「ったくさ、皇太子だとか王子様だとか、ぶっちゃけ俺には関係ないから言わせて貰うけど、あんた最低だ。最低にも程がある。お前がどんだけ偉いんだっての。偉いのは、お前のお父さんだろ?所詮、親の七光りか。」
あ〜、スッッッキリ。
相当苛立ってたらしく、俺はいつの間にかソファーから立ち上がっていた。
スッキリした所で、再びソファーに腰を下ろし、テーブルの上の紅茶に口を付けた。
「シャレムさん、この紅茶美味しいね。」
「ぁ、あ、有難う御座います…。」
紅茶を飲んでると、目の前の男が俯いた。
む、言い過ぎたか…?
と心配していると、その肩が小刻みに震え出した。
…まさか、この男。
「く、くくくっ…。」
聞こえて来た声に、「やっぱり…。」と呆れてしまった。
次の瞬間には、弾かれたように笑い声を上げやがった。
「は、初めてだぞっ、くく、私に、そのようにハッキリと者を申す者は…ははっ!」
目尻に薄らと涙が溜まっている。
何もそんなに笑わなくっても…。
何がツボったのかは謎だが、この男がきちんと笑える"人間"だと言うのは解った。
「で?俺に色々教えてくれるんでしょ?」
「ああ、そうだったな。」
…まだ肩が震えてる。
もうそろそろいいんじゃないの?
「名は確か、セイジと申したな。」
「ん、字はこう…って言っても解らないか。」
テーブルの上に水滴で『星慈』と書くが、この人たちって日本語とか漢字とか解らないよな。
……って、アレ?
俺…日本語じゃ…?
「ふむ、この字は隣国のアラドマ王国の字と似ているな。」
「あ、アラドマ?」
「シャレム、地図を。」
「はい。」
思い至った思考は隅に追い遣った。
きっと、考えても埒が明かない。