かながたたろう
だれか絵本にしてください。
昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山へしばかりへ、おばあさんは町工場へパートにいきました。
おばあさんが工場で作業をしていると、コンベアから大きな金型がながれてきました。
「これじゃあ作業のじゃまになるわい」
おばあさんは金型を持ち上げようとしましたが、金型は重たくてうごきません。
そうこうしているうちに金型がひらき、中から元気な男の子がでてきました。
金型から出てきたので、おばあさんは男の子を”かながたたろう”と名付けました。
おばあさんはかながたたろうを家につれてかえり、育てることにしました。
かながたたろうはたくさんごはんを食べ、すくすくと育ちました。
十五になったある日、かながたたろうは言いました。
「社会の歯車として生きるのはいやだ。」
おじいさんとおばあさんは、止めました。
「たろうや。そんなこと言わず、まじめにはたらいておくれ」
しかし、かながたたろうは聞きません。
おじいさんたちとけんかをしたかながたたろうは、とうとう一人で家をとびだしてしまいました。
家をとびだしたかながたたろうは、しげきを求めて、都会へ向かいました。そして、夜のまちで人気者になりました。
お酒を飲みながら、いせいのお客さんに、工場でのできごとをおもしろおかしく話すのです。
工場のことなどよく知らない都会の人たちは、かながたたろうの話にむちゅうになりました。
しかし、かながたたろうは心のどこかで”きょむかん”を感じていました。
そんなある日、さいとうさんというお客さんが、お店にやってきました。
てんちょうは言いました。
「ああ、もうさいとうさんが来る季節か」
さいとうさんは、冬にしか来ないお客さんなのだそうです。
かながたたろうはふしぎに思って、さいとうさんに聞きました。
「あなたはなぜ、冬にしか来ないのですか?」
さいとうさんは言いました。
「ぼくの家は、農家なんだよ。収穫が終わって落ち着いた冬じゃないと、お酒を飲みになんてこれないよ」
そして、続けてこう言いました。
「きみたちはお酒を飲んでお金がもらえて、うらやましいなあ」
かながたたろうは、そのとき、”きょむかん”の正体がわかったような気がしました。
かながたたろうは、昔のことを思い出しました。
おばあさんは工場で製品を作っていました。おじいさんは山でしばかりをしていました。そして、さいとうさんは田んぼでお米を作っています。
けれど、今のかながたたろうは、なにも作っていません。
「ああそうか、この仕事には”せいさんせい”がないんだ」
かながたたろうは気付きました。
ひとびとを楽しませるのも大切な仕事だけど、そんな人ばかりでは、社会はなりたたないのだと。
立ち尽くすかながたたろうに、てんちょうは声をかけました。
「どうした、かながたたろう」
かながたたろうは、てんちょうに言いました。
「すみません、この仕事をやめさせてください」
てんちょうは、引きとめました。
「だめだ、しゃっきんはまだのこっているぞ」
てんちょうはかながたたろうをだまして、ただどうぜんのおきゅうりょうで働かせていたのです。
困ったかながたたろうは、配管内にたまっていたドレン水を、てんちょうめがけてふきかけました。
「えいっ、くらえっ!」
てんちょうがおどろいているすきに、かながたたろうは逃げだしました。
そしてそのまま、おじいさんとおばあさんのところへもどりました。
「かながたたろうや、よくかえったね」
おじいさんとおばあさんは、もどってきたかながたたろうを、あたたかくむかえました。
「おじいさん、おばあさん、都会はこわいところでした。ぼく、やっぱりまじめに働きます」
町工場にもどったかながたたろうは、もとの機械にもどり、金型として今日も製品をつくるのでした。
がっちゃんがっちゃん。