ユーディット
タケル達が市場で魔法貴族のバカ息子にからまれているのを、目にした少女は人族ではなかった。
端正な顔立ちに金色の長髪と長い耳、そう彼女はエルフ。
名をユーディット。
人族の町ではめったに見ることのないエルフが、偶然里から魔法王国に来ていたのだ。
亜人を連れた若者が、下品な魔法貴族にからまれている。
まだ若者のくせに、あれだけ見目麗しい銀髪の少女を二人も連れていれば、やっかみも受けるだろうに、助勢が必要になるかもしれない。
「なッ!」
ユーディットが事態を見守っていると、突然タケルが放った魔法に思わず声をあげる。
あんな魔法は今まで見たことがない。
エルフ族は魔術に長けた種族、生まれながらに大きな魔力を持っているのに加えて、風や水の属性との高い親和性も身に付けている。
そして人族よりもはるかに長い寿命を生かして、長年魔術の研究を続けてきた。
魔法に関しては人族より一歩も二歩も先んじている。
そのユーディットにしても、全く見たことのない系統の魔法。
「フウン、面白そうね。」
ユーディットは好奇心旺盛な少女であった。
寿命の長いエルフ族にとっては、まだ幼いとさえいえる年齢であったが、エルフの里で繰り返される退屈な日常にうんざりして里を飛び出した。
毎日、毎日、同じ獲物を狩って、同じ食事を食べて何の変化もない生活。
他種族との交流もほとんどなく、テリトリーの森に引きこもっている。
ただ大人たちの言い分も一理ある。
エルフの寿命は人族などと比べると遥かに長い。
長老と呼ばれる者達の中には、千を超える年月を生きている者も少なくない。
これだけ長寿であるエルフが、刺激を求めて生活したら大変なことになってしまうだろう。
エルフは生まれながらの精霊使い、特にユーディットは里の若者の中でも群を抜いた才能を持っていた。
三桁にも満たない齢で風の大精霊との契約をなし、次世代のリーダーになるのは間違いないと言われてきた。
もっとも次世代と言ってもそれはずっと先、そう数百年もの未来の話だ。
そんな先の話ばかりしている大人達にも、ユーディットはうんざりしていた。
長老エルフの制止も聞かずにさっさと里を飛び出して、人族の国へやって来た彼女は、刺激に満ちた人族の生活に興奮した。
教会や城のようにわざわざ大きな建物を建てて、様々な名目で多くの人々が集まる。
その一方でこの市場の様に小さな屋台を並べて色々な物を売り買いする。
森で暮らして木々を簡単に加工した物だけで満足しているエルフの者達には、考えられない行動だ。
中でもユーディットが人族の町に来て、最も気に入ったのは食べ物である。
様々な香辛料やソースで味付けされた食べ物は本当に美味しい。
エルフの食べ物は森でとれた果物をそのまま食べるか、獣の肉などは軽く焼いて食べるだけ、実に味気ない。
人族の食べ物にはまってしまった彼女は、毎日市場に通い美味しそうな物を見つけては買い食いしていた。
その一方で人族の町では嫌な事もたくさん目撃した。
まず何より彼らが日々の糧を得るのに、苦労していることに驚いた。
エルフはほぼ自給自足の生活で、必要な物はすべて森の木々が与えてくれる。
食べ物を手に入れるために争うなんて、エルフの里では考えもしなかった。
それに彼らが思っていた以上に欲に弱いということも分かった。
刺激の多い生活は楽しいがそのため争いごとも多い、市場で酒場でユーディットは毎日のように争いごとを目にした。
当初思い描いていたものとは違った人の生活にも飽き始めて、そろそろ故郷の里に帰ろうかなと思い始めていた時に、彼女はタケル達を見つけたのだ。
エルフ娘のユーディットの登場です。
活発で好奇心旺盛なトラブルメーカーです。
彼女の活躍?にご期待ください。




