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オーガ族の刺客 その1

その日、銀狼族が新しく再建した里をオーガの刺客が襲った。

タケルと銀狼族を探していたオーガ族が、ついに移転した里の場所を発見してしまったのだ。


中心となるガザルドガは百人戦士長を務めたこともある熟達の戦士、彼を含む3名のオーガは裏切り者のバルナドの先導で里に侵入して来た。

彼らは近々予定されているオーガ軍の侵攻を前に、不安要素を取り除くためタケル達を探していた。

もっともそれは名目にすぎず、真の目的は復讐である。


オーガは自らの同胞を手にかけた者を、決して見逃すことはない。

それは同族愛などという生易しい感情ではない。

オーガに反抗する者を一人も見逃さずに報復することで、他の部族に対して自分たちは支配者であり反抗する者を決して許さないというアピールとしているのだ。

その証拠にタケルに敗れて、砦に逃げ帰って来たギャジデルガは既に処刑されている。

人族に後れを取るような惰弱な者は、同胞と言えど必要としていない。


移転した銀狼族の里と見つけるために生かしておいたバルナドも用済みだが、この愚かな男はまだそれに気がついていない。


「バルナドよ、ここで間違いないな。」

「はい、間違いありません。ここが移転した新しい銀狼族の里です」


「ギャジデルガをやった人族の魔術師は俺がやる。他の雑魚どもは、お前らの好きにしていい。」


里の探索を始めたガザルドガが手近にあった小屋の扉をぶち破ると、逃げ遅れた銀狼族の少女ミリアルが小屋の中で震えていた。


「おとなしくしろ。タケルとかいう人族はどこにいる。」

「タケル様・・・、し、知りません。」

ガザルドガはタケルをかばうミリアルの首を、片手で握って軽々と持ち上げた。


「素直に吐かないとこのまま握りつぶすぞ」

「アウウウ、く、苦しい・・・」


「タケルよッ!早く出てこないとこの娘の命がなくなるぞッ!」

ミリアルを持ち上げたまま里の真ん中まで進むと、ガザルドガは里中に響く大声で、タケルに向けて宣告した。



ガザルドガが里の中心で大声をあげた時、オーガの侵入に気づいた俺は、セフィアルとスノウを連れて書庫より飛び出していた。


「止めろッ!」

俺が巨大なオーガに全速で向かって行くと、敵はミリアルを握る腕に込めていた力を緩めた。


「バルナドよ。この人族がギャジデルガをやった男か?」

「はい、そうです。間違いありません。この男がタケルです。」

「そうか・・・」


ガザルドガが手持ちのモーニングスターをバルナドに向けて振り下ろす。

「グワァッ、ど、どうして・・・?」

頭を砕かれたバルナドはあっけなく絶命した。


「仲間を殺したのか。」

「仲間だと。生き延びるために同族をも売る、虫けらにも劣る男よ。生きている価値などあるまい。」

種族が違うとはいえ、つい今しがたまで行動を共にしていた者を殺しても何も感じてはいないようだ。


「ミリアルを放せ。子供を人質に取るなんて卑怯だぞ。」

「人質?ああこいつのことか、ほら、受け取れ。」

オーガは人形でも扱うように、ミリアルを大きく放り投げた。

俺は慌てて駆け寄ると、ミリアルを抱きとめる。

その瞬間を狙ってガザルドガが、モーニングスターを大きく振るう。


ガザルドガのモーニングスターは先端の鉄球が着脱自在になっており、鎖の付いた巨大な鉄球が恐ろしい勢いで俺とミリアルを直撃、プロテクション・スフィアに遮られてゴォォンと衝撃音を響かせる。


「なるほど、かなりの使い手というのは間違いないようだ。これは楽しめそうだな。」

ガザルドガは、鬼のような容貌をゆがめて笑う。


今の一撃は防がなければ、確実にミリアルは殺されていた。

俺の怒りは沸点に達した。

俺を倒そうとしただけではない。こいつは里の人達の命のことなど全く考えていないのだ。


オーガは魔物ではない。

人族と敵対しているとはいえ、彼らは亜人、つまり獣人やエルフ等と同じ存在なのだ。

魔物のように簡単に始末するというわけにはいかない。

殺したくはない。

だけど、こいつを野放しにしたら、里の人達は虐殺されるだろう。

見過ごすわけにはいかない。


「オマエには手加減はいらないな。」

俺は覚悟を決めて、メテオサークルを展開すると、召喚した隕石を開放する。


大質量のメテオの直撃を、ガザルドガは巨大な盾で防いだ。

かなりの衝撃だったはずだか、このオーガはしのぎきった。

やはり以前に戦ったオーガよりも格上らしい。


敵は頭上で巨大な鉄球を振り回し始めた。

数百キロはありそうな鉄球が、ゴオオオと空気を切る音を上げて旋回する。


「喰らえッ!」

高速で放たれた鉄球が、俺を守っていたメテオサークルのもう一つの隕石を粉々に砕いてしまった。

このオーガはアステル系の魔法を簡単に攻略してしまったのだ。



一方で侵入した他のオーガの一人には、セフィアルとスノウがコンビで立ち向かっていたが、こちらも苦戦していた。

スピードでは、セフィアルとスノウが圧倒的に上回っている。

だが、パワーが足りていない。

攻撃力に劣るセフィアルとスノウには、敵にダメージを与える手段がない。


「スノウ、ビリビリ電撃です。」

「ウォン!」

セフィアルはスノウの助力を得て、帯電状態からの攻撃をオーガに浴びせる。

バァァンと電撃がオーガを直撃するが、敵は何事もなかったの様に棍棒を振り回してくる。


「き、効いていないッ?」

「クゥゥゥン」

魔法に高い抵抗力を持っているオーガには得意のコンビネーションから放つ電撃でもダメージが通らないようだ。

最大の攻撃オプションを封じられて、セフィアル達は押され始めた。



もう一人のオーガには、銀狼族の獣戦士たちが総出で対峙していた。

こちらはもっと劣勢だ。敵が巨大な棍棒を一振りするたびに、銀狼族の戦士が一人また一人と倒れていく。

戦闘力が違い過ぎる。どうみても勝ち目はない

彼らにできることといえば、せめて仲間を逃がすために少しでも時間を稼ぐことだけだった。



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